現在位置: carview! > ニュース > ニューモデル > 「MINI 1275クーパーS」の原点、ダウントン・ミニ

ここから本文です

「MINI 1275クーパーS」の原点、ダウントン・ミニ

掲載 更新 4
「MINI 1275クーパーS」の原点、ダウントン・ミニ

ダウントン・ミニ


岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第156回

「30年前の未来のクルマ」展で改めて驚いたトヨタ4500GTの素晴らしさ


ミニの誕生は1959年。雑誌で初めて姿を見た時から強く惹かれた。日本の軽をちょっとだけ大きくした、、、そんなサイズながら、「存在感」は別格だった。

4気筒エンジンを横置きして前輪を駆動することにも驚いた。ミニにはサイズを超えたインパクトがありオーラがあった。1956年のスエズ動乱が招いたオイルショック。そんな危機への対応から生み出された「極めて経済的な」4人乗り小型車、、、。

メーカーが時代の求めに応じたクルマを作るのは当然。だが、ミニの生みの親、アレック・イシゴニスが出した答えはすごかった。それは「革新」を超えた「革命!」だった。その革命は大衆に歓迎されるだけでは終わらない懐の深いものだった。ゆえに、「あるモデル」の登場を機に、世界中の幅広いクルマ愛好家にまで歓迎の輪、、というより熱狂の輪は広がっていった。

ちなみに、幅広いとは、スポーツカー好きからロールスロイス愛好家まで、、、といった意味であり、「あるモデル」とはいうまでもなく「クーパー」の冠が付くモデルを指す。

「クーパー」は「ジョン・クーパー」の名を冠したもの。1959年と60年、F1コンストラクターズ・チャンピオンを獲得した「クーパー・カー・カンパニー」を率い、レースカーのエンジンを「ミッドシップ・マウント」するという革命を起こした人物だ。現在のミニでもっともホットなモデルである、「ジョン・クーパー・ワークス」の名の由来もここにある。


「クーパー」と「クーパーS」は強化されたエンジン、シャシー、ブレーキを装備。64年、65年、67年に(66年もトップでゴールしたが、些細なレギュレーション違反で失格)ラリー・モンテカルロで勝利を収めた。ミニのエンジンは最終的に1275ccまで拡大されたが、「1275クーパーS」の誕生が、世界中のクルマ好きを熱狂の渦に巻き込んだ。

ところで、ダニエル・リッチモンドの名をご存知だろうか。ミニ好きなら「1275クーパーSを誕生させた立役者」と答えるだろう。そう、ミニに積まれるBMC・A型エンジンの排気量は1071ccが限界とされていた。だが、ダニエル・リッチモンドが「ボアピッチをずらして拡大する方法」を提案。1275cc が実現したということだ。

ダニエル・リッチモンドは、英国のチューニングショップ、「ダウントン・エンジニアリング」の創設者だが、BMC系(オースチン、MG、モーリス)のチューニングで大きな実績をもつ。ツーリングカーやラリーでのミニの勝利も、ダウントン・エンジニアリングの関わりが大きかったことは知る人ぞ知る、だ。

世界を熱狂させた「クーパー1275S」という名車の誕生には、アレック・イシゴニス、ジョン・クーパー、ダニエル・リッチモンドという「自動車史に残る偉人3人」が関わっていたのである。ちなみに、ダウントン・エンジニアリングはリッチモンドの死後一時幕を下ろした。だが、1993年から再開しているとのこと。ビンテージミニのレストアとチューニングが「売り」と聞いている。当然だろう。


ミニが初めてモンテカルロを制した1964年、僕は、ウイルトシャー・ソールズベリー(ロンドンの南西)にある「ダウントン・エンジニアリング」を訪ねた。世界一周一人旅の途中で、、、。

ダウントンの取材は、ロンドンに着いた時ふと思いついたこと。事前の約束はなにもなかった。ロンドンで番号を調べて電話した。ろくに英語もできないのに、、、。若さ(バカさ、、!?)のエネルギーはすごい。

でも、ダウントンは快く対応してくれた。旅の途中なので時間的にも選択肢は少なかったと思うのだが、訪問を受け容れてくれた。単なる訪問取材だけではなく、「ダウントン・ミニに乗りたい」という厚かましいお願いにも「イエス」と言ってくれた。

「”ドライバー”という日本の自動車誌の編集者」と名乗ったからだろう。ドライバー誌を知っていたかどうかはわからないが、、、。

余談だが、僕はロンドンの足にバンデン・プラ・プリンセス(ADO16)を借りていた。ソールズベリーもそれで行った。小さなロールスロイスといわれたバンデン・プラ・プリンセス、、、今で言う「バックパッカーの旅人」だった僕に相応しいとはとても言えない。でも、乗りたかったので、これまた図々しく広報車を借りだした。

むろん、安いホテルに泊まっていたが、バンデン・プラ・プリンセスがもっとも分不相応に感じたのはホテルの駐車場。一台だけが「浮いて見えた」。人目があるときの乗り降りが恥ずかしかったことを覚えている。

ダウントン・エンジニアリングは、バックパッカーの僕を暖かく迎えてくれた。ミニやMGなどがチューニング作業をすすめる工場を案内してくれ、チューニングパーツの置き場も見せてくれた。詳細は覚えていないが、「ちょっと大きめの町工場」といった佇まい。そこで、いかにも職人風の人たちが黙々と作業をしていた、、、そんなことをなんとなく覚えている。

チューニングパーツの置き場では、複雑な形状のエキゾーストパイプがズラリと並べられていた光景が印象的だった。


試乗車は赤のボディにオフホワイトのルーフ。1275クーパーSをベースにしたダウントン・ミニが用意されていた。内装は簡素で、オリジナルモデルに近かったように記憶している。どんなタイヤを履いていたかも覚えていないが、車高は少し低めだったと思う。

当時のハイチューンのエンジンには気難しい性格のものが多かった。始動するにも「儀式的手順」を踏まなければならないものも多かった。90ps以上!?のパワーを引き出しているとされていたダウントン・1275クーパーSも、当然そうなんだろうと思っていた。でも、違った。

すでに工場の前に置かれていたクルマを、なんの説明もなく、ただ「楽しんで!」と笑顔で引き渡されただけだったが、それで十分だった。エンジンは難なく始動した。クラッチが重かったかどうか、、その辺りも定かではないが、ネガティブな記憶はまったくない。すべてが扱いやすかったという記憶しかない。

走りは強烈。身震いするほど速かった。1速、2速でレブリミットに達するのはアッという間。3速ではほんの一瞬ひと息つけたが、加速はほとんど落ちなかった。そして4速で最高速度に、、、短時間で達した。1275 クーパーSの最高速度は、確か160km/hくらいだったと思うが、それよりも少し低かったように記憶している。

ファイナルを低くした「スプリント用?」の特殊なセッティングだったのかもしれない。担当者にスペック関係を聞いてみたのだが、答えはなかった。

でも、とにかく速く、さらにはフレキシビリティも高かった。ほとんどレーシングチューンに近いようなパワーと速さを示しながら、街中の走りもリラックスしてこなせた。「ダウントン・チューンの真髄ここにあり」だ。身のこなしも最高だった。1275クーパーSに与えられた「ゴーカートフィーリングの原点はダウントン・ミニにあり」といって間違いはないだろう。

一時代を築いた1275クーパーSの原点に直接触れられたダウントン・エンジニアリングへの訪問は、最高の、そして自慢の思い出だ。


● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト


1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

ホンダが激カッコいいSUV発表! [アキュラADX]みたいなクルマが日本にも必要だろ!
ホンダが激カッコいいSUV発表! [アキュラADX]みたいなクルマが日本にも必要だろ!
ベストカーWeb
[車検]費用が増える? 2024年10月より車検での[OBD検査]を本格運用へ
[車検]費用が増える? 2024年10月より車検での[OBD検査]を本格運用へ
ベストカーWeb
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
即納って不人気車なの!? なんでそんなに待たなきゃならん!? [納期]にまつわる素朴なギモン
ベストカーWeb
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
いまさら人には聞けない「ベンチレーテッドディスク」と「ディスク」の違いとは? ブレーキローターの構造と利点についてわかりやすく解説します
Auto Messe Web
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
ラリージャパン2024開幕直前。豊田スタジアムやサービスパークの雰囲気をお届け/WRC写真日記
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
メルセデス・ベンツの『GLE』系と『GLS』にオンライン先行受注にて“Edition Black Stars”を設定
AUTOSPORT web
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
ラリージャパン2024“前夜祭”が豊田市駅前で開催。勝田貴元らが参加のサイン会とパレードランが大盛況
AUTOSPORT web
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
AUTOCAR JAPAN
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
セカオワが「愛車売ります!」CDジャケットにも使用した印象的なクルマ
乗りものニュース
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
トヨタWRCラトバラ代表、母国戦の勝田貴元に望むのは“表彰台”獲得。今季は1戦欠場の判断も「彼が本当に速いのは分かっている」
motorsport.com 日本版
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
AUTOSPORT web
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
AUTOSPORT web
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
AUTOSPORT web
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
くるまのニュース
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
AUTOSPORT web
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
AUTOCAR JAPAN
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
Auto Messe Web
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
AUTOSPORT web

みんなのコメント

4件
  • (今のバカでかい名前だけの「ミニ」が登場する前)この小さい車が走っていると、皆「あっ、ミニクーパーだ!」と呼んでいたので、私は都度いちいち「あれはクーパーじゃない、単なるミニ!」と訂正していた。

    それほど一般的にこの車の名称は「ミニクーパー」として認知されており、"クーパー"が付くとどう違うのか理解しようとする者など皆無だったことから、くどくど違いを説明する私のことを、周りは単なる変な兄ちゃんだと思っていたと思う。まぁ今や成長して単なる変なジジイになってしまったが・・・
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

298.0490.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

14.81790.0万円

中古車を検索
MINIの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

298.0490.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

14.81790.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村