「小さなクルマ、大きな未来。」とは、スズキがずいぶん前から使っているスローガンだが、その言葉の意味するところは年々深みを増している。クルマは持っていたいけれど、過剰な機能や豪華さなどは要らず「いいモノであれば、余分な贅沢さは求めない」という人が確かに増えているからだ。ではいま、どんなクルマなら注目が集まるのだろうか?REPORT●森本太郎(MORIMOTO Taro) PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Tadashi)/中野幸次(NAKANO Koji)
ひとり一台クルマを所有するような地方では軽自動車は普通だが、最近では都市型ユーザーも軽自動車に関心を寄せている。N-BOXカスタムなど、車両本体だけで200万円以上するような高価なクルマが人気なのは、上級車種からのダウンサイザーが増えていることも一因だし、軽自動車もずいぶん良くなり、これで十分という心理も働いているだろう。そうした軽自動車カテゴリーで、直近のヒット車といえば、新型ジムニーとN-VANだ。これらはクロカン四駆と商用バンであり、いままでのヒット車であるワゴンRやN-BOXのように人気ナンバーワン、直球ド真ん中の乗用ハイト系ワゴンではなく、異端のモデルであることが特徴である。
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ヒットの条件 その1:素朴であること
ジムニーには、クラスは違うけど、ジープ・ラングラーやメルセデス・ベンツGクラスなどキャラクターの似た仲間たちがいる。いずれも人気も歴史もあって、ワイルドでスタイリッシュ。高い走破性やタフなライフスタイルを演出できる格好良さもある。その中でジムニーは、圧倒的に小さく価格も安くシンプルで、贅沢さとも無縁だ。もちろん高級クロカンには高級クロカンにしかない、速さや装備や重厚さ素敵さがあるけれど、シンプルライフが標榜されるこの時代、ジムニーのシンプルさはむしろ高感度をもって受け入れられ、素朴さというひとつの魅力になっている。
一方のN-VANも、たとえば車中泊ベース車として見てみると、フリードプラスや、箱バンの王者ハイエースなどが存在する。もちろん、このカテゴリーこそ、広ければ広いに越したことがないという世界。とはいえ一方で日本人は、小さいモノづくりが得意で、小さいモノが大好きだ。それは、ミニマムな軽キャンパーが人気なことからも証明されている。大きいクルマは買えないけれど、買えないからこそ、「小さく限られた空間でどれだけのことが出来るのか」ということにトライするのに、N-VANほど適したクルマはない つまり、ジムニーもN-VANも、余計なものがついてないし、贅沢さもない。何しろN-VANは商用車だし、ジムニーだって乗用車の中では商用車的だ。ただ、いまは豪華や贅沢でないことがビハインドにならない時代。だから、素朴(でなおかつ他車にない独特な個性を持つ)なクルマがウケる。
ヒットの条件 その2:夢が広がるクルマ
軽自動車でもN-BOXのように、装備が充実して見た目にも上級感にあふれるクルマもある。でも、ジムニーやN-VANは、そうした上級感ではなく、それぞれの目的に徹したクルマだ。だからこそその特徴は抜きん出て、そのクルマでしか出来ない機能性が光る。
ジムニーの場合、もちろんそれは悪路走破性だ。ラダーフレーム、3リンクリジットアクスルというという元々の素性、そして、ブレーキLSDトラクションコントロールなどの新機能による他のクルマでは決してマネの出来ない走破力。一度でも専用オフロードコースを経験すれば、ジムニーを尊敬の眼差しで見られるようになるだろう。ジムニーに乗れば自然とラフロードを走ってみたくなる。とはいえ、たとえばGT-Rは300km/h出さなくてもその凄さが感じられるように、ジムニーは、奥深い林道に行かないとしても、そのストーリーを思うだけでも夢が広がる。「軟弱な他のクルマたちとはひと味もふた味も違うぞ」とオーナーが胸を張れるわけだ。だから街なかであっても、他のクルマに埋没しない個性を主張できるのだ。
N-VANも同様だ。「こんなに積めるんだ。こんなにアレンジを工夫できるんだ」というように、使い方、遊び方にワクワクできる。ホンダはフリードプラスもそうだけど、ただクルマをつくるだけでなく、さまざまな使い方や遊びに誘うような楽しみ方への提案が上手だ。フリードプラスなら二段フロアを活用してキャンプに出掛けてみたくなるし、N-VANなら助手席まで床下に畳んで趣味の道具を積み込み、好きな場所で好きなように寝てみるような生活をしてみたくなる。基本性能が良いことや、コストパフォーマンスに優れるのはもちろんだけれど、ただそれだけでなく、生活に新しい提案をもたらしてくれるようなクルマたちが、これからはヒット車のひとつの条件になるだろう。
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