ワンメイクレースのベース車両だがレースに出ない人でもオススメ
同じ車種、そして同条件で競うワンメイクレース。その元祖とも言うべき草分け的な存在が「ヴィッツレース」だ。初代ヴィッツから継続的に開催されており、ヴィッツでSCP10/NCP91/NCP131と3世代にわたり熱いバトルが繰り広げられてきた日本でもっとも人気があるレースである。現在は4世代目で「ヤリス」と名前が変わったことで、「ヤリスカップ」として2021年から開催されている。
悩んだら真似するのが吉! ワンメイクレースカーはチューニングの生きた参考書だった
そのベース車となる「ヤリスカップカー」に乗るチャンスを得た。そして、その体験は「やっぱり最高!」だったのである。
ナンバー付きのままサーキットを走れる専用装備
そもそもヤリスカップカーは1500ccのNAエンジン搭載で、これは2代目ヴィッツからほぼ同じ。そこに6速MTを組み合わせるが、ヤリスカップになってからはCVTでも参加可能となり、CVT車両はレースで同時走行だが別枠で表彰される仕組みだ。
参戦するためには専用のカップカーを買う必要があり、購入時には6点式ロールバー、専用サスペンション、オイルクーラーなどが装備されている。普通のヤリスを購入しても参加はできない。その代わり、さすが自動車メーカーが製作するだけあって、ロールバーと内装の隙間やチリの揃い方など、思わずうっとり見ていたくなるほど綺麗に架装されている。
サスペンションは全員同じで調整箇所はリヤの減衰力調整のみ。タイヤはグッドイヤーRSスポーツS-SPECのみ使用可能。任意で選べるパーツはブレーキパッド&フルード、エンジン&ミッションオイル、ホイール、シートくらいなもの。だからこそほとんど車両の差はない。
ブレーキパッドによるセットとアライメント調整、リヤの減衰力調整くらいしか差のつけようがない。だからこそ、速さはドライバーに依るところが大きく、そのテクニックで差がつく。
先代より剛性アップ&絶妙にソフトなサスペンション
筆者は先代ヴィッツレースにも参戦したことがあり、NCP131はオーソドックスで素晴らしいクルマだった。今回のヤリスカップ車両はどうかというと、まず走り出しからガッチリしたボディを感じられる。フロアが強くなったような印象が強い。
サスペンションは絶妙にソフトで、ラフな操作をすると挙動が乱れる。スパンとステアリングを切っても曲がらない。ある程度手前から、ステアリングをちょっとだけ切っておいて、ソフトなサスやブッシュを潰しておかなければ狙ったポイントで曲がってくれない。だからこそ、脊髄反射的なドライビングは通用せず、しっかりと立ち上がりをイメージしたラインを逆算して思い描き、それに乗せられるように早め早めの操作が必要になる。
この操作はサスがソフトだから必要になることだが、サスペンションが引き締められているレーシングカーでも変わらない。その準備の時間が短くなっているだけで、突然「うりゃ~」っとステアリングを切っても曲がらないのは同じだ。プロはわずかな時間でクルマの準備をした上で瞬時に曲がっているので、スパンと操作しているように見えるが、じつはその準備操作をしっかり行っている。
うまく操作すればリヤを流せる絶妙なポテンシャル
そんな操作が必要とされるので、つまり運転の基本が学べるのがヤリスカップカーなのである。ブレーキを残しすぎればアンダーステアになるのはFFの当然の挙動だが、富士スピードウェイの100Rやヘアピンに飛び込んでいくとリヤは慣性で流れ、オーバーステアも起きる。FFだから終始アンダーではなく、カウンターステアの正確性も必要だし、絶妙にオーバーになるくらいのセッティングの方が速い。でも、それはリヤのグリップを下げるセッティングが必要というわけではない。荷重の掛け方と抜き方でリヤが流せるようになるのだ。そして、それに応えてくれるボディ剛性や適正な歪み方、サスペンションが備えられているのだ。
なので、実際乗っているととにかく楽しい。うまく操作できれば速度を乗せていける。失敗すればその分タイムが落ちる。そして、タフなNAエンジンとタイヤは熱ダレしにくく、いくらでも練習できる。タイムに再現性があるから、ずっと練習して最後にベストタイム更新も可能。ドライビングスキルを高めたい人にオススメできる車両なのだ。
ホイール、シート、ブレーキパッドがあればすぐにでもレースできるヤリスカップカーが、MTは217万1100円。CVTで238万100円。これだけ素直でピュアなスポーツカーが、この価格かつ完成形で買えるのはお得だ。レースに出ない人にも、スキルアップが目的だったら激推しできる。しかも、レースにも出られるというスーパーカーなのである。
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