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Z4にはBMW、らしさがある──新型BMW Z4試乗記

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Z4にはBMW、らしさがある──新型BMW Z4試乗記

春、桜の花が青空にぽっかり浮かんでいるのを背景にしたオープン・スポーツカーなんてのはじつにシャレた景色である。新元号が発表になった4月1日、世界は動いているんだ、ということを感じつつ、新しい「Z4」に試乗する、なんてのもこれまたオツである。

そう、世界は動いている。2018年秋のパリ・サロンで正式デビューを飾った3代目Z4は、プロポーションを大きく変えた。先代に比べて、全長は85mm伸びて4324mmに、全幅は74mm広がって1864mmに、全高は13mm 高くなって1304 mmに成長した。モデルチェンジで大きくなるのは世のつねだから、驚くには当たらない。

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ところが2470mmのホイールベースは異例なことに先代比26mm縮められてそうなった。前1610 /後ろ1615mmのトレッドは前が98mm、後ろが57mm広げられた結果である。

じつはこの大胆な変化を、筆者は昨年、袖ヶ浦で開かれたスープラ・プロトタイプの取材会で多田哲也チーフエンジニア(CE)から聞いた。トヨタとBMWの協業スポーツカー・プロジェクトから生まれた新型スープラとZ4が兄弟車であるのは読者諸兄もご存じの通りだ。

86を手がけた多田CEは、次はピュア・スポーツカーをつくりたいと思った。ポルシェを研究するなかで、ホイールベースとトレッドの黄金比は1.6あたりにあると考えるようになった。そして、BMWと共同作業をするなかで、彼はそのことを訴えた。BMWにとっても、大きな決断だったのだろう。結局、これらの数値を決定するのに1年半かかったという。

新型Z4を、ポルシェ「718ボクスター」をベンチマークとする本格スポーツカーに仕立てあげるべく、先代の折りたたみ式ハードトップから、新型ではファブリックの幌に戻した。幌は開閉速度が速く、また幌を開けたときにトランク容量を確保できるのもさることながら、重心を低くできるというメリットがある。

ちなみに最大のライバルと目せられるメルセデス・ベンツ「SLC」のサイズをチェックしておくと、ホイールベース2430mm、前後トレッド1550/1570mmである。つまり、多田CEの注目するホイールベース /トレッド比は1.57/1.55となる。718ボクスターは2475mm の1515/1530mmだから、1.63 /1.62。先代Z4は1.65/1.60で、ゲゲッ、718とそんなに変わらないではないですか。ついでながらフェラーリの最新F8トリブートはホイールベース2650mm 、前後トレッド1677/1646mm で、1.58/1.61となる。新型Z4は? というと前後1.53しかない。SLCと比べても超ワイド・トレッドなのだ。

してみると、1.6はミドシップのベストで、フロント・エンジン車の黄金率はそれ以下にあると解すべきであろう。私、多田CEのお話をよく聞いていなかったか、理解していなかったみたいです。ようは、新型Z4がピュア・スポーツカーとして開発された、ということを申し上げたかった。オホン。このワイド・トレッド、リアから見るとじつにカッコいいですなぁ。

前後重量配分は例によって50:50。車検証上では前800kg、後ろ790kgで、ドライバーが乗れば、完璧にそれが達成されることになる。

新型Z4には6気筒と4気筒があるわけだけれど、今回試乗したのは先に上陸した6気筒モデル、トップ・オブ・ザ・レインジの「M40i」である。長いフロント・フードの下におさまっているのはバイエルンの伝家の宝刀、排気量2997ccの直列6気筒M パフォーマンス・ツインパワー・ターボ・エンジン。最高出力340ps/5000rpm、最大トルク500Nm/1600~4500rpmを発揮する。最近では「X4 M40i」など、BMWの各種モデルに搭載されているストレート・シックスだけれど、Z4用に搭載されるにあたって独自のチューニングが施されている。

ドアを開けると、見慣れたBMWスタイルのコクピットが広がっている。超ワイド・トレッドながら、ドライバーズ・シートに着座するとタイト感がある。いかにもスポーツカーである。シートも腰をタイトに支えてくれる。液晶メーターは小ぶりでちっちゃく、センター・トンネルはでっかく、ステアリングホイールは例によってぶっとい。そのステアリングはバリアブル・スポーツ・ステアリングできわめてクイックに反応する。

乗り心地は明瞭に硬い。M40iはアダプティブMサスペンションなる電子制御の足まわりを標準装備するけれど、オープン・ボディなのにサーキットを意識したような設定になっている。

タイヤは前255/35、後ろ275/35のともにZR19という大きなサイズである。なのにバネ下がドタバタする印象はない。オープンなのに! クーペ・ボディのスープラはクーペゆえにボディ剛性がめちゃくちゃ高いわけだけれど、オープンでも気にならないとレベルにあるということもスゴイことである。ランフラットを標準装備にしなかったのは、快適性との兼ね合いからだろう。高速にあがってしまえば、乗り心地は心地のよい硬さに感じ始める。

ドライブ・モードにはエコ、コンフォート、スポーツ、スポーツ・プラスの4種類があり、筆者は「バランスのとれた設定」であるコンフォートで主に走った。コンフォート・モードのままでも、ホイールベースが短くて可変ギアリングのステアリングがシャープで、パワーがあるから、ヒラリヒラヒラ、面白いように向きを変えられる。ちなみに、コンフォートモードでは100km/h巡航で8速トップだと1500rpmぐらいであるが、スポーツにすると、自動的にダウンシフトして2000rpmぐらいに、スポーツ・プラスにすると2500rpmぐらいにまでエンジンがまわって唸りをあげる。

屋根を開けていると、乾いた豪快なサウンドが轟く。6500rpmのレブリミットまでまわすと、グオオオオオッと6気筒ターボが雄叫びをあげ、ドライバーはやったぜ、というカタルシスを得る。

難点をあげれば、男っぽい乗り心地に対して6気筒エンジンがスムーズにすぎることかもしれない。しかしそれは、歌がうますぎる、とアイドルにイチャモンをつけているようなものかもしれない。

大黒埠頭に向かう途中で雨が降ってきた。電動の幌は走行中でも50km/h以下なら開閉可能、しかも完了するまで10秒しかかからない。じつにお気軽に屋根の開閉ができる時代なのだ。

そこから箱根方面に向かい、やがてキツネの嫁入りのような状態になったけれど、結局、雨はやまず、幌を開けることはかなわなかった。ファブリックの幌は、ラジオの音量を若干あげる必要があるけれど、ちゃんと聞こえる。新しい年号が万葉集由来であることを、新型Z4に乗りながら筆者は知ると、退屈なラジオは止めて、野太くて心地よい排気音に耳を傾けたのだった。

濡れた路面で、小田厚のある料金所を出てアクセルを全開にしたらトラクションコントロールが働いた。私はトラコンが働いただけでビビるような、そんなビビりなのですけれど、精緻な作動のおかげで姿勢は安定しており、その後、アクセルを踏むにためらうことはなかった。幌を閉じて、シティ・ラナバウトとして使うのもステキに思えた。スポーツカーは単なる移動の道具ではないというけれど、移動の道具として使わなければいつ乗るんだ。

新型Z4 M40iの車両本体価格は835万円。おいそれと買えるものではない。しかし、購入されたかたはどんどん町を走ってA地点からB地点まで移動してほしい。ちょっとした移動でも十分魅力的な走りが味わえる。そして、見る人の目を楽しませてほしい。それもまた、スポーツカー・オーナーのつとめである。

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