新車販売が絶好調のトヨタ。2020年度の国内登録車販売のシェアでは5割を超えた。3月決算セールの売れゆきも好調で、今後もこの勢いは収まらず、9月半期決算セールでもトヨタは圧倒的な強さをみせつけそうだ。
というのも、トヨタは年内に次期型のアクアやランドクルーザーなど、新型車を続々と発売する予定があるからだ。
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新型車攻勢でさらなる販売台数アップが確実視されるトヨタは、9月の半期決算セール、そして年内にどこまでシェアを拡大させるのか? 新車販売事情に詳しい小林敦志氏は次のように考察する。
文/小林敦志 写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】圧倒的じゃないか!! シェア拡大が止まらないトヨタ驚異の販売力
■コロナ禍でトヨタブランドは余計に強さを見せた
より確かなブランドステイタスを持つものを選びたいという消費者マインドも影響している。写真のハリアーも人気だ
予想はしていたが、2020年度(2020年4月~2021年3月)の年間新車販売統計が出ると、改めて“トヨタ一強”が強固なものなのが客観的事実として伝わってきた。
自販連(日本自動車販売協会連合会)統計によると、2020年度の登録車新車販売台数は289万8884台に対し、トヨタ(レクサス含む)の登録車販売台数は148万1970台となり、登録車全体の約51%を占めている(トヨタブランドとしては軽自動車の販売台数は微々たるものなので、あえて登録車のみを例示した)。
トヨタ一強は新型コロナウイルスの感染拡大によって、より鮮明化した。2020年5月にトヨタ系ディーラーの全店でトヨタブランド全車(一部を除く)を併売化させたことが大きいといえるのだが、さらに “コロナ禍”での消費者の購買行動変化を的確に捉えていたこともあるようだ。
購買行動の変化とは、新型コロナウイルスの感染拡大により、行動自粛が要請され、海外旅行どころか国内旅行もままならず、時短営業によって外食にも出かけられない。そのようななかで、富裕層以外でも貯蓄が増える世帯が増加。そこで数少ない“プチ贅沢”として新車購入が注目された。
しかも世間体を気にして、ベタベタな高級車を避けて、見た目はそれほど高く見えないモデルの最上級グレードにオプションテンコ盛りという、“隠れ高額車”を購入するケースが目立っており、トヨタはその変化を的確に捉えていたのである。
また非常時特有というべきものなのか、より確かなブランドステイタスを持つものを選びたいという消費者マインドも影響したともいわれている。
■新型車という“客寄せパンダ”を積極的に投入
2020年度にアルファードは年間で10万台強売れた背景には、ほかの新型車が投入された効果もある
ただ、これだけがトヨタ一強を顕在化させたわけではない。新型車も積極的に市場投入していたのである。コロナ禍直前にはヤリスを正式発売し、コロナ禍のなかでもハリアーやヤリスクロスといった新型車を発売し、発売早々から長期の納期遅延を招くほどの大ヒットモデルとなった。
燃料電池車である新型ミライや、GRヤリス、RAV4 PHVなどの話題性の高いモデルも投入し、RAV4 PHVは前述したプチ贅沢需要もあり、発売時には年内販売予定分があっという間に売り切れとなった。
ディーラーにとって新型車の存在は“人寄せパンダ”効果が期待できる。新型車があるとショールームを訪れやすくなり、来店客が期待できるのである。
そのため、ディーラーでは朝のミーティングなどで、「ほかのクルマを見にきているお客様もいるから、新型車にこだわらず積極的にアプローチするように」とマネージャーからハッパをかけることもあると聞いている。
全店併売の影響は大きいのだが、話題の新型車を積極的に市場投入したことも、アルファードを年間で10万台強(2020年度)売ってしまったことには少なからず貢献しているはずである。
年度末決算セール終了直後に、トヨタ系以外のディーラーへ行くと、「トヨタさんに対しては、金利を下げるぐらいしか対抗できない」とか、「うちじゃとてもじゃないけど、アルファードのようなクルマを月販平均で1万台売ることはできない」など、ギブアップ宣言のようなコメントが多数聞かれた。
■トヨタの一強化は今年度さらに浮き彫りに
新型ランドクルーザー(写真は編集部が作成した予想CG)
しかし、いまのトヨタ一強状態は2021年度(2021年4月から2022年3月)に入ってから、さらに先鋭化していきそうなのである。
前述したように“人寄せパンダ”の存在については、すでに7月末に新型アクアが、そして8月下旬には新型ランドクルーザーがデビュー予定となっている。
スペックなどの情報だけが先行し、新型アクアがどのようなエクステリアやインテリアを採用するかについては、はっきりしていないが、「すでにヤリスにハイブリッドがあることを考えると、ヤリスとキャラクターの被らないやや上級イメージが与えられると売りやすい」といった期待の声も販売現場からは聞こえてくる。
現行アクアは2011年12月にデビューしているので、すでに10年目を迎えている。
アクアは、いまではレンタカーやカーシェアリングなどのフリート販売がメインとなっているようだが、2020年度の年間販売台数は4万8115台(月販平均約4000台)で、登録車のみでの通称名(車名)別販売ランキングでは15位に入っており、量販モデルとしての実力をいまもなお見せつけている。
モデルレンジが長いので、現行アクアをすでに数台乗り継いでいる個人ユーザーもおり、いまも現行型に乗るユーザーもかなり多くいるので、予約受注段階で、すでにこのようなアクアユーザーからの乗り換え需要により、予約受注が積み上がるのは必至。
そのため、発売直後から納期遅延が長期化する可能性が充分高いともいわれている。「次期型はないのでは?」ともいわれていたなかでの新型登場となるので、量販モデルでありながら話題性も充分に高い。
新型ランドクルーザーは、2020年5月から全店併売化により扱うようになったトヨタ系ディーラーでは、「ランクルは、そんなに簡単に売れるクルマではないですが、新型がデビューすれば集客効果は充分に期待できます」とはセールスマンの話。
結局は、以前専売だったトヨタ店がメインとなって売っていくのだろうが、それにプラスアルファでほかの販売チャンネルでも新型ランドクルーザーを販売していくので、納期遅延発生は想定して購入プランを立てる必要があるだろう(発売前から活発に動くこと)。
■トヨタのラインナップはオリンピックより強い!?
今年国内の発売が予想されるカローラクロス
さらに、新型アクア、新型ランドクルーザーに近いタイミングで、すでに海外デビューしている“カローラクロス(カローラの名前のつくクロスオーバーSUV)”が国内デビューするのではないかともいわれている。
車格としては“RAV4以下ヤリスクロス以上”といったところになる。そのため、例えば「カローラクロスではいまひとつ」というお客には、RAV4またはヤリスクロスを薦めればいい。
そういった理由でも、他モデルの販売へも弾みがつくので、現場のセールスマンもカローラクロスの国内デビューを心待ちにしている。
しかし、「デビュータイミングが本当に気になるところです。現状ではヤリスクロスが長期の納期遅延となっており、現状では越年納車も見えてきました。
仮に9月あたりにカローラクロスがデビューしたとすると、予約受注で初期ロットの車両のなかに希望仕様があれば、カローラクロスデビュー以前に受注していたヤリスクロスのお客様より納車が早まってしまうことになります。
どちらを売るべきか、トラブル発生リスクを考えると悩ましいところですね」とは現場のセールスマン。
さらに情報を探ると、ノア系のモデルチェンジが年末、そして2022年春にはトヨタブランドのBEV(純電気自動車)がデビューするのではないかなど、とにかくトヨタは新型車デビューの話に事欠かなくなっている。
東京オリンピック&パラリンピックの開催はいまだにはっきりしていないが、開催されれば世の中は“お祭り騒ぎ”になってしまい、ディーラーのショールームにお客を呼び込むのは、かなり厳しいものとなる。
ただし、新型車があれば話は別。まさに“人寄せパンダ”効果は絶大なのである。
■納期遅延による受注残車両は“貯金”のようなもの
現状で納期遅延が顕著なヤリスクロス
平時でも7月中旬から8月いっぱいぐらいまでは、お盆の長期休暇もあり年間でも新車販売業界では指おりの“閑散期”と呼ばれている。しかし、その閑散期を話題の新型車などの力も借りて、それほどパワーダウンせずに乗り越えれば、9月の年度締めでの半期決算セールでも、パワー全開で対応することが可能なのである。
トヨタの販売力の強みは納期遅延なども手伝い、“受注残”車両を常時多数抱えていることもある。
この受注残車両はいわばディーラーやセールスマンにとっては“貯金”のようなもの。そのため、毎月受注残車両のなかから、どれぐらい当該月にナンバーをつけて納車できそうかと確認し、それをノルマから差し引き、残りを新規受注としてセールスマンは追いかければいいのである(販売実績は原則当月登録台数でカウント)。
現状で納期遅延が顕著なのはハリアーとヤリスクロスになっている。今後はこれに新型アクアや新型ランドクルーザー、場合によってはカローラクロスが納期遅延車として加わることにもなっていくだろうから、2021年度はトヨタ一強キープどころか、さらにそれが先鋭化することも充分にありえるのである。
ただし、東京オリンピック&パラリンピックが開催されるかどうかもはっきりしていないほど、いまの“非常時”では先行きは不透明。とりあえずは9月の2021年度上半期末決算セールの結果次第で、それ以降のより詳細な方向性は定まっていくのではないだろうか。
本稿執筆時点で、すでに5月に入っている。納期遅延車の多いトヨタでは6~7月の夏商戦終了後、9月の2021年度上半期末決算セールもそろそろ視野に入ってきている。
■シェア拡大よりもトヨタユーザーの囲い込みが重要
2020年5月にトヨタ系ディーラーの全店でトヨタブランドの全車(一部を除く)を併売化させたことが大きい
自販連統計をもとに、2020暦年締めでの新車販売総数(登録車)におけるトヨタ車の割合は約53%。ここ数年は45%前後とほぼ横ばいで推移していたので、一気にシェアアップしたことになる。
これは、なんといっても2020年5月からの、トヨタディーラー全店での全車種(一部車種を除く)併売化の影響が大きいのはいうまでもない。それまで一部ディーラーでの専売だった車種が全店扱いとなり、まずはトヨタユーザーのトヨタ車への乗り換えが活発になったことが大きいといえる。
販売現場で話を聞くと、2020年度(2020年4月から2021年3月)後半になると、他メーカー車ユーザーの来店も目立ってきたというが……。
2020年度の年間販売台数をみると、登録車全体の新車販売台数のなかでのトヨタ(レクサス含む)車の比率は2020暦年締めより2%ほど下がっている。年度末へ向かいトヨタ以外のメーカーも活発な販売活動を展開した結果ともいえる。
とはいうものの今後もトヨタは、シェア拡大というよりは、収益向上のほうがより意識されていることが考えられる。コンパクトカーは台数が売れるが、ライバルとの競合(値引き競争/トヨタディーラー同士もあり)も多いので、ここばかりに軸足を置くと全体の収益悪化にもつながる。
免許証の自主返納増加などもあり新車販売市場の縮小傾向に歯止めのかからない日本では、積極的なシェア拡大よりも、トヨタならば、トヨタユーザーを他メーカー車に逃がさない、つまり囲い込みをより強固にするほうが優先課題なのである。
■コロナ禍でも攻めるトヨタはもう止められない!?
次期アクア(写真は編集部が作成した予想CG)
ただ、トヨタ一強といえども自販連統計における車名(通称名)別販売ランキング(登録車)で、トヨタは今度の半期決算セールでは上位10車独占は狙ってくる可能性は高い。
次期型アクアはノートを意識している部分もあると思えるので、トヨタは他メーカー車に対しての“出る杭を打つ”的対策も目立ってくるかもしれない。そのような“ライバル潰し”などが功を奏して、副産物としてシェアアップという結果になることも充分に考えられる。
残念ながら、ワクチン接種が世界でも下位レベルで遅れている現状では、2021暦年ではなく、2021年度内(2022年3月まで)でさえ、新型コロナウイルス感染拡大が目立った収束傾向を見せることは難しいとさえいわれている。国民への行動自粛要請は今後も続くものとされていくだろう。
そうなると、新車販売が“プチ贅沢”志向を受けて好調を維持していくことも充分に考えられる。トヨタはこのコロナ禍でも積極的に攻めてきている。
新型車の数はメーカーマターの話となってしまうが、トヨタ系以外のディーラーが、いまのトヨタ系ディーラーに充分に対抗できるような、“ニューノーマル時代”に対応した新車販売のあり方を、模索でもいいからはじめないと、いまのトヨタ一強はますます目立ってくることになっていくだろう。
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ここまでシェアを取ると独占禁止法に抵触しないものなんだろうか?