現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【作れない? 作らない?】スバル以外の国産メーカーが水平対向エンジンを開発しない理由

ここから本文です

【作れない? 作らない?】スバル以外の国産メーカーが水平対向エンジンを開発しない理由

掲載 更新
【作れない? 作らない?】スバル以外の国産メーカーが水平対向エンジンを開発しない理由

 「水平対向エンジン」といえば、多くの方が、スバル、もしくはポルシェを思い浮かべるだろう。

 「低重心」や「低振動」など、水平対向エンジンにはメリットがたくさんあるが、上記2つの自動車メーカー以外は、現在のところ、開発をしている様子はない。

スバルの大黒柱が来年続々登場!! 新型WRX&レヴォーグ全情報!!

 なぜ、ほかのメーカーは水平対向エンジンに見向きもしないのか。

 文:吉川賢一 写真:SUBARU、ベストカー編集部

水平対向エンジンのメリットとは? 

 まず、水平対向エンジンのメリットとデメリットを上げてみよう。

ボクサーエンジンと言われている水平対向エンジン

 水平対向エンジンは、クランクシャフトに対してシリンダーを左右水平に配置し、左右に向かい合った一対のピストンが水平方向に往復するエンジンだ。ご存知の通り、ボクサーがパンチを打ち合う様子に似ていることから、「ボクサーエンジン」とも呼ばれている。

 最大の特徴は、全幅は広がるが、全長が短く、全高が低いこと。シリンダーが水平に配置されるため、全高が低く、全幅が広い構造となり、これによってクルマは低重心となる。しかも左右対称のため、操縦性と安定性に大きく寄与する。

 これが、「水平対向エンジンのメリットであり存在理由」と言っていい。

水平対向エンジンにより安定する

 ほかにも、向かい合うピストンが互いの慣性力を打ち消すように往復運動することによる低振動、クランクシャフトが両側から強固に挟み込まれる構造であることから、クランクケース剛性が高くなるため耐久信頼性が高い。

 また、エンジンの低レイアウトによって、前面衝突した際にエンジンをフロア下に潜り込ませて乗員へのダメージ軽減が期待できるなど付随するメリットも上げられる。

水平対向エンジンのデメリットとは? 

  一方、デメリットもある。 横方向にエンジンが広いことからタイヤの切れ角を大きく取れず、最小回転半径が小さなクルマが作りにくいことがあげられる。

WRX S4などに搭載されるFA20型水平対向ターボエンジン


 そして、製造開発しているメーカーが少ないため技術開発や競争が起こりにくく、エンジン進化が目覚ましい他メーカーの直列エンジンやV型エンジンに比べて、遅れがちである点だ。

 特に燃費性能は大きな遅れをとっており、e-BOXERを積んだハイブリッドXV(Advance)は15.0 km/L(WLTCモード)、同じくe-BOXERのフォレスター(Advance)は14.0km/L(WLTCモード)と良くはない。

 トヨタのカローラスポーツ(HYBRID G)は30.0km/L(WLTCモード)、RAV4(HYBRID X)は21.4km/L(WLTCモード)であり、これらと比べてしまうと、明確な差として現れてしまう。

 この差は、スバル車の販売現場でも問題視されているようだ。

スバル車の販売現場の現状はいかに

 ディーラー事情に詳しい筆者の友人によると、

 「水平対向を待ち望んでいるお客様はいるものの、それはコアなスバリスト(スバルファン)であり、その方々はスバルの新型が水平対向エンジンを積んでいれば自然と購入していく。

 しかし、他メーカーからの代替となった時に、燃費性能や価格で比べていくお客様がやはり多く、そのテーブルでは、スバル車は太刀打ちできない。一時期はアイサイトで強みを発揮していたが、今やどの車にも同じような装備はついているので。」とのことだった。

他のメーカーが作らない理由とは? 

 このようなことから、他メーカーが作らない理由がいくつか推測できる。

 1.「ゼロ開発」をしても投資対効果がない

 水平対向エンジンには、設計の経験値がないところから新規開発をする理由に乏しい。

 燃費改善や効率向上であれば、これまでに実績のある現存エンジンを、さらに磨いていくほうが良く、新たに投資するだけの時間や労力をかけるのがムダである。

 また、運動性能の良さを訴求してクルマが売れる時代ではなくなったことも大きいだろう。

 2.魅力もあるが呪縛にもなる

 スバルエンジニアの話によると、水平対向エンジンはその幅広な形状がゆえに、エンジンルーム内のレイアウトが難しく、前面衝突をコントロールするサイドメンバを適位置に通すのが難しいという。

 苦肉の策で、衝突時にエンジンを車両下側に落としこむ設計が誕生したものの、その際のサイドメンバのみで前突の衝撃を受け止める設計を成立させるのは、技術的に「呪縛」となっているそうだ。

  3.搭載車が限定される

スバル WRX S4

 車幅やエンジンコンポーネントのレイアウトに余裕があるクルマでないと搭載ができないというのも、ネックになりうる。

  台数が出るコンパクトカーでの搭載が厳しいとなると、莫大な投資が必要となる新規エンジン開発には、余裕のあるメーカーでない限り困難であるし、そんなメーカーは、現時点日本にはない。

まとめ

 もし筆者が車両開発担当だとして、「なぜ水平対向を新規開発する必要があるのか?」と問われても、納得させる説明をすることはできないだろう。運動性能屋の「ロマン」だと言われ、撃沈するのが目に浮かぶ。

 水平対向エンジンが進化して、圧倒的な技術メリットが出てこない限り、他メーカーでの新規開発は難しいだろう。

 現状、「水平対向エンジン」にこだわっている自動車メーカーは、スバルとポルシェだけ。この2メーカーには、これからも希少技術として、強烈に異彩を放っていただきたい。

こんな記事も読まれています

フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
AUTOSPORT web
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
AUTOSPORT web
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
ベストカーWeb
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
AUTOSPORT web
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
AUTOCAR JAPAN
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
AUTOSPORT web
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
ベストカーWeb
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
AUTOSPORT web
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
AUTOSPORT web
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
AUTOSPORT web
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
AUTOSPORT web
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
AUTOCAR JAPAN
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
オーテック&ニスモ車が大集合!「AOG湘南里帰りミーティング2024」で見た「超レア車5台」と「中古車で狙いたいクルマ5台」を紹介します
Auto Messe Web
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
なぜ潰れた? 名車と振り返る「消滅した自動車メーカー」 32選 後編
AUTOCAR JAPAN
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
ラリージャパン3日目、SS12がキャンセル…一般車両が検問を突破しコース内へ進入、実行委員会は理解呼びかけると共に被害届を提出予定
レスポンス
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
【F1第22戦予選の要点】苦戦予想を覆すアタック。ラッセルとガスリーが見せた2つのサプライズ
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村