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新車にバックカメラなどの義務化 そのメリットと新車価格の値上がりはどうなる?

掲載 更新 31
新車にバックカメラなどの義務化 そのメリットと新車価格の値上がりはどうなる?

 国土交通省が、クルマのすぐ後ろを確認できる「バックカメラ」などの装備を新車に採用することをメーカーに義務づける方針を明らかにした。

 クルマを後退させる際の安全性向上に効果ある装備だが、義務化となると標準装備になってくる。すると気になるのが、クルマの価格が高くなるのでは? ということではないだろうか。

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 今回の義務化で新車価格はさらに高くなるのか? バックカメラの重要性や、さらなる安全性向上のために必要なポイントなどを含めて、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、DAIHATSU、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】「後退時車両直後確認装置」装着の義務化で何が必要? いろんな装備を写真でチェック!!

■バックカメラだけじゃなくセンサーなども対象

 クルマが後退する時の死傷事故は、2020年に1万6000件以上が発生したといわれる。死亡事故も起こっており、対策が急務になっている。

 そこで国土交通省は、2021年6月に「後退時車両直後確認装置」の装着を義務付ける方針を打ち出した。後退時車両直後確認装置とは、後方の様子をモニター画面などに映すバックカメラ、音波センサーなどによって障害物の存在を知らせる検知システム、後方の様子を見せるミラーなどだ。

ホンダ『N-WGN』はリアバンパーに4つの超音波センサーを搭載。 接近してくる車両や歩行者等を検知し警報によって注意を喚起する

 最近はカーナビ装着車の増加もあってバックカメラが普及しているが、国土交通省の方針では、装備のメカニズムを限定していない。

 安全装備に求められる車両後方の確認範囲は、前後方向については車両後部から測って0.3~3.5mとされる。左右方向の確認範囲は車両の全幅だ。

 これらの装備は、現時点でも標準装着、あるいはオプションとして用意されている。気になるのは価格だろう。

■現行車での後方安全装置の装備と価格はどうなっている?

 最近のバックモニターは、複数の装備をまとめて装着するセットオプションに含まれることが多い。

 単品の正味価格を算出しにくいが、ムーヴの場合、ディーラーオプションのカーナビを装着するのであれば、バックカメラをフルセグTVアンテナなどと併せて2万7500円で装着できる。ヤリスはディスプレイオーディオを標準装着するので、1万6500円でバックガイドモニターを追加できる。

ダイハツ『ムーヴ』の「スマアシIII」では誤発進抑制機能とコーナーセンサーで後方安全確認を行える

 上級グレード車のモニターには、車両の周囲を上空から見たような映像として表示するパノラミックニューモニターやインテリジェントアラウンドビューモニターがある。この機能はヤリスとデイズ(カーナビ装着車)では3万3000円で装着できる。

 eKワゴンでは、液晶デジタルルームミラーの内部に、上空から見たようなマルチアラウンドモニターを表示できる。これならカーナビ画面やディスプレイオーディオを装着しなくてもモニターの機能を得られるが、液晶デジタルルームミラーと兼用だから、オプション価格は9万3500円と高い。

三菱『eKワゴン』と同様に日産『デイズ』も上空から見たような映像(マルチアラウンドモニター)を映し出す液晶デジタルミラーをメーカーオプションで用意する

 一方、音波センサーを使って障害物を検知するインテリジェントクリアランスソナーは、アクアのオプション価格が2万8600円だ。

イメージ画像はトヨタの「インテリジェントクリアランスソナー」。前後4つずつの超音波センサーで障害物を検知する

 合理的な組み合わせを考えると、カーナビを装着したり、ヤリスのようにディスプレイオーディオを備える車種では、バックモニター、あるいはパノラミックニューモニター/インテリジェントアラウンドビューモニターを加えるのがいい。

 カーナビなどのモニター画面を装着しない場合は、音波センサーを使うインテリジェントクリアランスソナーをお薦めしたい。後方の様子をモニター画面に映し出すことはできないが、前述のとおり価格を安く抑えられる。

 そして装着が義務付けられると、車両価格に上乗せされたとしても、オプション装着に比べると大幅に安くなる。標準装着される装備は、大量生産して一括して取り付けるため、想像以上にコストが低減されるのだ。

 音波センサーや1個のカメラだけを使うバックモニターであれば、便乗値上げをしない限り、価格の上乗せは1万円以内に収まる。まったく値上げしないことも考えられる。義務化により、死角を補う安全装備が割安に装着されるわけだ。

■ハイテク安全装備ありきでデザインを優先したクルマの外観

 しかしこれらの安全装備の装着義務化は、副次的な対策に過ぎない。一番の問題点は、後方視界の悪いクルマが急増したことにあるからだ。

 1990年頃までは、右側のサイドウィンドウを降ろし、ドアに肘を乗せながら運転している姿を見かけた。これは誤った運転方法だが、当時の乗用車のサイドウィンドウの下端は、肘を乗せられるほど低かった。

 しかも当時はボディスタイルも水平基調だから、一部の2ドアクーペやハードトップに例外があったものの、基本的に斜め後方や真後ろの視界も優れていた。ボディの大きさは、大半が5ナンバーサイズだから、死角はさらに少なかった。

 そのために車庫入れなどの後退をする時は、助手席の背もたれに手を掛けて後ろを振り返った。途中で右側のサイドウィンドウから顔を出して下側を確認すれば、パーキングスペースに引かれた白線も確認しやすい。それでも後退時の事故はあったが、モニターや音波センサーがなくても不安を感じるほどではなかった。

 ところが今のクルマは、全般的に視界が悪い。軽自動車や一部のコンパクトカーを除くと、サイドウィンドウの下端が高いために、肘を掛けることはできない。しかもサイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げたウェッジシェイプのデザインが多いから、斜め後方や真後ろが一層見にくい。助手席の背もたれに手を掛けて後ろを振り返っても、ウィンドウが狭く何も見えない。

斜め後方や後ろの視界がよくないウェッジシェイプのデザインのクルマが増えてきた

 全幅のワイドな3ナンバー車が増えたこともあり、特に左側面の死角が拡大した。売れ筋のカテゴリーがSUVやミニバンになったことも、視界ではマイナスだ。着座位置と併せて視線も高くなり、遠方の様子はわかりやすいが、ボディの左側や真後ろの死角はむしろ広がった。

視線が高くなるSUVやミニバンはボディの左側や真後ろの視界がよくない

 以上のように今日のクルマでは、ボディスタイル/ボディサイズ/視線の高さという3つの要素が、すべて視界を悪化させる危険な方向へ発展している。新車を試乗した時も「こんなクルマを開発して、本当に安全のことを考えているのか?」と感じることが多い。

 この疑問を開発者やデザイナーに尋ねると「水平基調にすれば、外観が落ち着いて躍動感が乏しくなる」といった返答をされるが、クルマが移動のツールである以上、優れた視界や取りまわし性は最優先すべき機能だ。

 そこを妥協せずに満足させたうえで、外観をカッコよく仕上げるのが工業デザインのあるべき姿だろう。

■見失ってはいけない「本質的に安全なクルマづくり」を考察する

 そしていかに優れたモニターも、後方を振り返って得られる直接視界に勝るものではない。冒頭で触れた国土交通省による車両後方の確認範囲は、左右方向が車幅とされる。この範囲が見えただけでは、左右方向から接近する自転車などを見落とす。後方を映すモニターカメラの視野角度は、ドライバーの直接視界に比べれば狭いのだ。

 従って後退は後方を振り返って行い、死角を補うモニターも、振り返った状態で確認できなければならない。それなのにバックモニターの画面は、インパネやルームミラーに装着される。前を向きながら後退することになって危険が伴う。本当であれば、ドライバーが後ろを振り返った時にも見えるよう、天井からせり出すようなモニター画面が必要だ。

 ちなみに側方や後方の見にくいクルマでは、気分的にも車両の周囲に向けた関心が下がりやすい。前方に突き進む意識が強まり、周囲への気配りの伴う優しい運転がしにくくなる。

 以上のように視界の問題を置き去りにして、モニター画面や音波センサーの義務化を論じるのは、シートベルトを装着しないでエアバッグの安全性を追求するようなものだ。

 視界を安全の観点から取り上げるのは素晴らしいことなので、ボディスタイル/ボディサイズ/視線の高さについても考えて欲しい。視界の要件こそ見直しが必要だ。

スバルは航空機設計の経験から「直接視界」の大切さを熟知しており、クルマの運転視界をよくするためにも直接視界を重視して開発している

 そして読者の皆さんがクルマを購入される時も、販売店の試乗車を使って、車庫入れや縦列駐車を試していただきたい。モニター画面に頼らず、安心して後退できるだろうか。

 モニターや音波センサーなどの装備も大切だが、本質的に安全なクルマづくりを見失うと、安全性を高めることはできない。

【画像ギャラリー】「後退時車両直後確認装置」装着の義務化で何が必要? いろんな装備を写真でチェック!!

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