いよいよ試乗が実現したマツダCX-60もそうでしたが、室内に聞こえるエンジン音を何らかの手段を使って強調しているクルマが最近増えています。エンジンルームからレゾネーターを引き込むクルマもあれば、スピーカーから音を出しているものもあるという具合で、方法はさまざまです。
これは、ひとつには近年ますます厳しさを増している車外騒音規制との兼ね合いがあります。もはやスーパースポーツカーですら迫力のエグゾーストノートを響かせることには限度があって、それでもドライバーの感情を掻き立てるにはどうしたらいいかと考えた結果としての、こうした演出というわけです。
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最初にハッキリとそれを体感したのは先代アウディS1だったでしょうか。このクルマ、フロントウインドーを振動板として使って、エンジン音を強調していたんですよね。やっぱりあからさまにスピーカーから音を出したくないという思いが、そこにはあったのでしょう。
フェラーリもF8トリブートではエンジンルームから室内に音を引き込んでいましたが、余計な味付けはしていませんでした。皆が聞きたいのはそういうものじゃないって、知っているわけですよね。ポルシェ911カレラGTSは、プレスリリースを読むと「遮音材を省き」と記されています。これも考え方は一緒と言っていいでしょう。
こんなふうに内燃エンジンを積むクルマでも音の演出が必要なのが今の時代。今後はその内燃エンジンを持たないクルマが増えてくるわけで、どの自動車メーカーも音づくりには結構頭を悩ませているようです。
プレミアムブランド発のBEVとして早期に投入されたジャガーI-PACEはエンジン音を模した電子音を出せるようになっていました。最初はおもしろがって使ったけれど、結局すぐにオフにしちゃいましたよね、正直。あまり作られすぎた音では…ということでしょうか。PHEVのBMW i8も、エンジンは直列3気筒1.5Lターボなのに、室内にはV8サウンドが響いてきて、何というかちょっと笑ってしまったのを覚えています。
一方、ポルシェ タイカンに備わるポルシェ エレクトリックスポーツサウンドは電気モーターの音響成分の心地よい部分のみを抽出して増幅して聞かせるものですが、これは単なる演出ではなく、クルマとの対話の重要な一部分なのだと説明されていました。実際、同じような主張はマツダMX-30のEV版が登場した時にもされていました。マツダの場合、何とオフにできないというところに強い主張を感じたりもして。
ここ最近乗った中でもっともインパクトが大きかったのがメルセデスAMG EQS 53 4MATIC+です。AMG初のBEVとなるこのクルマ、車重はかさむんですが凄まじくよく走る、まさにAMGを名乗るにふさわしい1台と感じましたが、音だけは違和感が…。だって起動時や加速時には「ブゥーン!」、さらにアクセルを踏み込んでいくと「ギュイーン!」といった電子音が室内に響き渡るんですから。SF的というかゲーム的でおもしろくはあるんですが、内燃エンジンを積むAMGの職人が手作業で組み上げたV8エンジンの奏でたサウンドを思うと、本当にコレでユーザーは満足するのかな?と悩ましく思ったのでした。
今後、内燃エンジン車が増幅・強調されたサウンドを室内に響かせるようになり、BEVやFCEVが音の演出を付け加えていくという方向が一層加速していくことは間違いありません。自然に出るものではないだけに、一体どんな音が皆を満足させるものとなりえるのかは、しばらく試行錯誤が続くんでしょうね。
音を出す方の話ばかりしてきましたが、逆に静けさを売りにしてきたクルマ、たとえばロールス・ロイスであり、あるいはレクサスなども、個性を出すのが大変になるかもしれません。だってBEVなら、たとえ軽トラだって素晴らしく静かで滑らかになるわけですから。静かなだけではもうウリにはならないのかも?
たかが音、しかしされど音。今後しばらくは各社が何を仕掛けてくるのか、大いに楽しめそうですね。
〈文=島下泰久〉
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