■課外活動で生まれた世界最速のスーパーカー
「ヤングタイマー」と呼ばれる1980-90年代のスーパーカーたちは、2020年代を迎えた今、クラシックカー/コレクターズカーのマーケットにおいて主役の一端を担いつつあるようだ。
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とくに現代の「ハイパーカー」に系譜をつなぐような超弩級モデルが登場し始めたのもこの時代のことだった。そんな元祖ハイパーカーたちは、次から次へと登場する現代のハイパーカーにも飽き足らない上級志向のエンスージアストに向けて、国際オークションでも重要な人気商品となっている。
2021年8月中旬、新型コロナ禍によって1年休止となっていた「モントレー・カーウィーク」が2年ぶりの復活を果たし、クラシックカー/コレクターズカー・オークションの業界最大手RMサザビーズも、北米本社の主導による「Monteley」オークションを開催。
数百台に及ぶ出品車両のなかで、今回VAGUEが注目したのは、英国ジャガーが1990年代初頭に少数生産した超弩級スーパーカー「XJ220」である。
●“サタデークラブ”から生み出された、元祖英国製ハイパーカーとは?
今からちょうど30年前、1991年の東京モーターショーにて生産モデルが初公開されたジャガーXJ220は、もともとジャガー本社のスタッフによる課外研究活動からスタートしたスーパーカー。
コヴェントリーのジャガー本社のデザイン部門やエンジニアリング部門に属する有志が、本来は休暇である土曜日ないしは終業後に結集し、彼らは「サタデー(土曜日)クラブ」と呼ばれていた。
当時エンジニアリング部門のディレクターだったジム・ランドルは、もともとフェラーリ「F40」やポルシェ「959」に触発され、それら元祖ハイパーカーとも競合しうるような超弩級スーパーカーとして、当時のスポーツカー耐久選手権で活躍していた「XJR」シリーズの市販版のようなV12ミドシップ・ロードカーを構想。さらに当時の市販ミドシップ車では未知の領域に近かった4輪駆動にもチャレンジするという、驚くべきスーパースポーツを仲間たちとともに開発した。
その成果として完成したプロトタイプは、1988年のバーミンガム国際モーターショーで発表。満場一致で賞賛されるとともに、フェラーリF40のライバルにもなり得る存在として、当時のスーパーカー愛好家たちから生産化を求めるリクエストが押し寄せたという。
ところが、当時のジャガーにはスーパーカーを生産するノウハウがなかったうえに、ジャガーを買収したばかりだった米フォードは、自社生産の体制を構築することに難色を示した。
そこでXJ220の生産は、最終的にトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)との共同で創立した子会社のレーシングカンパニー「ジャガースポーツ」に委任されることになるのだが、V12エンジン+4WDは重量がかさむからという理由で早々にキャンセル。
この時期のTWRは、オースティン・ローバーのグループBラリーカー「メトロ6R4」のために開発された総軽合金製V6エンジンをベースに、ツインターボを追加するなどの大改造を施した新エンジンを開発。1989年の北米IMSA選手権用の「XJR10」および世界スポーツカー選手権用の「XJR-11」に搭載していた。
「JV6」と呼ばれたこのターボV6は、XJ220の新しいパワーユニットに選ばれ、XJR11と同じ3.5リッターから542psにディチューン。さらに前輪用の駆動システムもキャンセルされ、ジャガー社デザイン部門のキース・ヘルフェットによって描かれたアルミニウム製のボディに収められることになる。
1992年に生産に入ったXJ220は、南イタリア・ナルドの高速オーバルテストトラックでのタイムトライアルで達成された、約220マイルの最高速度にちなんで命名され、一時は世界最速の生産車としても名をはせた。
また、フェラーリF40やランボルギーニ「ディアブロ」(ともに3.7秒)よりも0-60マイル加速タイムが速いことも証明されたうえに、ニュルブルクリンクにおける生産モデルのラップ記録も更新した。
こうして鳴り物いりでリリースしたXJ220ながら、たまたまのデビュー時期がスーパーカー市場の停滞期と重なってしまったことから、セールスは日本を含む全世界で低迷。350台の生産が予定されていたが、1994年まで生産された台数は300台にも満たない(281台説が濃厚)といわれている。
■ライバルに比べるとリーズナブルな「XJ220」は今が狙い目
今回RMサザビーズ「Monteley」オークションに出品されたXJ220は、シャシNo.#220686。「ジャガー・ダイムラー・ヘリテージトラスト」によってトレースされた証明書によると、1993年9月下旬に完成したものとされている。
●5000万円オーバーでもリーズナブルといえなくもない
XJ220のほぼ全車両が、往年の「XJ13」を思わせる濃いブリティッシュグリーン、ないしは「Eタイプ・ライトウェイト」にあやかったシルバーにペイントされて送り出されたが、今回の個体は後者。ボディは「スパ・シルバー」で仕上げ、インテリアは「スモーク・グレー」の本革レザーによるフルトリムとされている。
伝えられるところによると、もともと新車として北米コネチカット州に住むスーパーカースペシャリストによって輸入され、アメリカ合衆国内での公道走行が認められたXJ220は、のちにヨーロッパ製スポーツカーの著名なコレクションに販売されたとのこと。
アメリカの車両履歴WEBサービス「CARFAX」のレポートでも、このジャガーが2004年までにフロリダに拠点を置く愛好家によって所有されていたことが記されている。
2008年にはニューヨーク在住の著名コレクターが入手したのち、彼のプライベートコレクションに組み入れられたXJ220は、2016年には英本国「ジャガー・ヘリテージ」に移送され、燃料タンク内のバッグ交換を含む包括的なサービスが施された。この時の請求書は今回の出品に際して添付されるファイルにも含まれており、その費用の合計は約8万6000ポンド(≒10万5000USドル)にのぼったことが明らかになっている。
さる2020年には、今回のオークション委託者である現オーナーに譲渡されたのち、定期的なメンテナンスによって完全な走行可能なコンディションを維持。また最近になって、ジャガーがXJ220用として純正指定したタイヤの新品セットを装着したが、歴代オーナーが保持してきた新車時のオリジナルタイヤも車両に添付される。
RMオークション北米本社が、公式WEBカタログを製作した段階での走行距離は、わずか6837km(4249マイル)を表示するこの絶妙なXJ220は、例外的なコンディションを身上とするローマイレージ車両。また「ジャガー・ヘリテージ」によってメカニカルパートにも、そしてエクステリア/インテリアにも総合的なサービスを提供されている数少ないXJ220の1台。ヒストリーまで含めて、希少なXJ220としてもハイエンドに属する個体と考えられる。
だから、現状でもジャガーのクラブミーティングやスーパーカーの展示イベントなどで高い人気を得られるほか、今後は国際的なコンクール・デレガンスのエントリー対象になることも見込まれよう。
このジャガーXJ220に、RMサザビーズ北米本社および現オーナーが協議の上に設定したエスティメートは、45万-55万ドル。そして8月13日に行われた競売では47万2500ドル、日本円に換算すれば約5200万円で落札されることとなった。
この落札価格は、もちろん絶対的な金額としては充分に高価であるのは間違いあるまい。しかし新車としてデビューした1990年代前半に、同じく「ハイパーカー」のパイオニアとして市場を競ったライバルたち、例えばフェラーリ「F50」やブガッティ「EB110」が現在の国際マーケットにおいて軒並み「億超え」を果たしている市況と比較すれば、むしろリーズナブルにも感じられてしまう。やはり、エンジンの気筒数が、この種のクルマでは重要視されるのだろうか。
ジャガーXJ220には、もしかしたら遠くない将来に大化けするだけのポテンシャルがあるのでは、などという、とりとめのない妄想を掻き立てられるオークション結果となったのである。
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みんなのコメント
どうしてもV6なのが影響してる
リーマンショックの直後は中古市場で1700万とかで見かけることもあったから、それに比べればだいぶ値上がりしたよ
でも美しいデザインで優雅だから、一定のファンもいるしある程度の値段はこれからも維持されていくでしょう