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V12モデルの「超新星」 アストン マーティン・ヴァンキッシュへ試乗 フェラーリ最大の脅威か?

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V12モデルの「超新星」 アストン マーティン・ヴァンキッシュへ試乗 フェラーリ最大の脅威か?

完全な新設計の5.2L V12エンジン

フェラーリ12チリンドリを数週間前にご紹介したが、V12エンジンをフロントに搭載した、スーパー・グランドツアラーがもう1台登場した。電動化技術への転換が迫られる中で、今後5年間は内燃エンジンを積むハイエンド・クラスの超新星として輝くはず。

【画像】フェラーリ最大の脅威か? アストン マーティン・ヴァンキッシュ 競合と写真で比較 DB12も 全127枚

数年前に先代ヴァンテージを試乗した際、同ブランド最後の量産V12モデルになるのではないかと危惧した。ヴィクターなどの、極少量生産モデルを除いて。

だが喜ばしいことに、杞憂だった。販売数はアストン マーティンDBS スーパーレッジェーラ時代の、年間1000台前後より小さくなる。3分の2程度になる見込みだ。

長距離クルージングを嗜むクーペだが、最高出力は公道での許容範囲を超えている。それを皮肉する気はない。もう少し小さく軽く、パワーを抑えれば、一層優れたアストン マーティンになる可能性はあるとしても。

価格は上昇したが、DB11から派生したDBS以上に、高度な技術が盛り込まれている。フロントに載る5.2Lエンジンは、シリンダーサイズやバンク角は従来と変わらないが、完全な新設計。生産は、英国のオートクラフト・ソリューションズ社が担う。

小径ターボでブースト圧の立ち上がりが早く、鋭いレスポンスを実現。排気系も新開発され、効率性を高めている。

最高出力は、12チリンドリを上回る835ps。最大トルクは101.8kg-mと、32.8kg-mも太い。巨大なエネルギーを受け止めるため、ドライブモードや変速を含めた、電子システムも全面的に見直されている。

専用アルミ製プラットフォーム 最高水準の内装

アルミニウム材を接着したプラットフォームは、他のアストン マーティンの流用ではない。ホイールベースはDB12より80mm長く、特にフロント側は入念に強化され、ねじり剛性も高い。

新開発されたZF社製8速ATは、リアアクスル側へマウント。前後の重量配分は、51:49へ改善している。リアタイヤは325と太く、DB12譲りのビルシュタイン社製DTXアダプティブダンパーが組まれる。ステアリングシステムも、リジッドマウントされる。

いい換えれば、グレートブリテン島中南部のゲイドンで構築された高度な技術が、ヴァンキッシュより下位のスポーツカーにも展開されていた、ともいえる。一切の妥協のない、フラッグシップ・グランドツアラーだといっていい。

全長4890mmというサイズながら、2シーター。これも、DB12との差別化といえる。前席の背後には、荷物用の空間が広がる。リアの荷室も、小さなスーツケースが2つ載る程度。これは、もう少し広くても良かっただろう。

インテリアの仕立ては最高水準。ローレット加工された金属製ノブは、触れた指先から魅了する。内装の素材も、くまなく素晴らしい。メーター用モニターは、DB12にも用いられるものだ。

タッチモニターで操るインフォテインメント・システムも、最新のアストン マーティンで共通する。ライバルより若干操作性で劣り、画面が熱くなり、反応はおっとり。スマートフォンとのミラーリングには対応する。

遥かに高性能で個性豊か 4速でも相当な野蛮さ

運転席のポジションは、もう少し低くても良いかも。ガラスルーフが標準装備で、天井が近く感じた。シートの調整域は狭めといえるが、人間工学は優秀。長時間を過ごしても、至って快適だろう。

V12エンジンを始動させると、サウンドの迫力は抑え気味。ドライブモードのデフォルトはGTだが、セレクターでスポーツ・モードへ切り替える。それまでの遠慮が、取り払われる。

DBS スーパーレッジェーラより、遥かに高性能で個性豊かにすることが目指された。スポーツ・モード時のボリュームは、その一端。ターボが介在しても、訴求力は損なわれていない。低域では唸るように響き、高域では波動を伴うように炸裂する。

高負荷時のエンジンは、マナーが上質とは呼べないだろう。アストン マーティンは、現代の高級グランドツアラーの多くとは異なる特徴を与えた。ヴァンキッシュが宿す、動的な特性を表すものといえる。間違いなく、ドラマチックだ。

101.8kg-mの最大トルクを完璧に活かし切るには、スポーツ+以上にシリアスなドライブモードが必要だろう。それでもターボラグはほぼなく、3速でも後輪駆動とは思えないほど暴力的に速度上昇してみせる。

動的特性の懐は深く、条件が許せば3速でフルパワーを開放することも可能。4速でも相当な野蛮さ。6000rpmを超えても、エネルギーは急上昇をやめない。

旋回はひと回り小さく軽いモデルのよう

ヴァンキッシュは、カーボンセラミック・ブレーキが標準。制動力は凄まじく、耐フェード性も高いが、効きにはこの素材特有の癖がある。停止中は、ブレーキペダルを強めに踏んでいないと、アイドリング時のトルクに負けてしまうことも。

乗り心地は、低速域では少し硬め。それでもGTモード時は、アダプティブダンパーが印象的な滑らかさを生み出し、速度上昇とともに引き締まっていく。

ドライブモードによる、動的特性の幅は広い。ただし、上級グランドツアラーに求められるような、究極的な洗練性までは得ていないかもしれない。

カーブへ突っ込むと、ボディの大きさと重さが影響し、入力に対してワンテンポ遅れる瞬間があるが、直後に安定して反応。ヘアピンカーブを、積極的にプッシュしていける。脱出加速は、秀抜なトラクションと姿勢制御で打ち出されるようだ。

電子制御されるダンパーとトルクベクタリング・リアデフによって、ひと回り小さく軽いモデルのように扱える。充分な幅員のある道では存分に振り回せ、しっかり楽しい。偉業といえる才腕を宿している。

そんな新しいヴァンキッシュの英国価格は、33万ポンド(約6402万円)から。アストン マーティンは、Qと呼ばれるビスポーク部門を構えている。多くのオーナーは、独自性を強めたコーディネートを望み、相当な予算が追加されるはず。

ちなみに、12チリンドリは33万6500ポンド(約6528万円)から。法外な数字ではないといえる。

体験の魅力度で歴代を凌駕 フェラーリの脅威

速さだけでなく、惹き込まれる音響や安定した操縦性、至福の高級感など、運転体験の魅力度でも歴代を凌駕する、最新ヴァンキッシュ。スーパー・グランドツアラーとして、徹底した完成度にある。

ライバルとは明確に異なる、個性も宿す。筆者の印象では、2007年の初代ヴァンキッシュ以来の水準で。ひと回り小さく感じるスポーティーさを叶えたかわりに、上質なマナーを求めるユーザーは、乗り換えを望まないかもしれない。

反面、少し野性的で尖ったアストン マーティンがお好みなら、気に入るに違いない。フェラーリにとっては、これまでで最大の脅威になる可能性がある。

◯:条件を問わず巨大なパワーとトルクを展開できる DBS スーパーレッジェーラ以上にソウルフルなサウンド ブランドらしいリッチな運転環境
△:ライバルほど上質でも洗練されてもいない 荷室が狭め 筆者の目には、先代の方がカッコ良く映る

アストン マーティン・ヴァンキッシュ(欧州仕様)のスペック

英国価格:33万ポンド(約6402万円)
全長:4890mm
全幅:1981mm
全高:1290mm
最高速度:344km/h
0-100km/h加速:3.3秒
燃費:7.3km/L
CO2排出量:312g/km
車両重量:1910kg
パワートレイン:V型12気筒5204cc ツインターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:835ps/6500rpm
最大トルク:101.8kg-m/2500-5000rpm
ギアボックス:8速オートマティック(後輪駆動)

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