2022年2月に発売された4代目ホンダ・フィットは、走りの良さや歴代の自慢であるホンダ独創のセンタータンクレイアウト採用による圧倒的な室内空間の広さ、シートアレンジの素晴らしさ、ラゲッジルームの使い勝手の良さなどを継承してはいたものの、そのほんわりとしたエクステリアデザイン、キャラクター、とくにライバルとは真逆の大人しさある顔つきがいまひとつ、ユーザーに受け入れられにくかったようで、例えば直近の2022年年間新車販売台数では、ライバルのヤリスが1位、ノートが3位であるのに対して、フィット9位に甘んじている。かつての勢いがやや落ち着いてしまった印象だ。
デビュー当時のフィット
そこでテコ入れとして2022年の秋にマイナーチェンジを敢行。そのポイントはまずパワートレーン。2モーターハイブリッドのe:HEVモデルは駆動用モーターを強化。最高出力を14ps増しの123psへと向上させたほか発電の威力もUPさせているという。また、ガソリンモデルは新たに1.5L DOHC i-VTECエンジンを採用している。
この時代に欠かせない先進運転支援機能は進化したホンダセンシングを全タイプに標準装備し、新たにトラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)、急アクセル抑制機能を標準設定。また、ブラインドスポットインフォメーション、後退出庫サポートも新たに追加、タイプ別設定としいる。
その具体的な内容は、最大で1)衝突軽減ブレーキ<CMBS>、2)誤発進抑制機能、3)後方誤発進抑制機能、4)近距離衝突軽減ブレーキ、5)歩行者事故低減ステアリング、6)路外逸脱抑制機能、7)渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール<ACC>、8)車線維持支援システム<LKAS>、9)先行車発進お知らせ機能、10)標識認識機能、11)オートハイビーム、12)ブラインドスポットインフォメーション、13)トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)、14)急アクセル抑制機能、15)パーキングセンサーシステム、16)後退出庫サポートに及んでいる!!
そしてマイナーチェンジ最大のトピックと言えるのが、フィットとして復活した「RS」グレードの追加である。ちなみにRSとは、type Rのようなレーシングスポーツではなく、ロードセイリングの略だ。これで、フィットで選べるタイプはBASIC、HOME、RS、CROSSTAR、LUXEとなり、それぞれにe:HEVとガソリンモデルが組み合わされる。なお、駆動方式はRSがFFのみ。それ以外のタイプはFFと4WDを選ぶことができる。
ここで試乗したのはその最新のRSで、全タイプの中で「デザイン、走りの質にこだわったタイプ」とされている。RSのエクステリアはスポーティさを強調する専用のピアノブラック仕上げとなるフロントグリル、サイドシルガーニッシュ、リアバンパー、リアスポイラーのほか、専用16インチアルミホイールが装着されるとともに、RS専用サスペンション、前後に付いた真紅のRSバッジが奢られているのが大きな特徴だ。
フィットのエクステリアデザイン、というか顔つきは、いいひとすぎるほんわかしたものだったが、このRSの顔つきは別物で、かなり精悍。フィットの印象をガラリと変える威力があり、「これを全タイプの顔にすればいいのに(ピアノブラック仕上げはLUXEとRSだけでよい)」と思えるほどだ。人気回復の起爆剤になりえるのではないか。
また、e:HEV RSにはアクセルオフ時の減速力を4段階で選択できる減速セレクター、3つのモード(NORMAL/SPORT/ECON)を持つドライブモードスイッチが専用装備されている。電子パーキングブレーキやオートブレーキホールド機能の装備はもちろんである。
さて、フィットのe:HEV RSの走りは、これがゴキゲンであった。前後ドアの開閉タッチ、音まで国産コンパクトカー離れした上質さあるフィットだが、ドライブモードをNOMALにセットして走り出せば、乗り心地はスポーティにタイトながら角が丸められた、ドシリとして骨太な上質なタッチに終始。やや重めのパワーステアリングを操作すれば、乗り味としてコンパクトカーとは思えない上級車並みのしっかり感、上級感に驚かされる。ボディ、足回りの剛性感に加え、ヨコハマブルーアースGTのタイヤもそれに貢献しているはずだ。
動力性能はRSと言っても他のタイプと変わらない。e:HEVモデルの場合、基本はエンジンが発電を担当し、モーター駆動。加速時はいわゆるハイブリッドとなりモーター&エンジンの駆動となる。そして高速巡航時は効率のいいエンジン駆動となるのだが、EV走行の比率は最新の強化されたe:HEVらしく、かなり粘り強く行ってくれるのだ。もちろん、今回のマイナーチェンジでフィットe:HEVモデルの電動車感は一段と増したことになる。EV走行領域のスムーズさ、静かさは言うまでもない。
無論、アクセルペダルを深々と踏めばエンジンが始動する。が、さすがホンダのエンジンで、伸びやかさ、サウンドともに国産コンパクトカー随一の気持ち良さを備えているから、エンジンを高回転まで回すことがまったく苦にならず、それも、車内の透過するノイズも抑えられているため、うるささとも無縁。動力性能的にもマイナーチェンジ前のモデルより明らかに力強く、その動的性能全体の上質感UPは明白だ。
ゆえにドライブモードのSPORTモードにセットしたくなるのが走り好きの人情だが、いきなり過激になるのではなく、アクセルレスポンスの向上とエンジン回転上昇感の気持ち良さによる走りの心地良さ、爽快感がこのモードの特徴となる。
e:HEV RS独自の減速セレクターは、つまりパドルシフトなのだが、その減速段数はなんと4段。もっとも強い減速でもワンペダル的な減速Gは得られないのが残念だが、その減速G発生のきめ細かさと適度な減速Gによる気持ち良さは実感することができた。スピードコントロールのしやすさという点でも、パドルシフト、減速セレクターは大いに有効である。
RS=ロードセイリングのキャラクターからすれば、高速走行、ロングドライブに最適なのがRS。ホンダセンシングには渋滞追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)も備わっているから、右足のペダル操作から解放された高速クルージングが可能。その作動もホンダ車としてまずまずのレベルと言っていい。コネクテッドも充実していて、いわゆるSOSコール、トラブルサポートボタンも用意され、スマホによるリモート操作、車内WI-FI、Honda ALSOK駆けつけサービスもあるから、安心・快適である。※ヴォイスコントロールはどう発声しても、筆者の声、家族の活舌では認識してくれなかったが・・・。
そんな、まさにホンダ・フィットの真打ちと言っていいe:HEV RSの価格は234.63万円。E:HEV HOMEの215.58万円に対して19万500円高、LUXEに対して15万2900円安という価格は、フィットでベストなエクステリアデザイン、走りの上質感、スポーティテイストと快適性のさじ加減、バランスの見事さを含め、じつに魅力的に思える。これまでフィットはアクティブなエクステリアデザインとなる、私見だが”もっともカッコいい”フィットとしてクロスターがベストグレードと言い続けてきた筆者だが、今ならRSとクロスターをベスト2グレードとしたい。
なお、高速40%、日常使いの一般道60%走行、エアコン23度オートでの実燃費は、WLTCモード燃費27.2km/Lに対して23.2km/L(約85%)とすこぶる優秀だった。高速走行中心ならさらに伸びるはずである。
ホンダ・フィット
文・写真/青山尚暉
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