トランスミッションのお話。EV(電気自動車)には基本6速MTなどという変速機は必要なくなります。なぜなら電気モーターは0rpmから最大トルクを発生するから。
そして、内燃機関のようにアイドリングさせる必要がないので、クラッチも必要なくなります。つまり繋ぎっぱなし。普段ATばかり運転しているとクラッチの存在を忘れてしまうので、EVに乗ってもATと同じように普通に走らせることができることに構造も同じと思ってしまいがち。けれども実はEVにはトランスミッションが必要ないのです。
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唯一、ポルシェ『タイカン』がリヤモーターに2速のギヤを持っています。それでもAWDのフロントモーターに変速ギヤはなく直結です。つまりEVに使用される電気モーターは、恐ろしいほどの低速トルクを発生させるので通常の5~6速ぐらいのギヤ比で直結されているのです。
そこで今回はEVの話題ではなく、このトランスミッションのお話。このままEV化が進んでゆけば、やがてトランスミッションは無くなってしまうのではないか?(あるわけないが) そこで、今のうちに過去に乗ったMT(マニュアルトランスミッション)で、心に残るMT。中古でもいいから、もう一度乗ってみたいと思わせるMTを思い起こし、その印象をお話しようと思う。
文/松田秀士
写真/HONDA、PORSCHE、編集部
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■ドライバーのテクニックが求められる名機! ホンダ『S2000』
まず筆者が一番気に入ったMTとは? ホンダ『S2000』だ。
9000rpmまで回るあのレーシーなエンジンを高回転域に押し込めるように頻繁にシフトチェンジ。高回転型のエンジンだったから有効トルク域が高い回転域にあり、そのゾーンを維持するようにギヤを選択。ヒール&トゥーを駆使しながら左手でシフトレバーを操作。エンジンのキャラクターを生かすために素早く正確なシフトチェンジが必要とされたわけ。
理想的な重量配分に高回転高出力エンジン「F20C」を搭載する『S2000』。五感がしびれる気持ちよさはまさにスポーツカーである
そんなS2000のトランスミッションの特徴は、シフトストロークの短さだ。各ゲートからギヤへのレール(前後間)が短いのでスパッ! と素早くシフトできるのだ。
さらに各ギヤへのゲートがカチッとした剛性感の上にはっきりしているので、正確に手に伝わりわかりやすい。2速⇔3速、4速⇔5速といった斜め方向のアップダウンでも正確に決まる。
もうひとつ、シフトワークはこのようなシフトレバーの操作性だけにフォーカスしがちだが、クラッチの操作性を忘れてはいけない。シフトワークはリズムとタイミングである。
昔、レースしていたF3000マシンのクラッチ。シフトストロークの短さに対するクラッチの重さとストローク。それは意図して作り込まれたものではなかっただろうけれども、絶妙なタイミングだった。というより、絶妙なタイミングになるよう操作することがドライバーに求められたのだ。だからドライバーによって上手い下手がはっきり分かれていた。
下手だとシンクロの役目をするヒューランド製ドグリンク(ドグクラッチ)の消耗が激しく時にはギヤを損傷した。MTの操作とは、このように奥が深くドライバーのテクニックを問われるメカニズムなのだ。S2000はこの部分でもとても相性のいいクラッチだ。
だがしかし、その素性が良ければより効率の高い走りが可能になる。
■小気味よいシフトが可能なFFスポーツ! スズキ『スイフトスポーツ』
そこでスズキ『スイフトスポーツ』に目を向けよう。
FFなのでエンジンは横置き。その隣に同じく横置きのトランスミッションがある。このトランスミッションを操作するためにシフトレバーとはワイヤーで接続されている。つまり遠隔操作。
クロスレシオ、ショートストロークなど、チューニングされた6MTを搭載する『スイフトスポーツ』。軽量なボディとトルクフルなターボエンジンで思わず口元がゆるむ韋駄天ぶりを発揮する
前出のS2000も、このあと紹介するマツダ『ロードスター』もFR。FRは後輪駆動に都合のいいようエンジンは縦置き。トランスミッションはエンジンの後ろに直結されるから、ちょうどシフト機構がシフトレバーに近く設計できる。ワイヤーではなくリンケージなどを介して、あるいは直接操作する機構になるわけだ。FFとFRでは当然異なる操作性となる。FFのシフトフィールではいかに正確にシフトできるか? が課題だ。遠隔操作だからね。
スイフトスポーツのシフトストロークはFFとしては短めだが、決してショートというほどではない。シフト操作そのものもスコン! と入る軽めのモノ。それでも各ギヤのゲートがわかりやすく、扱いやすい。クラッチも重すぎず軽すぎず、ストロークはシフトストロークとちょうど同調している。速いシフトワークにも余裕を持った正確なシフトワークにも自在に操作できる。これがスイフトスポーツのMTを優秀と判断する理由だ。
■総じて出来のいいマツダMT! そのなかでも特筆すべき マツダ『ロードスター』
で、FRのマツダ『ロードスター』。こちらもFRゆえS2000同様のキャラだが、ドライバーの着座位置とシフトレバーの位置関係に優れている。
ライトウェイトスポーツカーを具現化し続ける『ロードスター』。マツダは「人馬一体」を実現するためにドライビングポジションにこだわり続ける
筆者は小柄なのでシート位置を前にしがちだが、このとき引く方向のシフトで肘まわりの動きをシートサイドサポートに遮られることが多く、位置関係はとても重要と感じている。
これはテレスコピックの有無、さらにそのストロークも関係している。現行ロードスターにはテレスコピックが装備され、またシートスライドもその位置によって高さが変化するように設定されている。この細かな設定がシフトワークをスムーズに行うことに効いてくるのだ。ロードスターのシフトもショートで剛性感が高く、クラッチはやや軽めだがストロークとマッチしたよいものだ。
同じマツダのモデルでもFFの『アクセラ』もいいシフトだ。アクセラに限らず後継の『MAZDA3』も同じ。マツダはMAZDA3の全車種にMTモデルを設定していることが大きく寄与している。
必然的にMTの操作性開発に時間を割いているからだ。例えばクラッチを使わずにシフトアップダウンする操作も決まりやすい。トランスミッション内の構造的なもの、さらにワイヤー&リンケージ伝達の正確性など、設定機種が多いがゆえにしっかりと研究開発しているからだろう。
■FR以外にもある! 一度は乗ってもらいたいMT トヨタ『カローラスポーツ』&ポルシェ『ボクスター』
トヨタ『カローラスポーツ』もMTに力を注いだ1台。まずシフトレバーの位置が適切。ストロークは長めだが分かりやすく扱いやすい。初心者やMTシフトに自信のないドライバーにも優しいMTだ。
国内で最初にiMTを採用したカローラスポーツ。iMTは変速操作時に自動的にエンジン回転数を合わせてくれるのでブリッピング操作がいらない
ポルシェ『ボクスター』はミッドシップ。エンジンはドライバーの後ろで後輪軸の前にマウントされ、その後ろにトランスミッションが直結されている。このためFF同様にワイヤーやリンケージを介して操作することになる。
1996年にデビューして以来4代目となる718ボクスター。初代986ボクスターは、コンパクトなボディと軽快なハンドリング、安い価格(ポルシェにしては)で世界的大ヒットになった
操作感はアレッ! というほど軽くスポーツモデルにしてはストロークも少し長め、クラッチもストローク重さ意外に軽い。しかし確実に決まる。クラッチ使わずのアップダウンも面白いように決まる。トランスミッションの構造とワイヤー&リンケージの取り回し、さらにアクセルOFF時のエンジン回転の落ちるスピード。これらが絶妙にマネージメントされた素晴らしいMTだ。
※編集部注:現在国内で新車で購入できるモデルは、セミATのPDKのみとなる。過去にはMTモデルが販売されており、中古車市場には718ボクスター(6速MT)が流通している。
■トリは玄人向けで自分磨きの1台! スバル『WRX STI』
最後にスバル『WRX STI』。コイツはね、なかなか玄人好み。どちらかといえば難しい部類だ。
フルタイム4WDゆえ、トランスミッションにもかなりのストレスがかかる。カチッと短めのストロークに驚くほどの剛性感。クラッチもそこそこ重い。しかもわりとショートストローク。このクルマに乗るたびにあのローラT90 F3000マシンを思い出す。レーシー! 自分を磨いてくれるMTだね!!
初代WRX(GC8)時代はガラスのミッションと揶揄され、耐久性が低かった。その後、大幅に強化された6速MT(TY85型)はGDBに搭載され、現行WRX(VAB)まで採用され続けている
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みんなのコメント
坂道発進で下がらないとかも。
それらを含めてMTの醍醐味で、出来ないなら乗らないか、出来るように練習するかでしょう。
MTに魅せられて、旧車に乗るようになったら危ないよ。