かつて日本車の最高出力といえば「280馬力」というシバリがあった。これを「呪縛」と捉えるか「自主規制」と解釈するかで見方が180度変わってくる。
デビュー当時、新車価格は1200万円。ニスモが放ったコーンプリートモデルがニスモ400Rだ。当時の新車のポルシェ911と同価格帯。車名の400Rは最高出力(400馬力)に由来する
リッター8.0km 481馬力・・・買うなら今しかない! 大馬力&極悪燃費車各3選
この「呪縛(自主規制)」は、2004年にフルモデルチェンジを果たしたホンダレジェンドが300馬力をするまで継続された(1996年にデビューしたBCNR33型ベースの「ニスモ400R」という例外はあるが)。
日本の自動車メーカーが発売するクルマとして初めて280馬力の壁を破った4代目レジェンド
このレジェンド以降、日本車でも輸入車のハイパワーモデルに匹敵するクルマが相次いでデビューしたことは知ってのとおりだ。しかし、そのパワーウォーズもそろそろ終わりを迎えつつあるのかもしれない。
そこで、現時点で新車で購入できるハイパワー&極悪燃費車をそれぞれ3台挙げてみた。
文/松村透
写真/トヨタ、レクサス、日産、ホンダ
■かつての280馬力規制はなんだったのか?
日本車で最初に280馬力のスペックを掲げてデビューしたのは、1989年にフルモデルチェンジした日産フェアレディZ(Z32型)であった。
280馬力、3L ツインターボエンジン、優雅なボディライン、豪華な内装、そしてハイパワーなエンジン。Z32型フェアレディZは当時の日本を象徴する1台かもしれない
当時、3リッター&ツインターボエンジンの響きとスペックに憧れを抱いたクルマ好きも少なくなかったはずだ。
時はバブル。トヨタスープラ、日産スカイラインGT-R、ホンダNSX、三菱GTOツインターボ、マツダユーノスコスモ、トヨタセルシオ、インフィニティQ45・・・などなど。
1990年前後といえば、各自動車メーカーがこぞって大排気量&ハイパワーモデルをデビューさせた頃だ。
どれもカタログ数値はきっちり「280馬力」だ。いわゆる「国からのお達し」で数値上は280馬力に自主規制を「強いられた」と表現しても差し支えないだろう。
その一方で、推定800馬力にチューニングされたスカイラインGT-Rをはじめとするハイパワーマシンが公道やサーキットを掛け抜けていたことも事実だ。
■エコ志向なのに、ハイパワー&極悪燃費という贅沢と矛盾
先代モデルのアクアと比べて約20%も燃費が向上した現行モデル。35.8km/L(BグレードのWLTCモード燃費)という数値は驚異的だ
あれから30年。時は流れ、令和の時代となったいま、圧倒的なパワーや大排気量エンジンよりも高燃費を誇るクルマに人気が集まるようになった。
ハイブリッドエンジンではない純粋な内燃機関を持つクルマでさえ、30km/Lオーバーを標榜するクルマも珍しくなくなった。
その一方で、ハイパワー&極悪燃費の国産車が新車販売されているのもまた事実だ。エコとは真逆だ。
矛盾といえばそれまでだが、需要があると見込まれるから商品化されるのだ。本音と建前。そこまで人は賢くなれないということなのかもしれない。
■今しか買えないハイパワー国産車3選
前述のように、2004年にフルモデルチェンジを果たしたホンダレジェンドが280馬力自主規制の壁を打ち破って以来、一昔前では考えられなうようなスペックを掲げるクルマが増えてきた。
では、現時点で新車が購入できる(正確には受注可能な)クルマのなかでハイパワーなモデルを3台、ピックアップしてみた。
■3位:レクサスLS500:422ps
・発売開始:2017年10月
・エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ(HVもあり)
・排気量:3444cc
・最高出力/最大トルク:422ps/61.2kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):5325×1900×1450[1460]mm
・新車の価格帯:1071万円~1690万円(全グレード)
・中古車の平均価格:779.1万円
2017年にフルモデルチェンジした5代目LS。斬新なクーペシルエットやエモーショナルな走りを実現。
2021年の改良においてる静粛性と乗り心地のさらなる向上に加え、標準装備の19インチタイヤをランフラットタイヤから新開発のノーマルタイヤに変更し、走りの上質感をさらに高め、乗り心地と静粛性の向上に寄与しているという(メーカーオプションでランフラットタイヤも設定あり)。
かつてのセルシオの流れを組むLS。ライバルたちが軒並み姿を消し、今や貴重なフルサイズのセダンだ
LS500に搭載されるV型6気筒DOHCツインターボエンジンの最高出力は422馬力。この他、ハイブリッドエンジンも設定される
■2位:レクサスLC500:477ps
・発売開始:2017年3月
・エンジン:V型8気筒DOHC(V6エンジンもあり)
・排気量:4968cc
・最高出力/最大トルク:477ps/55.1kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4770×1920×1345mm
・新車の価格帯:1327万円~1500万円(全グレード)
・中古車の平均価格:1020.6万円(全グレード平均)
2017年の発売以降、独創的なデザインや優れた走行性能を実現し、レクサスの全モデルラインアップの乗り味を方向づける1台とされているLC。
2021年9月の一部改良では、LC500h/LC500におけるコイルスプリング、スタビライザーの諸元やショックアブソーバーの制御の最適化により、運動性能をさらに進化。その結果、タイヤの接地感を高め、操舵入力に対する車両応答のリニアリティと高い旋回G領域でのコントロール性を高めたという。
世界の名車と肩を並べてもまったく見劣りしないデザインのレクサスLC
設定されるエンジンはV8およびV6。大排気量エンジンで優雅なボディラインをまとったクーペを駆る。まさに贅沢の極みだ
■1位:レクサスRC Fパフォーマンスパッケージ:481ps
・発売開始:2014年10月
・エンジン:V型8気筒DOHC
・排気量:4968cc
・最高出力/最大トルク:481ps/54.6kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4710×1845×1390mm
・新車の価格帯:1052万円~1449万円(全グレード)
・中古車の平均価格:564万円(全グレード平均)
V8 5.0LのNAエンジン、8速SPDSを搭載し、パフォーマンスを追求したサスペンション、ブレーキ、空力パーツなどの専用装備を数多く採用。レーシングスピリットを受け継ぐ「F」モデルとして、レクサス車の運動性能向上と進化の牽引役ともいえるモデルだ。
パフォーマンスパッケージは日本スーパーGTや米国のデイトナ24時間レースなど、モータースポーツで培った技術を応用した高性能バージョンモデルである。2021年9月の一部改良では専用内装色の設定や10本スポークの19インチ鍛造アルミホイールを新たに設定している。
ノーマルのRCはどちらかというとLCに近い優雅なクーペだが、RC Fは明らかにレーシングカーの雰囲気を漂わせる。ラグジュアリーかロードゴーイングレーサーを選べる贅沢さを今のうちに味わっておきたい
V8 5.0LのNAエンジンが搭載されるのは現行モデルが最後であろうか・・・。絶滅危惧種であることは間違いがない
■もはや絶滅危惧種な極悪燃費国産車3選
かつてのように大排気量&ハイパワーのクルマでも「フル加速でガソリンメーターの針が動いた(ような気がした)」時代ではない。
2017年夏以降、国際的な測定方法である「WLTCモード」で表示されることが多くなった燃費の値だが、カタログ数値でリッター8km/L台がワーストであった。実は、極悪燃費というほどでもないのだが・・・。
■3位:トヨタランドクルーザープラド:8.3km/L(WLTCモード)
・発売開始:2017年3月
・エンジン:直列4気筒DOHC(他にディーゼルエンジンの設定あり)
・排気量:2693cc
・最高出力/最大トルク:163ps/25.1kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4825×1885×1850mm
・新車の価格帯:366.6万円~432.7万円(ガソリンエンジン)
・中古車の平均価格:420.5万円(全グレード平均)
オフロード・オンロードでの快適な走行性能を進化させたうえ、ユーティリティを徹底的に追求し、「いつでもどこへでも行ける安心感と快適性」を備えたクルマとして開発された現行モデル。
デビューは2009年だが、これまでマイナーチェンジや一部改良を繰り返し、現在に至る。最新の一部改良は2021年6月に行われ、インテリジェントクリアランスソナー(パーキングサポートブレーキ/静止物)を標準装備としている。
フルモデルチェンジから12年経過しつつも、一部改良とマイナーチェンジを行うことで時代の変化に対応してきたランドクルーザープラド
10年以上前のモデルゆえ、ランドクルーザープラドの内装の雰囲気には時代の流れを感じさせる
■2位:レクサスLC500コンバーチブル:8.0km/L(WLTCモード)
・発売開始:2020年6月
・エンジン:V型8気筒DOHC
・排気量:4968cc
・最高出力/最大トルク:477ps/55.1kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4770×1920×1350mm
・新車の価格帯:1477万円(コンバーチブル)
・中古車の平均価格:1530.1万円
レクサスLC500のコンバーチブルモデルとして2020年6月に発売された、フラッグシップコンバーチブルモデルだ。コンバーチブルモデルならではの存在感や人の感性に訴える走行性能およびエンジンサウンドを実現している。
独自の世界観をコンバーチブルでも明確に表現するためにソフトトップが採用された。その結果、軽快感や開放感とともに一目で「LCのコンバーチブル」だとわかるスタイリングを手に入れた。
美しいボディラインを持つクーペモデルに対して、さらに優雅さが加わったコンバーチブル。懐事情が許されるのなら、本当に手に入れておきたい1台だ
ビビッドな色合いの内装も外から見られる可能性が高いコンバーチブルならでは。こちらは特別仕様車専用インテリアカラーである「ライムストーン」だ。青の洞窟をモチーフとしているという
■1位:レクサスLX600:8.0km/L(WLTCモード)
・発売開始:2022年1月
・エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
・排気量:3444cc
・最高出力/最大トルク:415ps/66.3kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):5100×1990×1885mm
・新車の価格帯:1250万円~1800万円(全グレード)
・中古車の平均価格:なし
「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」を確保するために、ボディオンフレーム構造を維持しながら、新GA-Fプラットフォームの採用や約200kgの軽量化、デジタル開発による高剛性ボディの実現などを通じ、クルマの素性を刷新したLX。
NXから始まった運動性能や機能に根差したデザインを追求しつつ、フラッグシップSUVに相応しい力強さや存在感と、洗練されたプロポーションを実現している。
圧倒的な存在感を放つレクサスLX。ボディサイズ(全長×全幅×全高):5100×1990×1885mmの大柄なボディを都市部で乗るにはさすがに窮屈だろう
レクサスLXの内装。オフロードカーというよりは高級車のそれだ
■番外編:過去の日本車でもっともハイパワーなクルマは?
日本の自動車メーカーが発売したモデルのなかでもっともハイパワーなクルマはというと・・・やはりGT-Rだった。過去・・・といっても、つい先日まで新車で購入することができたモデルではあるのだが。
■日産GT-Rニスモ:600ps
・発売開始:2007年10月(現行GT-Rデビュー時)
・エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
・排気量:3799cc
・最高出力/最大トルク:600ps/66.5kgm
・ボディサイズ(全長×全幅×全高):4690×1895×1370mm
・新車の価格帯:1463.6万円
・中古車の平均価格:1344万円(全グレード平均)
日産ワークスであるニスモが最先端のレーシングテクノロジーを惜しみなく投入したロードバージョン。
これまで「走る」「止まる」「曲がる」の能力を徹底して高めつつ、最新のモデルでは高精度重量バランスエンジン部品、クリヤー塗装に素も専用カーボン製エンジンフード、専用レイズ製アルミ鍛造ホイール(レッドリム加飾)、アルミ製ネームプレートなどを採用したスペシャルエディションを発売した(現在は予定販売数量に達したためオーダー終了)。
すでにオーダー終了となっているGT-Rニスモスペシャルエディション
GT-Rニスモ専用のVR38型エンジン。専用GT3タービンに加え、気筒別に最適な点火時期をコントロールする気筒別点火時期制御や最適な燃料噴射を行うインジェクター駆動回路を採用している
■まとめ:純内燃機関のハイパワー車は絶滅危惧種か?
結論としては、大排気量&ハイパワーエンジンを搭載したクルマが急速に絶滅危惧種となっていく可能性が高い。正確には「なっていく」・・・でなはく「なっている(現在進行形)」だろう。
事実、現段階では公式サイトに「新規の商談並びに、ご注文の受付を停止させていただいております(公式サイトより一部抜粋)」と明記されているR35型GT-Rや、2022年12月をもって販売を終了した2代目NSXなど、つい最近まで新車で売られていたモデルもある。
間違いなく、歴史に残る1台となるであろうレクサスLFA
ハイパワーマシンのオーナーであれば、いちどくらいは「そんな馬力、日本のどこで使うのよ」といわれたことがあるかもしれない。
サーキットを除けばないに等しいし、ついうっかりフルパワーを与えてしまったら、あっという間に運転免許失効レベルの速度域に到達してしまう。オーナーだってそんなことは百も承知だ。
「天使の咆哮」と称されたV10エンジンのサウンドを、次世代の子どもたちにも聴いてもらいたいものだ・・・
レクサスLFAが搭載していたのはV10 4.8Lエンジンだった。それは「天使の咆哮」と表現され、この音色に魅了されたクルマ好きも少なくないだろう。
圧倒的なパワー、多気筒エンジンならではのフィーリング、そして音色。多くのエネルギーを消費する代償としてエコカーと比較して燃料を消費することは避けられない。それが許容されにくい時代になりつつあるようだ。それも急速に。
もしかしたら「今の贅沢は無駄」と形容されてしまう時代がもうそこまできているのかもしれない
贅沢と無駄は紙一重だ。これまでは「大金を払えば手に入ったモノ イコール 贅沢」が、近い将来「過剰なモノ イコール 無駄」と括られてしまうのだろうか・・・。
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