「S」が付いて何が変わった?
1963年代に登場し、70年代初頭までを駆け抜けた伝説のスポーツカー、アルピーヌA110。この名前をそっくり受け継ぐ2代目A110に、高性能バージョンとなるA110Sが昨年末に登場。日本ではまだ受注予約の状態ながら、デリバリーを待ちわびるオーナーのためにもその性能をいち早く伝えようと、ルノー・ジャポンの計らいでサーキット試乗会が開催された。
アルピーヌA110Sのサーキット試乗を写真と合わせてチェック!
A110Sのブラッシュアップポイントは、ずばりパワー&トルクの向上。これに際して足まわりにもスタビリティアップが施された。ただしルノー・ジャポンによれば、その狙いは単なるA110の高性能化ではないという。スタンダードなA110が「走りの愉しさ」を追い求めたのに対し、A110Sはその操縦性において、より高い「精度」を求めたというのだった。
まずはA110SとA110Sを乗り比べ
A110とA110Sの比較試乗は、筑波サーキットのバイクシケインと、バックストレートに設置された特設パイロンコースを交えて行われた。これまで一般公道での試乗は経験しながらも、そもそもA110をサーキットで走らせたのは初めて。A110Sとの違いを見る前にまず、ボクは高荷重領域におけるA110の素性のよさに感動した。
A110といえばその成り立ちは、メガーヌR.S.にも搭載される「M5P」ユニットをミッドマウントしたスポーツカー。横置きエンジン+トランスミッションの組み合わせは縦置きミッドシップに比べどうしても重心が高くなるはずだが、これをアルミ製シャシーの軽さや巧みなディメンジョン、そしてシャシーワークでバランスさせている。
A110をサーキットで走らせると確かにロール量は公道よりも増え、ロールスピードも速くなったが、相変わらずそのサスペンションは足長で、タイヤの接地性変化がわかりやすい。曲がり込んだシケインやスラローム区間では俊敏かつ自然に向きを変え、アクセルを踏み出せばそのヨーイングをトラクションへと自然に変換することができた。
変化はパワーアップだけじゃない
これだけ楽しいハンドリングがノーマル状態で得られているのだから、“S”になったらどうなるのだろう!? 期待して乗り込んだA110Sは、ピットロードからすでにその違いをはっきりと体に伝えてきた。
期待のエンジン性能は、パワーグラフで見るとA110の性能曲線をなぞるように最高出力が40馬力上乗せされ、320Nmの最大トルクはそのピークが1500回転ほど高い領域まで引き上げられている。つまり高回転まで回さない限りその差は現れないはずなのだが、体感的には明らかに速さを感じるのだ。
その理由として考えられるのは、このパワー&トルクを受け止めるために固められた足まわりだろう。具体的には前後スプリング及びダンパー減衰力、スタビライザーレートを約1.5倍高め、タイヤもよりソフトなコンパウンドを専用に与えられたのだという。
また、実寸では4mmと若干だが下げられた車高やカーボン製ルーフも影響してだろうか、同セクションでの身のこなしは安定感が一段と向上。そしてバックストレッチ30km/hからの加速はA110が160km/h台、A110Sで170km/hと、確実にその差が現れた。
サーキット特化型ではない懐の深さ
待望の単独走行では、A110Sの特性がより明らかになった。まずブレーキングでは足まわりが踏ん張りを見せ、ブレーキリリースからステアリングを切っていくときの姿勢がとても落ち着いている。ダンロップコーナーではほどよくリヤを巻きながら旋回。アクセルでこれをバランスさせて、気持ちよく駆け抜けることができた。
ただ80Rのような高速コーナーでは十分にアクセルを開けられないもどかしさもあった。基本的にはグランドエフェクト以外空力に頼らないA110だが、もう少しフロントのグリップ感が高ければいいと思う。
そして加速は痛快。700馬力級スーパースポーツのような速さはないが、6000回転を超えてもそのトルクに落ち込みはなく、7速のデュアルクラッチが忙しくギアをつないでいく。それはアマチュアドライバーにとって十分な刺激であり、3.8kg/psのパワーウェイトレシオが伊達じゃないことを教えてくれた(ノーマルは4.3kg/ps)。
その軽さと速さに翻弄されながら最終コーナーへ。まだ素性が知れない分だけマージンを取ったが、その際の流れ出しもつかみやすく、扱い憎い印象はなかった。トラックモードの制御が細かく、ある程度のオーバーステアを許しながら、アクセルオンでは出力を上手に絞ってくれるのだ。もっともヘアピンのようなコーナーでオーバーステアを維持しようと大きくアクセルを開けると、出力を盛大に絞ってしまう傾向もある。
もっとじっくり走らせてみたい欲求はあるものの、総じてアルピーヌA110Sは、狙いどおりの1台となっていた。ただしその性格は、決してサーキット走行に主眼を置いたものではないと思う。ポルシェで言うとケイマンSがGTSになったようなステップ。まさに操る愉しさから、操作の正確性へと課題を進めた、エボリューションモデルである。
■A110S(MR・7速DCT)主要諸元 [ ]内はA110 ピュア(MR・7速DCT) 【寸法mm・重量kg】全長×全幅×全高:4205×1800×1250 ホイールベース:2420 トレッド:前1555/後1550 車両重量:1110 【エンジン・性能】 種類:直4DOHCターボ 総排気量:1798cc 最高出力:215kW(292ps)/6420rpm[185kW(252ps)/6000rpm] 最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm 使用燃料・タンク容量:プレミアム・45L WLTCモード燃費:12.8km/L[JC08モード燃費:14.1km/L] 最小回転半径:5.8m 乗車定員:2人 【諸装置】サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン ブレーキ:前後Vディスク タイヤ:前215/40R18/後245/40R18[前205/40R18/後235/40R18] 【メーカー希望小売価格】899万円[804万6000円]
〈文=山田弘樹 写真=山内潤也〉
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