■軽自動車は価格の安さがセールスポイントではなくなった?
最近は軽自動車の販売が好調で、新車として売られるクルマの37%前後を占めます。1990年頃は20%から25%だったので、今はクルマの売れ行きが下がり、なおかつ小さな軽自動車に乗り替えるユーザーが増えました。
最近の軽自動車が大きく見えるのはなぜ? 売れ筋ジャンルの変化が軽自動車の大型化を促進させた?
この背景には、軽自動車の機能の向上があります。軽自動車を開発するメーカーの商品企画担当者は「今の軽乗用車の売れ行きを見ると、75%が全高を1600mm以上に設定した背の高い車種になります。特にスライドドアを備えたタイプが売れ筋で、これが軽乗用車の約40%を占めています」と言います。
軽自動車を扱う販売店からも「今は背の高い軽自動車が売れ筋で、車内がコンパクトカーよりも広く、後席を畳めば自転車なども積みやすいです。軽自動車の乗車定員は4名ですが、荷物の積載についてはミニバンのように使えます。自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)も充実しています。従って軽自動車の価格はコンパクトカーと同程度か、それより高い場合もありますが、売れ行きが好調です。軽自動車が伸びて、小型車は減っています」という話が聞かれます。
ちなみに昔の軽自動車では、価格と税金の安さがセールスポイントでした。車内は小型車よりも狭く、内外装の質感や装備も見劣りしました。
それが1998年に行われた軽自動車の規格改訂以降は、ボディサイズと室内空間が広がっています。特に2003年に初代タントが発売されると、背の高い軽自動車が一気に増えて、横開きのヒンジ式ドアに比べ、高価なスライドドアを備えた車種が好調に売れるようになりました。
そうなると今の軽自動車にとって、もはや価格の安さはセールスポイントにならないのでしょうか。
前出の商品企画担当者は「お客様が軽自動車を選ぶ時に重視される機能として、今は居住空間や荷室の使い勝手、安全装備、環境&燃費性能が挙げられます。単純な安さだけを重視するお客様は減りました。ただし今の軽自動車と同じような使い勝手を小型/普通車で実現させると、価格は200万円前後に達します。その意味では、軽自動車は今でも価格が割安で経済的です」と説明します。
つまり最近の軽自動車は、使い勝手や安全性能を向上させましたが、依然として小型/普通車に比べると経済性も優れているわけです。
■同じ価格帯のN-BOXとフィットで維持費を比較
では実際に同じ価格帯の軽自動車と小型車で、維持費を比べてみましょう。
軽自動車の「ホンダN-BOXカスタムG・Lホンダセンシング」(169万8840円)と、普通小型車「ホンダフィット13G・Lホンダセンシング」(165万3480円)を比べてみます。
両車ともにエコカー減税の対象に入り、N-BOXカスタムの購入時の諸費用は、自動車取得税(1万6900円)+3年間の自動車重量税(3700円)+3年間の自賠責保険料(3万5610円)+リサイクル関連費用(8400円)=6万4610円です。
フィットは、自動車取得税(3万3000円)+3年間の自動車重量税(1万6800円)+3年間の自賠責保険料(3万6780円)+リサイクル関連費用(8450円)=9万5030円です。
購入後の3年間の諸費用は、N-BOXの軽自動車税が1年当たり1万800円×3年間=3万2400円。フィットは1年当たり3万4500円×3年間=10万3500円です。
この税額を購入時の金額と合計すると、N-BOXが9万7010円。フィットは19万8530円になります。N-BOXは10万円以上安く、フィットの半額以下です。
このほかオイル交換の料金は、N-BOXが3400円、フィットが4400円といった違いがありますが、軽自動車とコンパクトカーではあまり差が開きません。
車種カタログに記載されるJC08モード燃費値は、N-BOXが27km/L、フィットが24.6km/Lですが、比率に換算すると約9%で、負荷の多い状況で使うとフィットの方が優れた数値を達成する場合もあります。
そうなると出費の比較で差が付くのは、やはり税金です。特に自動車税は、軽自動車とコンパクトカーで3倍以上の開きがあります。
1台だけのクルマを持つ世帯であれば、N-BOXとフィットの差額は年額2万3700円ですが、4台のクルマを持つ世帯になると、この差額が9万4800円に拡大して、3年間であれば28万4400円になります。
さらに自動車重量税もエコカー減税の期間が終われば、車検を受ける時の2年分で軽自動車が5000円、フィットは3万円です(両車とも本則税率で計算)。
この差額も4台であれば10万円(年額にして5万円/3年間なら15万円)です。
従って今でも軽自動車は、複数の車両を所有する世帯の多い地域(いい換えれば公共の交通機関を使いにくい地域)で多く売られています。そのために佐賀県/鳥取県/長野県などでは、軽自動車は10世帯に10台以上の割合で普及しており、東京都は10世帯に2台以下です。
今の軽自動車は便利で快適になりましたが、安い税額により、日常生活に欠かせない移動手段として使われる役割は昔と同じです。
そして小型/普通車の税金は前述のように高額なので、軽自動車の税金まで今以上に高まれば、多くのユーザーの生活を圧迫してしまいます。
軽自動車は、地域によっては生活をする上で不可欠なライフラインとして機能しますが、軽自動車税は従来の7200円から1万800円に値上げされました。これ以上税金を高めることは許されないでしょう。
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