この記事をまとめると
■3輪マイクロカーの税金が優遇されていた1970年代イギリスで誕生した「ボンド・バグ」
そんじょそこらの「マイクロカー」とはひと味違う! もう飼いたいレベルのカワイイ「商用バン」まで揃えたゴッゴモビルがすごい
■フロントガラスごと前方にガバッと開くキャノピードアとスクエアなヘッドライトが特徴
■ボンド・バグのデザインは映画『スターウォーズ』の乗りものデザインを担当したトム・カレン氏
イギリスデザイン界のレジェンドがデザイン担当
たびたび魅力的なマイクロカーをお伝えしてきましたが、これらの魅力をひと言で表してみると「可愛い」とか「ペットにしたい」なんてことになるかと。ですが、今回ご紹介するボンド・バグはひと味もふた味も違って、シャープでスポーティ。登場したのが1970年ですから、ちょうどヒッピーやらグラムロック、あるいはピースなんてカルチャーがブイブイいわせていたタイミングです。
ボンド・バグはそんな時代を表徴したマイクロカーにほかなりません。
ボンドといっても007と一切関係はなく、ボンド社によるバグ(虫)というのが正しい車名。ご覧のとおり、フロント1輪でリヤが2輪となるマイクロカーではお馴染みのパッケージ。よく知られているとおり、ボンド・バグが生まれたイギリスでは3輪マイクロカーはひときわ税金が安く済んだため、このレイアウトがじつに多いのです。
そして、ボンド・バグのキャラを引き立てるのに役立っているのが、前方にガバ開きするキャビンのガラスエリア。メッサーシュミットはガラスエリアが側方にガバ開きし、イセッタはフロントスクリーンごと前方にガバ開きでしたから、小さなキャビンに乗り込むのにはこうした大胆な方法が好まれたのかもしれません。
とはいえ、道化師が履く妙なつま先の靴かのようなプロファイルには、これしかないというほどのマッチング。ファンシーな丸目ライトでなく、角型ライトをデュアル装備というのもなんだかスタイリッシュに見えてくるから不思議です。
イカしたデザインをしたのはイギリス工業デザイン界ではレジェンドと呼ばれるトム・カレン(トーマス・ジョセフ・デリック・ポール・カレン)で、英国フォードでのキャリアを皮切りにして、これまたイギリスの伝説的なデザインハウス「オーグル・デザイン」の創立にも加わったという人物。
ボンド・バグはカレンの代表作に挙げられますが、そのほかにもリライアント・シミターやロビン、さらにはアストンマーティンのコンセプトモデル「オーグル・アストンマーティン」といった傑作がずらりと並びます。とりわけ、リライアントとの関係が深かったのですが、ボンド・バグはこの中堅自動車メーカー「リライアント」によるプロデュースだったのです。
まるで映画『スターウォーズ』に出てきそうなぶっ飛びデザイン
1969年、それまでに3輪自動車で大好評を得ていたリライアントがボンド社を買収。ボンドはボンドで、1922年からクルマ作りをしていて(当時はシャープズ・コマーシャル社)、ご多聞に漏れず3輪マイクロカー「ボンド・ミニカー Mk.G」や、スポーティな2ドアサルーン「ボンド・エクイップ」といったスマッシュヒットをいくつもリリースしていたのです。
※写真はボンド・ミニカー Mk.F
が、どんな理由かはわかりませんがリライアントに生産設備ごと売却。その頃、リライアントは若年層にアピールできるリライアント・ローグというクルマを企図しており、「せっかくだったらボンドの名前で出せば若者にウケるかも」みたいなアイディア会議があったのでしょう。ローグはボンド・バグという1970年代っぽいクルマに成り代わったという次第です。これは、リライアントはリーガルやレベルで培われたブランドイメージをいたずらに傷つけることを恐れた結果だとされています。
なるほど、カレンによるデザインと設計は、それまでのリライアントには見られない挑戦的なものが見られます。前述のガバ開きキャノピーや楔形ボディだけでなく、センターコンソールに扇状のスピードメーターを配したり、あたかもバケットシートをつけたかのようなFRP製バスタブシャシーの造形など、ヒッピー/サイケ/グラム連中がこぞって「カッケー」となったこと言うまでもありません。
リヤエンドに搭載される直列4気筒エンジンこそリライアントの実用車からの流用ながら、29馬力というピークパワーでもってバグを76mph(およそ113km/h)の最高速まで引っ張り上げたのでした。これは、当時850ccだったミニ(72mph/116km/h)やヒルマン・インプ(80mph/128km/h)に見劣りしないばかりか、「リライアントの鈍足イメージ」を大逆転させるものだったのです。実際、妙なカタチだけど空力性能は良さげですからね。
1973年になると、バグは750ccへと排気量が増やされた750Eと750ESを発売。排気量以外は従来モデルと同じだったことや、650ポンド(当時のレートで180万円程度)という高価格が災いしたのか、わずか200台ほどがロールアウトしただけでディスコンに。総生産台数はこの200台を含めて2280台ですから、やっぱり遊びグルマと捉えられてしまったのでしょうか。
それでも、カレンはあきらめきれなかったようで、4輪仕様のバグを水面下で開発していたとされています。実現すれば、こちらにはより強力なBRM製エンジンが搭載される予定だったそうですから、見てみたかったものです。
そう思っていたのは、マイクとゲイリーのウェブスター兄弟も同じだったようで、1990年にリライアントからバグの製造許可だか、モールドを買い取ってボンド・バグならぬウェブスター・バグというキットカーとして販売したのだそうです。しかも、4輪バグも少数ながら製造したのですが、どうやら30台ほどしか売れなかった模様。とにかく、ボンド・バグはイギリスのマイクロカー史に大きな足跡を残したことだけは確かなようです。
ちなみに、バグのデザインを担ったカレンはスターウォーズ「新たな希望」(1977)に出てきたランドスピーダーのデザイン&設計にも携わったとのこと。
いつの時代でもイカした仕事で、若者をワーワーキャーキャーいわせてた逸材だったのです。
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