アウディの最新ディーゼル・エンジンを搭載した「A7スポーツバック」に今尾直樹が試乗した。メルセデスやBMWより遅れて投入されたディーゼルモデルの魅力とは?
驚くほどスムーズなディーゼル
2019年に登場した「Q5」に続いて、アウディの直噴ディーゼル・エンジン、TDI(ターボチャージド・ダイレクト・インジェクション)が「A6」と「A7スポーツバック」に追加となっている。ここでは、超イケメンのラグジュアリー・クーペ、セダンとクーペとワゴンの三位一体、A7スポーツバック 40 TDI quattroに試乗したので、その印象をお伝えしたい。
試乗車はSライン・パッケージに21インチ・ホイール&タイヤがオプションで選ばれていて、クールなイケメンぶりにいっそうの磨きがかかっている。
早速乗り込んでスターター・ボタンを押すと、ぶるん、とボディ全体が揺れる。最新ディーゼルといえども、軽油を圧縮して爆発させる原理は同じである。同じである以上、その爆発力というのはガソリン・エンジンよりスゴイ。ゆえに、ぶるん、と揺れる。
ところが、走り出してみると、“クリーミー”ということばが浮かんできた。超なめらか。アクセルを全開にすると天井知らずにまわって、トルクが湧き出してくる。黒澤明の名作「椿三十郎」のラストのごとく、ブワーッと。まだ観ていないかたもいらっしゃるだろうからネタバレご注意です。
ともかく、新開発の2.0リッター直列4気筒ディーゼル・ターボ、型式「EA288 evo」は、アッとおどろくタメゴローであった。そのスムーズさときたら、これまでのディーゼルに高級エシレ・バターを塗ったかのごとくなのだ。
2018年のウィーン・モーター・シンポジウムで発表されたEA288 evoは、2015年に発覚したVWのディーゼル排ガス不正問題以後に同社が開発した最新ディーゼルで、その名の通り、EA288の改良版である。
EA288は、日本市場でもフォルクスワーゲン・ブランドでは「ゴルフ」、「ティグアン」、「パサート」と各種に横置きで搭載されており、すでにおなじみと言える。アウディQ5ではこれを縦置きにして使っている。同じ縦置き同士で較べると、EA288 evoは最高出力が190psから204psにアップ。発生回転数の3800~4200rpm と、最大トルクの400Nm/1750~3000rpmという数値は変わっていない。
ディーゼルだからガソリン・エンジンに較べると、最高許容回転数は当然低い。なのに天井知らずにまわると感じたのは、ディーゼルにありがちなトルクの頭打ち感がまったくなくて、しかも7速Sトロニック、一般用語だとデュアル・クラッチ・トランスミッションが電光石火のシフトアップで上のギアへとつないでいくからだ。
しかも、EA288 evoはマイルド・ハイブリッド・システムを標準装備する。アウディでいえば、3.0リッターV型6気筒ガソリンの「55TFSI」で使っている48Vではなくて一般的な12Vで、スターター・モーターよりも大型のBAS(ベルト・オルタネーター・スターター)と、電装系用のフツウの12Vバッテリーとは別に、BASとエネルギーをやりとりするリチウム・イオン・バッテリーを搭載している。
BASは55~160km/hの範囲でエンジンを休止してのコースティング走行、または22km/h以下でのアイドリング・ストップからの再始動を担う。このあたりは48VのBASと同じだけれど、12Vの場合、加速時のエンジン・アシストが5秒間に限られている。リチウム・イオン電池の容量が小さいからだろう。とはいえ、モーターとして2kW(2.7ps)、60Nmのパワーとトルクで、ときに車重1900kgのA7スポーツバックを加速する一助をなす。
5秒は短いような気もするけれど、プロレスの反則5カウントを思い出すと、5カウントは存外長いことに気づく。2kWと60Nmも、使いようであるにちがいない。
デッンキですかー。デンキがあれば、なんでもできる。
もっとも、ドライバーとしては、この12V電圧のベルト駆動のスターター兼発電機がいつなんどきエンジンを補助しているのか、トヨタ・プリウスのようにエネルギーのやりとりがデジタル表示されるわけではないので、エンジンとBASと電池がどのように働いているのか、さっぱりわからない。
確かなことはEA288 evoが、ウルトラ・スムーズで、ある種の万能感さえドライバーに抱かせるほどパワフルでトルキーに感じる、ということである。
飛ばすほどにクルマがスムーズになる
ときに、アクセル・オフ時に軽く加速するような感覚があるのは、最近のアウディのガソリン・エンジンにも共通する。低燃費=CO2排出量の削減をおもんぱかって、エンジン・ブレーキがほとんど効かないことが、筆者の感覚と微妙にズレているのだろうと思う。
そういう微妙なズレは気にすると気になるけれど、気にしなければ気にならない。鷹揚にドライブしていると、アウディA7スポーツバック 40 TDI quattroは、高速道路をクールに快走する。アウディが1989年に送り出して以来、看板としてきた乗用車用直噴ディーゼル、TDIと、高速4WDであるquattroシステムを備えた、アウトバーンでこそ真価を発揮する高速巡洋艦なのだ。
いかに高速セッティングかというと、100km/h巡航だとトップの7速に入らない。マニュアルで7速ギアに変速しようとしても、無反応で6速に止まり続ける。6速でも1800rpmぐらいで、エンジンは十分すぎるほど静かだから、それで問題があるわけではない。遮音材もたっぷり使ってある感じの静粛性も手伝って、自分で運転していても、これがディーゼルであることを忘れる。
ドライバーには、クルマが速く走りたがっていることが伝わってくる。飛ばすほどにクルマがスムーズになって、生き生きとしてくる。冒頭に記したように試乗車はSライン・パッケージで、しかも21インチ・ホイール&タイヤが選ばれている。ちなみに、これだけで110万円のオプションだけれど、イケメン度が上がることには疑いがない。
Sライン・パッケージがカッコウ重視とは言えない。21インチであることをまったく意識させない快適な乗り心地を備えているからだ。40万円のオプションのドライビング・パッケージに含まれるダンピング・コントロール・サスペンションがいい働きをしている。255/35なんて超扁平のピレリPゼロを履いているのに、荒れた路面でも追従性抜群、しなやかに脚が動いて、乗員にショックを伝えない。
全長5m弱、ホイールベース2925mmの巨体にして、よく曲がるのは、ドライビング・パッケージに含まれるダイナミック・オール・ホイール・ステアリング、4輪操舵によるものだろう。ステアリングの操作に対して、クイッとノーズが、ちょっとデジタルっぽく感じるほど俊敏に反応する。電子制御の味付けがちょっぴり人工的で、わかりやすすぎるきらいがあるのだ。
明瞭な弱点は、試乗車固有の現象かも知れないけれど、荒れた路面でセンター・コンソール付近からギシギシという低級音がすることだ。基本的にはしなやかな脚と頑丈な身体の持ち主で、洗濯板のような路面以外では、この音は発生しない。なので、オウナーですら知らないまま過ごすことになるかもしれない、この大型クーペの秘事である。
ガソリンモデルより安価
撮影を終えた帰り道、ひと休みのために売店に寄ってボーッとソフトクリームを食べ、それからアウディA7スポーツバックのところに戻ったとき、私はそのカッコよさに改めて惚れ惚れした。
なんたるイケメン。
それでいて、ちょっぴりエキセントリックなところがあって、昔のフランス車みたいなギシギシ音がしたりもする。もしかして、このクルマはシトロエン「CX」に代表されるようなタイプの現代版と言えるのではあるまいか……。好きなひとはものすごく好き。そういう偏愛の対象である。そう考えると、クールでスタイリッシュなこのイケメン大型クーペが、筆者には愛おしく思えてきた。
しかも、812万円という価格は、一般にディーゼル・エンジンはコストがかかるはずなのに、2.0リッター・ガソリンのA7スポーツバック 45 TFSI quattroの819万円より安いのである。
45 TFSIは最高出力245ps、最大トルク370Nmで、40 TDIはトルクでは勝っており、高速燃費ときたら、カタログ上の数字でも、かたや14.2km/リッター、こなた17.6km/リッターでTDIが圧勝している。
A7スポーツバック 40 TDI quattro、812万円は絶対的にはお高いけれど、お買い得感もある。熱愛の対象になってもおかしくはない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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後進国のみ?
今更ディーゼル車はいらないよ