ただものではないケンメリを発見
もともとチューニングカーやカスタムカーの世界を広く知らしめるべく「東京エキサイティングカーショー」という名称でスタートした「東京オートサロン」。その歴史からもわかるように、各ショップのブースには毎回派手なエアロで武装したチューニングカーやカスタムカーが数多く展示されます。2024年1月12日~14日にかけて開催された今回のショーでも強烈なアピアランスのクルマたちがその派手さを競っていましたが、そんな禍々しいほどのクルマたちにまざって、涼しげに展示されていたのがこちらの素の日産「スカイライン」でした。
「世界一カッコいいハコスカ」を目指した紅白2台の仕上がりが半端ない!「1/1スケールのプラモデルのノリで製作してます」
超希少なケンメリGT-R
もちろん「素のスカイライン」といっても、これは只者ではない。KPGC110、つまり「ケンメリ」のGT-Rである。ご存知の通り、デビュー以来サーキットで破竹の進撃を続けた「ハコスカ」GT-R(PGC10、KPGC10)の後継機にしてS20エンジンを搭載したGT-Rとしては最後の世代。
しかし、当時喫緊の対応が迫られていた排気ガス規制対策や石油危機の影響によってケンメリGT-Rは一度もレースに出ることもなく、一説によれば197台というわずかな台数を世に送り出しただけで生産中止。GT-Rの名は、ひとたび歴史の舞台から消えていった。そのエピソードと希少性から、「ケンメリGT-R」は今や日本国内のみならず海外のクラシックカー・オークションでもとんでもないプレミアム価格で取引されるようになっている。
R34やR35のGT-R、そして最新の「フェアレディZ」がベースのチューニングカーやドラッグマシーンが居並ぶのは三重県を拠点とするカーショップ「クルウチ」のブース。それらのマッチョなクルマたちに混ざってブースに展示されていたオリジナルのケンメリGT-Rを見ていると、サーキットにルーツを持つ「R」の荒々しさよりも、むしろ1970年代の国産車ならではの繊細さが印象深い。いかついドラッグレーサーとフルオリジナルのノーブルなヒストリックカーの共演。その展示車両のコントラストが気になったので、同社代表を務める久留内良彦さんにお話をうがってみた。
「昔からドラッグレースなどに参戦していましたが、個人的にはレースとかカスタムとかオリジナルとか、なにかひとつだけではなく、クルマ全般、特にスポーツカーが好きなんですよ」
という久留内さん。クルウチは、国産新車の販売や車検整備などを行う「よくある地方のクルマ屋さん」としての顔と、久留内さんが四半世紀にわたって取り組んできたドラッグレース活動などに見られるスポーツカー・スペシャリストとしての顔、ふたつの顔を持っているわけだ。このエリアのクルマ好きにとってはまさにオールマイティな、頼れるクルマ屋さんというべきか。
ほぼオリジナルの超プレミア車
「このケンメリGT-Rはもともとオーナーのお客さんから“売ってほしい”と預かったものでした。しかし非常にコンディションが良くオリジナル度も高いので、うちのスタッフなども“これはおいそれと売るべきでない”と。結局会社で購入し、手元に残すことにしたものです。現在のようなとんでもないプレミアム価格がつく前の話でしたが、それでもそれなりの金額でした」
とのこと。
「ほぼオリジナルですが、ドライバーズ・シートの一部だけは、張り替えてあります」
と久留内さんのいうとおり、内外装ともに高いオリジナル度を保った貴重なKPGC110。黒いスチールホイールに履かされた175HR14サイズのタイヤの細さにも時代を感じる。
自分が好きな国産スポーツカーを日本国内に残していきたいと考え、また、若い世代のスポーツカー好きを盛り上げていかないと、この世界も盛り上がってかないだろうと考える久留内さん。そんな久留内さんの夢は、三重県に国産スポーツカーを中心とした自動車博物館を作り、若い世代に本物をどんどん見てもらうこと。もちろんその時には、このKPGC110もそこの展示車両の1台となるのだろう。
じつはクルウチのファクトリー敷地内には、歴代のフェアレディZやGT-Rを中心に、すでに博物館と呼べるほどの膨大なコレクションがストックされているそう。そちらもぜひ見学にお邪魔したいものである。
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