ホットなクロスオーバー
4万5000ポンド(639万円)以下で購入可能な俊足クロスオーバーモデルの名をじっくりと考えてみて欲しい。
数々のモデルが頭に思い浮かぶだろう。
クプラ・アテカの名がすぐに出て来るだろうが、もう少し予算に余裕があれば、より大型のボディにツインターボディーゼルエンジンを積んだスコダ・コディアックvRSを手に入れることが出来る。
プレミアムなモデルがお好みならアウディSQ2とBMW X2 M35iが候補だ。
もう直ぐGLA 35も登場する予定だが、これでメルセデスAMGのラインナップ中、半数がクロスオーバーモデルになると聞けば、やや残念に思うかも知れない。
さらに、フォード・ピューマSTと日産の新型ジュークのニスモ・バージョンも登場が噂されており、この2台は、306psのパワーが公道上ではそのボディの大きさを「ミニ」だと感じさせるミニ・カントリーマンJCWのライバルとなるだろう。
そして、コンセプトのみで実際には登場することのないモデルというものも存在する。
かつてアバルトではアルファ・ロメオ4Cのエンジンを積んだ500Xのプロトタイプを創り出しており、プジョーはダカール・ラリーのウィニングマシンを思い起こさせる2008 GTiというモデルを検討していた。
業界の事情通ならこうしたプロジェクトの話は枚挙に暇がなく、その多くが実際の路上へとデビューしている。
つまり、いまこのホットなクロスオーバーというカテゴリーにはさまざまなモデルが登場しており、市場の求めに応じてその数はますます増え続けるだろうということだ。
だが、それが本当に必要かどうかというのは別問題だ。
舞台は雨のウェールズ
だからこそいまわれわれは、強烈な雨が降り続く1月のウェールズで、待避所のなかに立ち尽くしている。
今回ともにこの地を訪れたのが、われわれがもしかしたら史上最高の「お手頃な」ホットクロスオーバーかも知れないと考えるフォルクスワーゲンのニューモデル、TロックRだ。
そして、このクルマの存在が今回ウェールズへとやってきたふたつ目の理由へと繋がっている。
TロックRが真に卓越したモデルだとすれば、このクルマは四輪駆動システムを備えたいま最高のホットハッチの1台を打ち負かすことの出来る、初のホットなクロスーバーになれるのだろうか?
これまでのところ、その答えというのは常に「生きているうちには無理」というものだった。
そして、3週間前であれば、誠に遺憾ながらここで登場すべきは同門のゴルフRだったはずだ。
だが、すでにこのクルマはディスコンとなっており(TロックRが実質的な後継モデルと言えるかも知れないが、新型ゴルフRももうすぐ登場予定だ)、だからこそ、次に高く評価するBMW M135i xDriveを連れ出すことにしたのだ。
このクルマは英国版AUTOCARのテスターたちがメルセデスAMG A35よりも頻繁にそのステアリングを握るモデルでもある。
純粋なスポーティさ
それぞれのラインナップでトップに君臨するモデルとして、このTロックと1シリーズには驚くほどの共通点がある。
どちらも自社製2.0L 4気筒ターボエンジンを積んで、0-100km/h加速4.8秒を達成するとともに、多くのBMW信者には悪夢かも知れないが、前輪に多くのトルクを供給するオンデマンド式四輪駆動システムを備えている。
さらに、クロスオーバーモデルの方が背が高く、幅広く、そして短いにもかかわらず、この2台はほぼ同等のキャビンスペースを確保しており、低く構えたBMWの横ではTロックのボクシーなボディスタイルが際立っている。
TロックRの膨らんだフェンダーが魅力的な一方、か細く感じられるリアタイヤとやや大きすぎるグリルを与えられたこの新型1シリーズのスタイリングは、決してBMW最高のものだなどとは言えないだろう。
だが、純粋なスポーティさで言えば、勝者は明らかであり、それは決してクロスオーバーモデルの方ではない。
TロックRのキャビンではスポーティさを感じることは出来ず、これがクロスオーバーモデルを好きになれない理由なのだ。
高く座らせるシートポジションと高さ方向に余裕のあるキャビンがリラックスした雰囲気を感じさせ、大抵のホットハッチよりも快適なリアシートが多くの支持を集めるだろうが、こうした特徴はTロックだけのものではない。
ドライバーズシートからはクリアで良好な視界を確保することが出来るが、その替わりにクルマとの一体感が犠牲となっている。
幸いにも、BMWと同じくらいにシートを低い位置にセットすることも可能だが、そうした場合、まるでキャビンのなかに沈み込んだような、奇妙な感じを抱くことになるだろう。
コートを着たゴルフR
M135iに乗り換えるとまるで無理やり押し込められたような、雑然とした印象を受けるが、それでもより自然に馴染むことの出来るキャビンは、このクルマの3万6430ポンド(517万円)という価格に相応しい質感を備えている。
一方、3万8450ポンド(546万円)というプライスタグを掲げているにもかかわらず、TロックRのキャビンではまるでポロから借りてきたかのようなパーツが散見され、決して価格に見合ったものだとは思えない。
つまり、伝統的なホットハッチという存在のほうが、そのエクステリアとインテリア、双方のルックスとフィールでより魅力的な存在だということだ。
それでも、「これまでもそうだった」と言うかも知れない。
TロックRも一旦その19インチのプレトリア・アルミホイールが回転を始めれば、ドライバーの期待に応え始める。
結局、このクルマは分厚いコートを着たゴルフRであり、TロックRの方がわずかに短いホイールベースによって、多少機敏さで上回るかも知れないが、この2台は同じMQBプラットフォームを共有しているのだ。
お馴染みのEA888エンジンも同じ300psを発揮しており、例えBMWの新B48A20T1型ツインスクロールターボほどのレスポンスは備えていないとしても、どの回転数からでも必要十分なトルクを発揮するその類まれなパフォーマンスに変わりはない。
見事なボディコントロール
電子制御されたカップリングによって、最大50%のトルクを後輪へと伝達しており、フロントにはフォルクスワーゲンのXDS電子制御式ディフェレンシャルロックが搭載されている。
このXDSディフェレンシャルロックは、空転する側のタイヤにブレーキを掛けることで反対側に駆動力を伝えるという、リミテッドスリップディフェレンシャルのような効果を発揮する。
そして、これがゴルフRが時に見事なリアのバランスを感じさせる理由となっている。
確かにすべてのトルクの最大半分までしか後輪へと伝達することは出来ないが、このXDSが見事な制御でフロントへと伝えられるトルクをカットすることで、全体的に見ればリア偏重の駆動力を確保することを可能にしている。
さらに、TロックRのボディはM135iに対してわずか50kg増に留まっている。
もちろん、例え50kgでも違いはない方が望ましいが、1575kgという全体重量からすれば決して大きな違いとは言えないだろう。
もしかしたら、これが695ポンド(9万9000円)のオプションであるダイナミックシャシーコントロール・サスペンションから想像する以上に、TロックRが滑らかな走りを見せる理由の一端となっているのかも知れない。
よりドライな路面であればこのクルマはまさに飛ぶような走りを見せ、大きくサスペンションを動かしながらも、奇妙なほどの滑らかさで見事にボディの動きをコントロールしてみせる。
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