コロナ禍を経て、スーパートロフェオはどう変わった?
スーパートロフェオ・アジアシリーズの2024シーズンも、マレーシア、オーストラリア、韓国、日本、中国と5戦を消化し、残すは11月のスペインのヘレス・アンヘル・ニエト・サーキットで開催されるワールドファイナルを残すのみとなりました。そこで、まだランボルギーニのワンメイクシリーズであるスーパートロフェオが何たるものか知らないAMW読者のために、AMW編集長西山が、APACディレクターのフランチェスコ・スカルダオーニ氏に改めて話を伺ってきました。
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ただのレースではなく、ライフスタイル!
スーパートロフェオのアジアシリーズが始まったのは、2012年。ヨーロッパではすでに4シーズン目となる年であった。ちょうどその頃、ズーハイやオルドスで開催されたスーパートロフェオを取材したのが懐かしい。当時はラウンジにブランパンが飾られていたのものだが、いまではロジェ・デュブイとなって久しい。かつては世界最速の4WDワンメイクレースであったスーパートロフェオ。コロナ禍で3年も中断していたこともあって、久しぶりのサーキットでの取材となった。コロナ禍を経て、スーパートロフェオに変化はあったのだろうか。スーパートロフェオ・アジアシリーズ第4戦の富士スピードウェイのラウンジで、APACディレクターのフランチェスコ・スカルダオーニ氏に尋ねてみた。
──ずばり、スーパートロフェオの魅力を教えて下さい。
「ライフスタイルの一環であると捉えています。(ラウンジの中央にあるオープンキッチンを指さしながら)こういったような環境、つまりラウンジを用意して、イタリアのシェフによるイタリアの食を堪能してもらうことも、そのひとつです。これは、ドライバーだけでなくカスタマーの人たちも享受できるものです。
参戦するドライバーにとっては、ウラカンのスーパートロフェオは市場で入手できる一番速いクルマ──あたかもGT3に近い性能ですので、GT3を運転しているようなスリル、スピード、それから、アドレナリンを体感することができます」
──そもそも、スーパートロフェオはどういった経緯で始まったのでしょう?
「われわれランボルギーニのカスタマーのなかには情熱を持ってレースカーを安全な環境で運転したいという方が多いということで、ジェントルマンドライバーに向けてスタートいたしました。その後はいろいろなクラスへと発展していきました。ジェントルマンドライバーは自分たちのドライビングスキルをさらに上達させたいという思いを持っています。それからプロのドライバーを雇ってチームを組み、ジェントルマンドライバーのコーチとしても務めてもらいました。ジェントルマンドライバーがよりよくドライビングできるように、より速くレースカーに乗れるようにコーチングしてもらっています。またプロにとっても魅力的なレースになっています。あたかもGT3に近い性能を持っているスーパートロフェオ車両ですので、GT3の体験をすることができるのです」
──かつて、日本では富士スピードウェイ以外でもスーパートロフェオが開催されたこともあります。来年以降も日本での開催は1戦のみでしょうか?
「日本におけるレースは今のペース、1レースで維持していきたいと思います。おそらく、ここ富士スピードウェイでの開催になるのではないかと思います。といいますのも、スーパートロフェオというのは国際的な選手権としては唯一のものとなっていますので、ジェントルマンであれプロであれ、ドライバーの皆さんに国際格式のサーキットで体験をしてもらいたいというふうに考えております。各国に最もアイコン的なレーストラックがあり、その最もそのアイコン的なレーストラックをひとつ選んで開催しています。そのアイコン的なレーストラックとしては、日本においては富士スピードウェイもそのひとつです」
過去のスーパートロフェオ車両の活用法は……
スーパーカーブランドのワンメイクレースといえば、1993年にスタートした「フェラーリ・チャレンジ」が有名だ。2022年には英国についで日本でも単独開催の「フェラーリ・チャレンジ・ジャパンシリーズ」が創設されている。また、「クラブ・コンペティツィオーニGT」というフェラーリのGTカーを対象とした走行イベントもスタートしている。F40コンペティツィオーニ、348 GTコンペティツィオーニ、360 GTC、575 GTC、F430 GTC、F430 GT3などが対象となっており、それらが一緒にサーキットを走行するシーンはファンならずとも一見の価値がある。ファンとしては、ランボルギーニでもガヤルドやウラカンのレース車両だけを集めた走行イベントに期待してしまうものだが、こうしたフェラーリの動向にランボルギーニも追随することはあるのだろうか?
「ランボルギーニとして、レースカーをひとつのグループにまとめて行うイベントは、現在計画しておりません。スーパートロフェオは、国際的な場に参加してもらうことができ、この国際性を持つワンメイクのシリーズの中でも数少ないもののひとつです。どこかの特定の国に特化しているわけではなくて、アジアパシフィック全体でマシンを走らせ、新しいカスタマーに魅力を感じてもらっています。新しいクルマに関してもそうですけれども、そういう魅力を感じてもらうというのは非常に大切なことであると思います。このスーパートロフェオの主な目的は、カスタマーにレースに参加してもらうということです。ランボルギーニに乗る歓び──その情熱をこの環境の中で共有し合ってもらいたいのです。そしてこのライフスタイルのイベントを楽しんでもらいたいと思っています」
──昨今のランボルギーニは、女性に対しても様々なアプローチを行っていますが、スーパートロフェオにも今後、女性ドライバーを増やしていきたいとお考えですか?
「女性ドライバーの参戦は、ランボルギーニが常に模索をしている多様性にも繋がると思っています。すでに女性が2名参加していますけれども、さらに増やしていきたいと考えております。女性ドライバーたちを応援支援していきたいと思っております」
テメラリオにスイッチしたらハイブリッドになる?
──今後、スーパートロフェオの車両はテメラリオにスイッチしていくと思います。テメラリオはハイブリッドですが、スーパートロフェオ車両もLMDh車両の「SC63」のようなハイブリッドになるのでしょうか?
「今のところ内燃エンジンだけを使っていきたいと考えています。ハイブリッドや高圧燃料ポンプのシステムは考えていません。スーパートロフェオはジェントルマンドライバーもいますので、高圧燃料ポンプのシステムを管理するのは非常に難しいと考えています。ジェントルマンドライバーが参加しやすい、それからメンテナンスするのが比較的容易な形で進めていきたいと思います。こうした理由から、今のところは純粋な内燃エンジンのマシンのみを考えいます。理由はほかにもあります。内燃エンジンだけのレースにした方が魅力的で開催しやすく、チームにとってもコストを抑えることができます。レーシングシリーズの中でもピラミッドの頂点にあるLMDhにおいては、ハイブリッドを使っていますが、スーパートロフェオやGT3においては、今はハイブリッドを使うことは考えていません」
──最後に、日本のランボルギーニのオーナーとファンにメッセージをお願いいたします。
「これからも常にランボルギーニをフォローしていただきたいと思います。というのも、ランボルギーニはいつも新しいクルマ──クルマを再定義したものを常に提供してきました。ランボルギーニは現状に満足せず、クルマを再定義し、アイコン的なクルマを創るという目的を持って設立し、スタートしています。そして常に時代のトレンドを生み出してきました。つまり、カスタマーにとってもファンにとっても、夢となるようなクルマを提供し続けてきました、ミウラ、カウンタック、それからアヴェンタドールに続く歴代モデル、そして新しくテメラリオというアイコン的な新型モデルも導入されます。常にランボルギーニはアート、テクノロジー、それからデザインのあり方を変えようということで努めてきました。今後もそうしたことにチャレンジしていくランボルギーニに注目していてください」
* * *
ランボルギーニの創設者であるフェルッチオは、反骨の人であったと思う。常にチャレンジャー。そうしたファウンダーのイメージを踏襲しつつ、洗練されたエッジな存在へと昇華したのが現在のランボルギーニだろう。ランボルギーニの市販モデルを擬似日常で使ったことが何回もあるが、たしかに通勤で使うと疲れるどころかパワーを貰っている感覚になる。映画『ドクター・ストレンジ』の主人公の神経外科医が愛車として使うのも納得。そうした延長線のずっと先に、カスタマーにとってのスーパートロフェオがあるのは、想像に難くない。多忙なビジネスエリートこそ、サーキットで数日をランボルギーニの世界とスピードに浸ってリフレッシュ、チャレンジングなマインドにリセットされるのである。
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