2023年のル・マン24時間レースでは、セーフティカー(SC)の運用規則が変更された。この変更には批判的な声も少なくないが、IMSAを戦った経験のあるドライバーたちはポジティブな反応を見せている。
ル・マン24時間レースの舞台であるサルト・サーキットは、1周13.626kmと長いため3台のSCがコースの別々の地点から同時に出動。全体を3つの隊列に分けてレースをコントロールし、3つの隊列が同時にリスタートを切っていた。
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しかし今年から、この手順が変更された。3台のSCによって隊列が整えられた後、隊列をひとつに集約。その後、IMSAなどではすでに採用されている”ウェーブバイ”(大会特別規則書にはパス・アラウンドと記載)という手順が行なわれる。
このウェーブバイは『SCの後方かつ各クラスのリーダーより前方に位置する車両』にSCの追い抜きを許可。対象となったマシンはサーキットを1周した後、隊列の最後方につくという流れだ。これにより、例えば各クラスのリーダーから1周遅れだったマシンはリードラップに復帰することができる。
さらにその後には、”ドロップバック”という別の手順によって、カテゴリーごとに隊列分けが行なわれる。
こうした手順変更に、トヨタのテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、「ル・マンの精神に合致していないように思える」と嘆いた。
「ピットストップがうまくできなくても、戦略を間違えても、セーフティカーがすべてを元に戻してくれるから問題ない、というような作為的なものであり、ル・マンの精神とは正反対だ」
「ル・マンのアメリカ化に向けた大きな一歩であり、非常に深刻だ。そうなってはならないというのが我々の意見だ」
一方、IMSAを戦うアクション・エクスプレス・レーシングの一員であり、今回のル・マンにも同チームから参戦するアレクサンダー・シムスは、バセロンの考え方は理解できるものの、新ルールは総合優勝争いを最後まで緊密にすることに役立つと述べた。
またシムズはBMW M8 GTEでLM-GTE Proクラスを戦った経験から、序盤に出動したSCによってポルシェがアドバンテージを得て圧勝した2018年のようなケースは避けられるはずだと語った。
「WECでは常にレースを中立化し、SCなどの後も築き上げたアドバンテージを継続できるようにすることが重要だ」
「しかしある時、ポルシェの”ピンクピッグ”(クラシックカラーを復刻させた2018年の92号車)がピットストップを1周遅らせたことによって、1周分のアドバンテージを得てしまったことがあった。そのせいでレースは台無しになった」
「ル・マンの精神や、最速マシンが他を引き離したり、夜から朝にかけてペースが変化したりするという、これまでのレースのあり方に関するパスカルのコメントには共感する」
「でも僕はIMSAで多くのレースを経験し、アドバンテージや不利が解消され、レースが活性化されるのは、とてもエキサイティングなことだと思っている。自分たちにとって不利になることもあるかもしれないけど、それを受け入れて、エキサイティングなレースを作るんだ」
ポルシェ・ペンスキーモータースポーツからIMSAにフル参戦し、ル・マンに3台目のワークスマシンとしてエントリーしている75号車のドライバーであるニック・タンディも、新システムを支持している。
「最高峰クラスのマシンがSCによって分断されることはあまりない。SCはクラストップのマシンをピックするからね」
「でも他のクラスでは、SCがリーダーを捕まえるわけではないから、分断される確率が高くなるんだ」
「ハイパーカークラスから見れば、(新システムは)レースを左右する可能性がある。しかし、他のクラスから見れば、新ルールはレースに影響を与えないように設計されている」
「ハイパーカーのレースが新ルールで影響を受ける可能性は、旧システムでGTEやLMP2が影響を受ける可能性よりもずっと低いと思う。バランス的には、いいことだと思う」
タンディは、チームがSCで状況がリセットされることを期待して、リードを広げるのではなくリードラップを維持することに集中するのではないかというバセロンの意見に異議を唱えた。
「レースの大半をクルージングしてイエローを待つなんてことはない。昨年は1回だけだった。SCが何度も出るわけでもないし、ここ(ル・マン)でSCが出るのはかなり珍しいことだ」
クールレーシングからLMP2クラスに参戦しているシモン・パジェノーは、旧システムの方が衝撃的だったと話す。
「ファンが何を見たいのか聞いてみたい」
「見たいのはレースを止めずに24時間を走ったピュアなパフォーマンスなのか、ファンを楽しませるためのレースなのか?」
「それが、ヨーロッパとアメリカのレースの違いだ。アメリカでは明らかに、ファンのためにレースをするんだ」
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