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「単なる機械ではない」新型レクサスLSの人に寄り添ったデザインとは

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「単なる機械ではない」新型レクサスLSの人に寄り添ったデザインとは

 フラッグシップのあり方も時代と共に変化

 11年ぶりのフルモデルチェンジによって、劇的かつ大胆な進化を遂げた新型LS。フラッグシップの風格とエモーショナルな魅力を両立させたデザインは、デザインチームの「常識の枠にとらわれないチャレンジ」によって実現したものだ。プロジェクト・チーフ・デザイナーを務めた須賀厚一さんに、開発プロジェクトを振り返っていただいた。

【衝撃】高級車の超高額オプションはクルマが買えるほどの価格!

「初代LSは、弊社のなかでも伝説的な成功として語られているモデルです。そのスタイリングは、今見ても均整のとれた美しいデザインだと思います。あのデザインを作り上げるために、当時のデザイナーたちは相当な苦労を重ねています。社内の審査会も一般的な開発の倍となる8回も行なっていたほど。そんな初代を超えるデザインを作るのは、並大抵の努力じゃ無理だぞと、そんな気持ちで今回の開発に臨みました」

「実際、初代と同じくらいの苦しさを味わうことになりました。作ったフルスケールのモックアップは全部で7台。通常の倍の数です。小さなスケールのクレイモデルなどを入れると、相当な数になりましたね。でも、これほどのクルマのデザインを手がけられる機会は、デザイナー人生でもそうそうあることじゃない。高いモチベーションがまったく途切れることなく、最後までやり切ることができました」

 LSは言うまでもなくレクサスブランドのフラッグシップモデル。当然、デザインについても、フラッグシップにふさわしい威厳や風格、高級感が必要とされる。だが、社会の価値観が急激に多様化する現代では、「フラッグシップ」の意味合いも大きく変わりつつある。今では最上位の装備を持った高級車であればいいというわけではない。

「おっしゃる通りだと思います。フラッグシップモデルは、そのブランドの最上位であるだけでなく、ブランドの姿勢や考え方がそのまま投影される商品です。たとえば、テクノロジーを全面的に押し出すというアプローチの企業もありますよね。ですがわれわれレクサスは、人が中心、人にフォーカスするという考えをとても大切にしているブランドです。そんなレクサスの新しいフラッグシップ像を考えるうえで、大きな示唆となった言葉がありました。初代LSのチーフエンジニアが、開発当時に残した言葉です」

 その言葉とは、当時の高級車の代名詞であったドイツ車と、それを所有する人との関係を示す言葉だった。

「あちらのクルマではドライバーとの関係が運転手と機械の関係であり、『自分とそれ』という関係です。一方レクサスは、もっと人に寄り添った、パートナーの存在でありたいと考えています。だから『私とあなた』なんです。さまざまな先進装備があっても、冷たいマシンライクなものではなく、人の温もりのようなものが感じられることが大切。新型のデザインを考えるうえでも、それは大切なキーワードになりました」

 たとえば、新型LSのエクステリアの見どころであるスピンドルグリルも、その考え方が表れている部分のひとつ。先鋭的な美しさを放つ精緻なデザインは、冷たく無機的になってもおかしくない造形のはずだが、その佇まいからは、人間の温かな『手』で織り上げられたような、えも言われぬ温もりが感じられる。

「このグリル、よく見ていただくと、散りばめられた小さなL字のモチーフのひとつひとつのすべてが、微妙に違う形となっていることに気付いていただけると思います。このL字モチーフを構成する面の数は、ノーマルグレードで約5000。Fスポーツだと約7000というとてつもない数になるのですが、製品化のためのCADデータの作製は、ベテランの女性スタッフが毎日8時間、6カ月もかけて作り上げました」

「コンピュータでも、ある程度までは制御できますが、その先はどうしても人の手が必要でした。一個一個を四角く作って、そこからラウンドを付けて、さらにエッジのRを付けていく。その繰り返しで半年です。ようやくでき上がったと思ったら、今度は設計要件による微修正です。実際の外の光の下で見ると塗っている色や影の影響もあり、当初のイメージとわずかな差があったりしてそこでもまた微修正。ほかにも、グリルのメッキの枠に、メッシュが予想外の映り込み方をしているからといっては微修正していきます。塗装の際の顔料の入り方や、製造の際の型を抜くための角度なども考慮する必要がありますし、もちろん、冷却機能についても必要な要件を満たさなければなりません。やり直しを何度も行い、本当に気の遠くなるような繊細な作業の積み重ねで作り上げました」

 大胆で力強い印象のなかに、繊細な温もりを感じさせるデザインの美しさは、工業製品というよりも、工芸品と呼ぶのがふさわしいほど。じつは新型LSでは、内装デザインにおいて、実際に日本の工芸品の職人たちとの協力による新たな試みがいくつも行われている。

「たとえば、グレード別採用となるドアトリムの立体的なプリーツは、京都で服飾系のハンドプリーツをやっている匠の方の協力を仰いでいます。プリーツのひと折りひと折りが職人の手で折られ、非常に手の込んだものです。また、世界初となるガラス製の加飾は、富山県(2017年9月に福岡へ活動拠点を移転)でカットガラス作家として活動されている、匠の方の協力で製品化したものです。ガラス製では割れたときのことが心配という方もいらっしゃると思いますが、今回はガラスに強化処理を施したうえに、フィルムコーティングをするという手法で万が一の飛散を防ぎ、お客さまの安全をしっかり確保しています」

 切り子調の加飾は、クルマのデザインではまったく新しい表現と言えるもの。切り子細工の職人に作ってもらったマスターピースは、きわめて緻密に作られた工芸品そのものであり、そのままでは大量生産できるものではない。データ化して型に落とすだけでも容易ではないが、研磨についても職人の手技のような3次元的な繊細な動きが必要となる。メッキなどについても特殊な技術が必要なため、一カ所の工場の技術だけで完成させることができない。製品(部品)化するのになんと8カ所もの工場を経由するという、手間のかかる工程を経て生産されている。

「木製のオーナメントパネルの杢目についても、匠の力を採り入れています。高級車の杢目と言えば、これまでは非常に山深い稀少原木に価値を求めるという訴求の仕方が主流でしたが、環境にもこだわるレクサスとして、デザイナーインスピレーションによるアーティスティックな柄を作ることができないかというチャレンジを行いました。オーガニックなゆらめく炎をイメージした杢目は、われわれデザイナーが思うイメージを茨城県の突板の杢目を作る匠職人の技により作り上げたものです」

 さらに新型LSでは、視覚的な意匠だけでなく、ワイド&ローのプロポーションを作り上げるうえでも『おもてなしの心』が貫かれている。エモーショナルな低重心シルエットの実現のため、先代LSと比べ、ヒップポイントが30mm、全高が15mm低められたデザインとなっているが、乗降性を犠牲にしないため、急速車高調整が可能なサスペンションを導入。さらには乗車時と下車時で違う調整幅を設定。これは、人が降りるときは車高を上げ過ぎると足が地面につきにくくなるため、足腰の筋負担を少しでも軽減できればという配慮から考えられたものだ。

「レクサスのフラッグシップモデルが乗降性を犠牲にするなど、絶対に許されませんからね。新型LSでは、流れるようなシルエットが特徴になっていますが、ここも後席の居住性や乗降性を両立させるうえで、かなり苦労した部分です。最終的には後席の乗員の後ろ側に窓を追加した『6ライト』とすることで解決しています。一般的な高級セダンは両サイドで計4枚の窓がある『4ライト』。いわばそれが常識みたいなところがあって、開発当初は、われわれデザイナーもその常識に捉われていたところがありました」

「さらに付け加えると、LSというのは乗用セダンとしては私が知っている限り、唯一後席の乗員の頭の横にエアコンのレジスターがあるクルマ。トランクに設置されているエアコンユニットからレジスターに繋がるダクトをピラーに通す必要があるのですが、6ライトの細いピラーでは従来通りの通し方が不可能になってしまう。断面係数の調整や曲がり角度でも空気の流速が違ってきますから、単純に通せばいいというものでもない。6ライトの実現は、従来の常識からの脱却と、エンジニアたちの努力のふたつがあって、初めて実現できたものなんです」

 どのクルマにも似ていない唯一無二のデザインを目指したと語る須賀さん。

「新型LSを初めてご覧になった方だと、これまでとはだいぶ違うなと思われる方もいらっしゃると思います。ですが、見た瞬間に、なるほどわかりましたと終わってしまうデザインは、時代の流れのなかですぐに忘れられるデザインになってしまうんじゃないでしょうか。思わず『おっ』と声をあげてしまうデザイン。もちろんそれが嫌悪感の声ではだめです。高い完成度を目指して、従来の枠を破るチャレンジをして、魅力的なものに接したときの驚きの声をお客様が思わずあげてしまうようなデザイン。そうしたデザインこそが、長く愛されていくデザインなのではないでしょうか」

 歴代LSのなかでも、進化の飛距離は随一。そんなデザインをまとった新型LSは、レクサスブランドの新たなステージの幕開けを感じさせてくれる1台と言えそうだ。

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