2022年5月に発表されたトヨタ自動車の決算(2022年3月期)によると、最終的な儲けを示す純利益が前年比26.9%増の2兆8501億円で過去最高を記録しました。本業の儲けを示す営業利益は2兆9956億円、売上高は前年比15.3%増の31兆3795億円となり、いずれも過去最高。国内自動車産業を引っ張るだけでなく、日本経済の基盤を支え、行く末を決めるリーダー的な存在ともいえます。
そんなトヨタ社員のお給料って、高いんでしょうか、安いんでしょうか。常に世界を相手に戦っているトヨタ。日本的な清貧思想は脇に置いて、(儲かっているのだし)じゃんじゃん社員に支払っていてほしいのですが…さてその実態は?
業界断トツ!! さすが!!! でもやることがめっちゃ多い…トヨタ社員の給料は高いのか、安いのか
文、図表/松崎隆司(経済ジャーナリスト)、写真/トヨタ
■国内自動車メーカーのなかではトップの年収857万円!!
新型コロナとロシアのウクライナ侵攻で、燃料価格や穀物の価格が急騰しています。もはや消費者の我慢も限界、賃金アップをしてもらわないとやっていけない…という人も少なくないでしょう。
ところが日本の平均年収は1992年の472万円をピークに、平均年収の減少傾向が続いているんです。ちなみに直近の2018年は433万円です。すでに海外の平均年収で比べてもどんどん抜かれています。
日本労働組合総連合会(連合)は2023年の春季労働闘争で基本給を一律に上げるベースアップで3%、定期昇給を合わせて5%の賃上げを求めていくそうです。これはデフレ脱却の機運が高まった2014年以降、28年ぶりの最大の要求水準となります。
そのような中で、日本銀行など金融当局者が注目しているのがトヨタの動向です。トヨタは自動車業界のリーディングカンパニーですが、これはなにも自動車業界だけの話ではありません。売上高、利益、株価時価総額、正社員数はいずれも日本最大の企業なのです。ちなみにトヨタの連結売上高は世界52位、カタールのGDPに匹敵します。
さらに、帝国データバンク(2021年)によると、グループ企業はアイシン、デンソー、トヨタ紡績など15社。グループ企業の取引先は一次下請先として6380社、二次下請けが3万5047社、合計4万1427社あるそうですから、その裾野は広大。それだけ日本の経済にトヨタの一挙手一投足が大きな影響を与えるということなのでしょう。そんなトヨタ社員の年収は、高いのでしょうか、安いのでしょうか。
トヨタ自動車の2021年度の平均年収は857万円です。これは日産自動車の811万円、本田技研工業の778万円などに大きく水をあけ、国内主要自動車メーカーの中ではトップです。(図表1)
図表1/国内自動車メーカーの社員平均年収
では他ジャンルの上場企業と比較してみるとどうでしょうか。
商工リサーチが2022年8月9日、上場企業3213社を対象にした「2021年度『平均年間給与』」の調査によると、平均給与(年間)は605万5000円ですから、トヨタは200万円以上高いわけです。
しかもトヨタの年齢別の平均は20代で300~600万円、30代で600~750万円、40代では700~950万円、50代では900~1000万円となり、職種別では主任クラスで1000万円近くを稼ぎ、基幹職(課長以上)でなくても残業を含めれば1000万円を超えるそうです。福利厚生も充実している会社ですから、社員からも不平めいた話は聞こえてきませんし、中途採用者にもかなり人気のある会社です。
しかし、大企業の中で比べると「トップクラス」とまではいえません。1位のM&Aキャピタルパートナーズ(2688万4000円)、2位のキーエンス(2182万7000円)、3位ヒューリック(1803万2000円)には2倍以上差をつけられています。
異業種のリーディングカンパニーと比べてみてもそれははっきりしています。商社の三菱商事(1558万8000円)、証券業界の野村ホールディングス(1440万5000円)、損保業界の東京海上ホールディングス(1412万7000円)、建設業界の鹿島建設(1127万9000円)、不動産業界の三井不動産(1273万8000円)と、かなり差があります。
実はトヨタグループの豊田通商も1114万2000円と、トヨタ自動車よりも高いのです。
円安が続き、自動車メーカーは為替損益で好調になる…と思われていたが、資材高騰と半導体不足で業績は急ブレーキ。それでもメーカーにとって人材は宝。優秀な人材確保のために、賃金は重要な要素だが…
■来年度の「春闘」で…どうなる??
ではトヨタ自動車はまだまだ社員の平均年収を上げる余地があるのでしょうか。過去5年間の収益と春闘の動き、そしてトヨタの社員の年収の推移を見てみることにしましょう。(図表2)
図表2/トヨタ社員の5年間の平均年収推移
トヨタの2017年度の連結決算では売上高が29兆3800億円、2018年度をピークに2019年度、2020年度は減収となっています。これは新型コロナの影響などが強く出ているからでしょう。
一方で、春闘では2017年から毎年1万円(年収ベースでは12万円、年収の1%程度)前後の賃上げを達成しています。2022年の春闘では回答指定日を前に組合の要求を満額回答しました。減収の中でもしっかりと賃上げをしているところはさすがトヨタと言わざるを得ません。
しかし、春闘でしっかりと賃上げを実現しながら、2017年度のトヨタ社員の平均年収は831万円だったのが2018年度には851万円、2019年度は865万円と、順調に増加するものの、2020年度は858万円、2021年度は857万円と減少に転じています。なぜこうなっているのか。
この点について給与問題に詳しい東京商工リサーチ情報部の坂田芳博課長は次のように説明しています。
「2020年以降は、新型コロナの影響で残業などもしずらくなっていますから、残業代なども大きく減少しているとみられます。そうした影響がでているのではないでしょうか」
経団連の十倉雅和会長は11月7日の定例記者会見で、2023年の春季労使交渉で基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)を中心とした賃上げを会員企業に呼びかける方針を表明しました。
物価高の中で、働き手の実質賃金の目減りしていることに対し、企業も本気で取り組んでいかなければならないということなのでしょう。
ただし、自動車業界はEV移行に向けたさまざまなリストラや設備投資を行っていかなければなりません。さらに4万1427社という極めて多くの取引先を抱えているトヨタは、自社だけでなくそうした取引先の将来のことまで考えながら投資をしていかなければなりませんから、おのずと慎重になります。
またその一方で、人手不足の問題も抱えており、優秀な人材の流失を防ぎ、競争力を高めていくためには、それに見合った賃金を提供していく必要があります。さらに社会全体の賃上げが進めば、国内の自動車販売台数拡大にもつながっていきます。
トヨタも2023年の春闘ではベースアップを含め、かなり思いきった対応を取るのではないかと思われます。
2022年11月の中間決算で会見に臨む、トヨタ自動車の近健太取締役・副社長(Chief Financial Officer)。自動車界は世界的に空前の混迷期に入っていると言えるが、それでもトヨタらしく日本の自動車界に貢献してゆく、と語った
(編集部注/2022年11月1日に発表されたトヨタ自動車の今年度(2023年3月期)の中間決算によると、空前の円安による為替影響により、およそ5600億円の利益が生まれるものの、これまた空前の資材高騰が影響してその利益を食いつぶし、決算は増収減益、世界年間生産台数は970万台から下方修正して920万台に、期末決算は営業利益2兆4000億円、純利益2兆3600億円を見込んでいる。この中間決算会見で、今健太トヨタ自動車副社長は「地政学上のリスクや半導体の影響など、裾野の広い自動車産業にとって、将来にも大きな影響を与えかねない変化が同時進行で起きている」、「これまで長い時間をかけて培ってきた競争力と体質改善、自動車産業の多くの仲間との信頼関係を力に、(日本社会と自動車産業全体への貢献に)取り組んでいきたい」と語った。大変だとは思うが、どうにか頑張って利益を出して、国内納車長期化問題(需給ギャップ)解消に取り組み、技術開発に注力しつつ、魅力的な新型車を作り続け、(関連会社含む)社員にたくさん給料を払い、日本産業界全体の賃上げにも貢献していただきたい(要求が多い))
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