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ヤマハのマシンが加速で大きく振られる理由。奥深い“フレームのしなり”/ノブ青木の知って得するMotoGP

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ヤマハのマシンが加速で大きく振られる理由。奥深い“フレームのしなり”/ノブ青木の知って得するMotoGP

 スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第22回は、あまり耳馴染みのない“フレームのしなり”について。ブレーキング、旋回、立ち上がりなどのフィーリングに影響を及ぼす“フレームのしなり”を青木ができるだけ分かりやすく解説する。

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量産車レース出身のライダーがレース専用マシンで戦う難しさ/ノブ青木の知って得するMotoGP

 MotoGPニューカマーのファビオ・クアルタラロ(ペトロナスヤマハSRT)が、第7戦カタルーニャGP、第8戦オランダGPと連続表彰台獲得! 素晴らしい活躍を見せてくれた20歳の彼に、“6月ピーク疑惑”が……(←ワタシが勝手に言ってるだけですが)。グランプリでの彼のレースキャリアを振り返ると、毎年カタルーニャとオランダは好調なのだ。

 顕著なのは、Moto2クラスに参戦していた2018年だ。シーズン序盤はさほど目立つことがなかったクアルタラロは、カタルーニャGPでいきなり優勝。続くオランダGPも2位表彰台に立った。これがまた、ちょうど翌年のMotoGPシート争奪戦の真っ最中! 華々しい連続表彰台が関係者の目に留まり、2019年シーズンのMotoGPシート獲得に至った。

 ちなみに2018年、クアルタラロがMoto2クラスで表彰台に立ったのはその2戦だけ。自身の好調とシートの空き具合がちょうど噛み合ったわけだ。

 こういうのを、運と言う。クアルタラロが“持ってるライダー”だということは間違いない。そして2019年もカタルーニャとオランダで活躍し、確かに乗れている感じはある。好調の波が今後のドイツ、チェコと続けば、“6月ピーク疑惑”は単なるワタシの勘違いで、彼の実力は本物と判断できそうだ。

■マシンの挙動に大きく影響する“フレームのしなり”
 さて、今回はここからが本題。フレームのしなりについて語ろうと思う。相当にマニアックなので、頑張ってついてきてください。

“6月ピーク疑惑”のクアルタラロだが、オランダGPでは5コーナーを立ち上がってからのストレートでブルブルと大きく振られるシーンがたびたび見られた。ストレートとはいえやや右に曲がっており、なおかつバンプ(凹凸)がある箇所だ。

 そのバンプをきっかけにして、どのメーカーのマシンも大なり小なりブルブルが発生していたのだが、クアルタラロのヤマハYZR-M1はほとんど収束せず、それどころかどんどん増幅してしまうので、アクセルをかなり戻していた。恐らく、YZR-M1のフレームが硬すぎることによる弊害だとワタシは睨んでいる。
 唐突ですが、金属のカタマリであるフレームは、しなります。まずこのことを信じてください。確実にしなる。少なくともライダーはそう感じる。ワタシの経験で言えば、スズキのMotoGPマシンが硬い方向からしなる方向にシフトしていった時に、いろいろと感じるものがあった。ざっくりとパート分けすると、ブレーキング、旋回、立ち上がりでそれぞれ別のフィーリングがある。

 ブレーキングでは、ヘッドパイプまわりの力がどうフレームに伝わってくるかで、フィーリングが変わることを体感した。あくまでも一例だが、ブレーキング時に前後方向にギューッと寸詰まりになるように感じるフレームもあった。つまり、前後方向のしなりですね。最近、フロントフォークにカーボンアウターチューブを採用するマシンが目立つが、これは車体まわりのしなりを多くすることで、接地感を得ようとしているのだ。

 旋回では、主にメインチューブ(フレームの上側)の剛性を感じることができる。ゴツく見えるメインチューブだが、肉厚を相当薄くしてある部分もあり、細かく剛性をコントロールしている。最近、メインチューブにカーボン巻きをしているマシンが目立つのは、アルミフレームにカーボンを加えることでより繊細に剛性コントロールをしつつ、しなり感も持たせようとしているからだ。

 立ち上がりでは、フレームのしなり量が効いてくる。……もはや何を言ってるのか分からないかもしれませんが、まず金属製フレームがしなるということを信じていただいたうえで、立ち上がりではそのしなりの量、しなりストロークが問題になってくることをご理解ください。

 MotoGPではオーストリアのメーカー、KTMが鉄フレームにこだわっているが、実は鉄フレームはしなりやすいものの、しなりストロークが足りない。一方でアルミフレームは、基本特性としてはしなりにくい反面、剛性をコントロールしやすく、しなりストロークも得やすい。このしなりストロークが、立ち上がり性能に大きく影響してくる。最近はカーボンスイングアームが目立ってきたが、これも車体全体でしなりストロークを増やそうという狙いだ。ホンダはかなり顕著にしなる方向性を狙っている。

 このように、大まかに言えばできるだけしならせようとしている昨今のMotoGPの車体トレンド。ミシュランタイヤを極力使い切ろう、というのが主な狙いだ。そのなかでも、クアルタラロが使っている旧型(とされる)YZR-M1の車体はかなり硬い。ブルブルが起こるのは、バンプによって車体が揺さぶられた時に、それを収束させるだけのしなりストロークが足りないからだ。
 もちろん、サスペンションの減衰(簡単に言えばサスペンションの硬さ)でごまかす方法もある。だが、ワタシもスズキのマシンで経験済みだが、サスペンションだけではとてもじゃないが収束できず、アクセルを戻さなければ転んでしまう恐れがあるほど強烈なブルブルなのだ。フレームをしなやか方向に変えたところ起こらなくなったので、「しなり大事だな!」と痛感したものだった。

 マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が、クアルタラロほどひどいブルブルに見舞われずに済んだのは、ファクトリーマシンの特権・最新パーツ投入によりそれなりのしなり量が得られているから。カーボンフロントフォークもそのひとつだ。それでもまだまだヤマハは硬い。予選の1発タイム争いでは速いのに決勝では沈みがちだったり、コースによる好不調の波が激しいのは、しなりが足りない証だ。

 ビニャーレスは久々に勝ったが、ヤマハのフレーム特性と今のミシュランタイヤの特性とのマッチングは、まだしっくり来ていない。クアルタラロの“6月ピーク疑惑”(←ワタシが勝手に言ってます)も含めて、間もなく始まるドイツGP以降のヤマハの動向には大いに注目したい。

 それにしても、フレームのようにデカくて頑丈そうな金属パーツがしなるなんて、なかなかイメージできないと思う。あまりにも微妙すぎて、実際に計測してもしなりストロークが数値化できるのかも分からない。

 でも、その他のパーツとの組み合わせにより、ライダーは確実にしなりを感じていて、攻められる・攻められない、あるいは最後までタイヤが保つ・保たないの違いとして表れる。そして、勝てる・勝てないの差になる……。バイクって、本当にものすごく繊細な乗り物なんですよ……。

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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。

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