32、34、35とGT-Rを3台持つ小川直也が、欲しくても買えなかった因縁のGT-R NISMOスペシャルエディションに乗った! 締め落としてやると乗り込んだ直也氏。だがその衝撃の走りは本人の必殺技STO級の破壊力だった!
※本稿は2022年2月のものです
文/小川直也、ベストカー編集部、写真/成田颯一
初出:『ベストカー』2022年3月10日号
「ドライバーの声は神の声」R34スカイラインGT-R開発秘話【日本自動車界の至宝GT-R三代(3)】
■欲しくても手に入らない因縁の相手に挑む
スピードを上げるにつれフラットな乗り心地になり、ダウンフォースもあり、ピタッと路面に吸い付くような走りを見せる。フジツボのチタン合金製マフラーが奏でるサウンドも最高
東京オートサロンに新型Zを見に出かけたら、GT-R NISMOスペシャルエディションを発見! いきなり張り手を食らったような衝撃を受けた。
専用色のNISMOステルスグレーとクリア塗装されたカーボンエンジンフードの組み合わせが絶妙で、ビンビン挑発してくるじゃないか!
自宅に帰っても、会場で撮った新型ZよりもGT-R NISMOスペシャルエディションの写真のほうを何度も見たりして、かなわぬ恋心が再燃。
昨年4月に発表された時の、いてもたってもいられず、持っているGT-Rを3台売りに出して、買おうかと真剣に思った気持ちがよみがえってきた。
当時価格も決まっていないのに「SOLD OUT」と言われた時には、「オイ、責任者誰だ?」と血がのぼったりもしたが、俺の35(2008モデル)とそんなに変わらないさ! と高をくくったものだ。
しかし、オートサロンで見てからは夢にまで出る始末。もちろん300台限定でもう買えないのはわかっている、それでも何とか乗って自分を納得させたい! オトコ小川、ベストカーに頭を下げ、こうして試乗の機会を作ってもらった。
試乗当日は辛抱たまらず、日産の本社にクルマを借りに行く。
初めて広報車の貸し出し窓口に行ったが、なんとGT-R TスペックとGT-R NISMOスペシャルエディションが並んで停めてあるじゃないか! 思わずアイフォンでパシャ!
見知らぬ大男が地下駐車場でいきなり写真を撮っている姿を見て係の方がぎょっとした顔をしていたが、うれしいことがあると、カメラで残したくなる性分だから許してほしい。
その係の方は「Tスペックのほうが足がしなやかで、個人的にはGT-R NISMOスペシャルエディションよりも好みですね。ぜひ次はTスペックのほうにも乗ってみてください」。なんてステキなことを言ってくれるじゃないか!
100台限定のTスペックも完売。でも気になるよな。しなやかって、どんなだろう……。GT-Rの限定攻撃には手を焼くぜ!
危惧されたシートポジションもクリア。アルカンターラのステアリングは大きさも手触りもいい
俺が子どもたちに柔道を教えている小川道場の車庫には32、34、35が置いてある。
横浜の日産本社から首都高を走り、箱根のターンパイクでワインディングを楽しみ、茅ケ崎の小川道場で小川軍3台と激突! という筋書きを立てた。
ドアを開けると真っ赤なレザーとアルカンターラを使ったカーボンのRECAROシートが迎えてくれる。
俺の場合クルマに乗り込むには必ずステアリングを一番上にし、シートを一番下げて、特大の尻と腿を入れるスペースを作らなければならない。
もっといえば頭がルーフについてしまうクルマが多く、その点で乗れるクルマは限られてしまう。愛車の35はシートを特別に下げてあるし、欲しかったハコスカは頭が天井にこすれてダメだった。
GT-Rの実用性の高さはゴルフバッグがふたつ積めるトランクにも表れているが、193cm、110kgの身体を風呂のように沈めることができる。ちなみにトランクリッドもカーボン製だ
GT-R NISMOスペシャルエディションはどうか? 意外にもすんなりと身体を沈み込ませることができた。どうもシートが下がっているようで、うれしいぜ。
コックピットもレザーとアルカンターラがしつらえられ上品だ。アナログメーターに変更されたことを確認しながら、スターターボタンを押すと「GWNNNN」と乾いたサウンドが響く。GT-Rが覚醒した瞬間だ。
これからどんなドライブを楽しませてくれるのか? GT-Rオーナーとして、この瞬間がたまらない。
■「全部Rモード」はSTOボンバーだ!
ハンドリングは安心感があってスピードを感じさせない。そしてカーボンセラミックブレーキは首をへし折らんばかりの制動力だ
首都高を制限速度くらいで巡行しているぶんにはNISMOスペシャルエディションも俺の2008モデルも大きく変わらない。むしろ、乗り心地がソリッドで似ている感じだ。
東名高速に移り、クルーズコントロールを試したが、ACC機能はついておらず、ここまでは俺のGT-Rと変わらないとなんだか安心した。その一方で、いよいよ加速の誘惑に駆られてくる。
バァ~ン! やっぱり違う。60km/hから100km/hの中間加速はステルスグレーの車体がまさにステルス戦闘機になったよう。俺がいまGT-R NISMOスペシャルエディションに乗っていることをみんなにアピールしたいぜ。
しかし、待て! まだまだ、コックピット下にあるトランスミッションやサスペンション、スタビリティコントロールの制御切り替えスイッチには、手を触れない。すべて「R」モードにすれば、どんな世界が待っているのだろう? そればかりを考え、小田原厚木道路を通過し、箱根ターンパイクに到着した。
いよいよ前座は終了。すべて「R」モードにして、こちらも頬をビンタし、気合を入れた。カタパルトに乗った戦闘機乗りはどんな気分なんだろう? 一瞬頭によぎったが、打ち消すようにアクセル全開!
バババッババッバ~ハッハヤイ! ウォオオオオオオオオ~ハヤすぎる! 5000回転から上のトルクの盛り上がりは、まさかの夢心地。7000回転まで突き抜けた。
自分で言うのもおかしいが、これは俺のSTOのさらに上をいく必殺技STOボンバー級だぜ! 俺はその加速に涙目になった! こんなに気持ちが高揚し、泣きそうになったのは橋本真也戦以来だ。
しかも、その接地感たるや上四方固めをきめたごとく、ビタリと遊びがない。乗り心地も雑味がなくなり、ハンドリングは正確無比。カーボンセラミックのブレーキは送襟締めのごとく鬼の利き。
すべてが緻密でムダがなく、張り詰めていながらドライバーはリラックスできる。そんな世界が広がっていた。完敗だ!
やっぱり32、34、35と小川軍のGT-R3台をもってしてもNISMOスペシャルエディションの魅力には及ばない。欲しい。ガレージに入れておきたい。俺の欲望は頂点に達していた。
GT-R NISMO 主要諸元
【番外コラム】モンキーもセキネサイクルも! 乗り物大好き運転大好き!
ホンダのモンキーは3台所有。このA-Z50JのほかサスペンションのないリジッドサスのモンキーZ50Aも所有。しかも1968年の1年ほどしか製造されなかった両手ブレーキモンキーだ
小川道場の車庫には2008年モデルの35と2001年モデルの34、そして1992年式の32のGT-R3台のほか道場の社有車、ハイエース・コミューターが格納されている。そのほか、自転車やバイクが20台以上ある。
古いものならモンキーの初代モデルや古いカブ、パンヘッドハーレーの1950年式ハイドラグライドがあり、自転車もセキネサイクルからトレックのスポーツバイクまでいろいろある。乗り物バカというやつだが、やはり自分が乗らないとダメ。
GT-Rもそうだが、古いバイクはたまにエンジンをかけ、茅ケ崎の海岸をひとっ走りしてくることでコンディションを保っている。もちろん、モンキーなんかで走っていると恥ずかしいを超えてうれしいくらい注目され、ピースサインで応えているぜ!
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みんなのコメント
プロレスっぽい自動車評論はたくさん有っても、ガチで小川がやられている感の有る35Rは凄いんだな。