■賛否のクラウン…乗って分かったクラウンらしさ
2022年7月15日に発表されたトヨタの「16代目クラウン」。これまでのクラウンとは異なる姿に対して、SNSなどではさまざまな意見が飛び交っています。
そうしたなかで、新型「クラウンクロスオーバー」が同年9月1日に発売されましたが、実際に乗って分かった「クラウンらしさ」とはどのような部分なのでしょうか。
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SNSなどで「こんなのクラウンじゃない!!」、「最初は違和感あったけど、見慣れるといい」、「今までとは違うが、カッコいいよ」 といった意見があることに対して、豊田章男社長は次のように語っています。
「ここまで話題になるのは、やはり“クラウンだから”でしょう。賛否があるのはいいことで、むしろ“相手にもされない”ことのほうが問題だと思っています」
なぜ、クラウンはここまで変える必要があったのか。まずはそこをシッカリ理解しないと16代目は語れません。
クラウンのDNAは「革新と挑戦」ですが、世代を重ねていくにつれ、その伝統が逆に足かせとなり、「変えたくても変えられない」状況になっていました。
そんなクラウンに対してユーザーは「革新と挑戦」よりも「保守と伝統」というイメージを持っていたはずです。その結果、ユーザーの年齢層は世代を重ねるにつれて高くなっていました。
つまり、そんな状況に対して、トヨタは「変わる」ための努力はしていました。
先々代となる14代目はデザインを大胆に変更、前代未聞となるピンクのボディカラーや直列4気筒エンジンをメインにしたパワートレイン展開が話題となります。
先代となる15代目はトヨタのクルマづくりの構造改革「TNGA」をフル活用してメカニズムを刷新。日本専用車にも関わらず海外でも通用する走りの実現のために、ドイツ・ニュルブルクリンクで走り込むなど様々な改革を進めました。
それでも事態が好転することはありませんでした。レクサスブランドの日本展開、「アルファード/ヴェルファイア」の存在、高級車の立ち位置の変化、さらには輸入車の躍進など、クラウンの立場を揺るがす存在や環境の変化に対応できなかったわけです。
ユーザーの心理も「いつかはクラウン」から「誰もクラウン」を経て「本当にクラウンでいいのか?」に変わっていたのでしょう。
そんな状況から、豊田社長は「このままではクラウンは終わる……」という強い危機感を感じたそうです。
そして「見た目や走りが変わるだけではダメ、根本から変る必要がある」と考えたといいます。
そこで生まれたのが16代目というわけです。
「皆が求めるクラウンはひとつじゃない」と4つのモデルバリエーションを用意していますが、その先陣を切って発売されたのが「クロスオーバー」となり、セダン+SUVの発想で生まれたセダンを超えたセダンです。
■新型クラウンクロスオーバーの内外装はどう進化した?
今回試乗したのは、2.5リッターNA+THSII(シリーズパラレルハイブリッド)のモデルのみ。
注目の2.4リッターターボ+1モーター(デュアルブーストハイブリッド)は暫しお預けです。
エクステリアは従来のザ・セダンから脱却し、クーペシルエットとリフトアップの融合です。
パッと見は大柄に見えますが、実際のサイズは全長4930mm×全幅1840mm×全高1540mm。
「クラウンは全幅1800mmを超えてはダメ」という従来の掟は破られていますが、グローバルで見ると標準サイズです。
タイヤはレザーパッケージが225/45R21、それ以外が225/55R19を装着。実は19インチモデルにはオプションで225/60R18も設定されています。
大型グリルをやめたフロントマスク、面の抑揚で表現したサイドビュー、左右一直線に繋がるヘッドランプ/テールランプなど、「威圧」、「圧倒」とは違った新たな高級車像をアピールしています。
個人的にはフロント/リアのラインプ周りの造形にスピンドルシェイプが特徴だった4代目の雰囲気が匂うデザインに感じました。
ボディカラーはバイトーン/モノトーン合わせて12色が用意されていますが、メインカラーのひとつである「プレシャスブロンズ」は、面の抑揚が強まることでグラマラスな印象、逆に定番の「プレシャスホワイトパール」は面の抑揚が抑えられることでデザインは全く違うのに先代(15代目)との共通性を感じました。
インテリアは水平基調のクリーンなインパネからドアにかけて連続性のあるデザインで、イメージ的には先代の改良モデルをよりクリーンでシンプルした印象です。
エクステリアの攻め具合に対しては想定内かなと思う部分もありますが、どこか落ち着いてホッとした気持ちになったのは、歴代クラウンの“おもてなし”が継承されたと解釈しています。
その一方で、ソフトパッドとハード樹脂との質感の差やそれをより目立たせてしまうシボの使い方、重厚感がないドアの開閉音、煩雑なレイアウト&金属加飾に見えないプラスチッキーなセンターコンソール周り、カップルディスタンスがあるにも関わらず縦置きのままのカップホルダーなど、細部のツメの甘さは「クラウンらしくないな」と思います。
メーターはフル液晶で4つのテイストと3つのレイアウトから好みに合わせて選択可能です。
燃費やハイブリッドモニター、運転支援などを同時表示できるようになったのは大きな進化ですが、それを選択するための操作方法は要改善レベル。
細かい話になりますが、さまざまな設定はメーター内で操作できますが、平均燃費のリセットだけはセンターモニターで操作というロジックも違和感を覚えるうえ、相変わらずワイド画面を全く活かせていないセンターディスプレイも改善が必要です。
現在、トヨタのクルマの開発は機能軸ではなく商品軸で進められていますが、残念ながらインフォテイメントの部分だけは機能軸のままに感じます。
汎用性が求められるのも解るのですが、もう少し個々のクルマに“寄り添う”努力も必要ではないでしょうか。
運転席に座ると先代とは明らかに異なる目線の高さですが、着座姿勢やコクピット感覚で運転に集中できる環境などはクロスオーバーではなくセダンです。
一方、助手席に座ると開放感ある空間で心地よく移動を楽しめるでしょう。リアシートは2850mmのホイールベースと大きなリアドアガラス&ラウンジのようなシートによる居住性の高さなどからフォーマルユースにも活用できそうです。
ラゲッジは若干狭く、伝統のゴルフバック4個搭載可能はできず3個ですが、それでも十分なスペースといえるでしょう。
ちなみに歴代クラウンの伝統装備である助手席肩口パワーシートスイッチとフロントのシートバック後ろに装着されるアシストグリップは一部グレードに装着されますが、運転席ドアに装着されるテールゲートオープナーや空調のスイング機能は廃止。
この辺りは選択と集中だと思いますが、ちょっと割り切りすぎな感も。形は変わっても歴代ユーザーが「あぁ、これこれ!!」と感じてもらえるようなアイテムは残すべきだったと思っています。
■随所が進化したが…THSII独特の気になるポイントとは
パワートレインは2.5リッター(A25A-FXS)×THSIIを搭載。先代の主力ユニットと同じものの、縦置き→横置きに変更、E-Four(電気式4WDシステム)、そしてバイポーラ型ニッケル水素バッテリーが採用されています。
パフォーマンス的には十分以上の性能を備えていますが、実際に乗っていると「余裕」を感じないのが残念なところです。
その原因のひとつが「音」だと思っています。恐らく、絶対的な音量は低いはずなのですが、高効率エンジン特有の“濁音”の多い音質が自分のアクセルワーク以上にエンジンが回ってしまっているように感じてしまいます。
この辺りはANC(アクティブ・ノイズ・コントロール)やASC(アクティブサウンドコントロール)といった制御系をより活用できるといいと思います。
また、THSIIが抱えていた回転と加速のズレは長年の進化・熟成で良くなっているものの、日産の新世代e-POWER(エクストレイル)やホンダの進化型e:HEV(シビックやZR-V)を体感してしまうと、フィーリング面ではちょっと厳しい部分も否めません。
この辺りは2.4リッターターボ+デュアルブーストハイブリッドに期待ですが、THSIIもイノベーションが必要かもしれません。
個人的にはせめてレクサス「LS/LC」で採用のマルチステージハイブリッドの横置き版が欲しいところです。
フットワークはどうでしょうか。
実は乗る前は「FF横置きでFRのような走りができるのか?」と心配したものの、走り始めてすぐに「これはクラウンだ!!」と感じました。もう少し具体的に説明していきましょう。
プラットフォームは形式的には「GA-K」ですが、フロントがSUV用、リアがセダン用を最適化した新型クラウン用専用品で、サスペンションはフロントがストラット、リアが新開発のマルチリンク式の組み合わせです。
個人的にモノ申したいのは、それを単にGA-Kと一括りで語ってしまうのは、“商品性”という意味では疑問です。
個人的には普通のGA-Kとは違う「GA-K+」、もしくは「クラウン専用GA-4」と呼んでも良かったと思っています。
ステアリング系は歴代クラウンと同じく軽めの設定ですが、単に軽いだけでなく初期応用の良さ、雑味要素が少ない滑らかな操舵感、路面からの情報の豊かさ(=直結感が高い)などから、扱いやすいのに信頼できます。
■乗り心地は「クラウンらしさ」を感じる部分?
フットワークは日常域では駆動方式の概念が変わる走りです。そのひとつが「コーナリング時の旋回姿勢」で、横置きFFのようにフロントを中心に旋回ではなく、まるで重量配分が整った縦置きFRのように旋回軸がドライバーの近くにあるようなイメージです。
この辺りは四輪操舵(DRS)やACA(アクティブコーナリングアシスト)といった最新の制御技術に加えて、ステアリング舵角入力に応じたリアモーターの駆動力の相乗効果により、そのような姿勢を作り出しているのでしょう。
それに加えて、コーナリングの一連の流れに連続性があるのはもちろん、滑らかでスムーズなクルマの動きなどから、トヨタ車共通の味「Confident(安心) & Natural(自然)」のひとつの完成形に感じました。
ただ、誤解してほしくないのはスポーティな味付けではなく、「気負いなく高性能を味わえる」といった本質的なスポーティさを備えていることです。
その証拠に乗り心地は21インチを履いていることを忘れるくらい高いレベルにあります。路面からの入力が優しさはもちろんですが、個人的にはショックを吸収させるスピードにクラウンらしさを感じました。
具体的にいうと、ショックをシュッと素早く吸収するのではなく、少しだけ時間をかけてジワーッと吸収させるようなイメージです。
なので、乗員は「このクルマ、フワフワしないけど優しいよね」と感じられる快適性に仕上がっていると思います。
とはいえ、大きな入力が入ると21インチの弊害がないわけではありません。その辺りが気になる人は19インチを選ぶといいと思いますが、そうすると見た目が気になることを考えると、20インチくらいが適正な気もしています。
ちなみに小回り性能はDRSの効果も相まって5.4mとボディサイズを考えると優秀です。
さらに驚いたのはブレーキ性能で、いわゆる回生協調ブレーキを採用していますが、それを微塵も感じさせないタッチの良さとコントロール性の高さ。
この辺りは電動油圧ブレーキがアキュムレーター式からオンデマンド式となったことが大きいようです。
※ ※ ※
見た目やメカニズムは刷新していますが、乗るとクラウンの伝統はシッカリと継承されていると感じました。
では「クラウンとは何か?」ということになりますが、筆者は「時に優しく、時に頼もしい、そしてどこかホッとする」というところなどから、「お母さん」のような存在なのかなと思っています。
ちなみに正式発売開始から約1か月で2.5万台に達したそうです。つまり、多くの人が16代目のクラウンに“好意的”だということを証明しています。
しかし、これは序章にすぎずこれから登場予定の「スポーツ」、「エステート」、そして「セダン」が出揃ったときに、本当の「16代目クラウン」の実力が解ると思います。
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それに対するコメントはしないの?
という記事を書いたら盛り上がるのに。
勇気を持って事実を書こうぜ!