フィアットパンダ4×4のマニュアルミッションが今、京都のわが家のメインパートナーだ。コンパクトなサイズで見晴らしがよく荷物をそこそこ積めて街でもさほどすれ違わない。カミさんのお気に入り。けれども購入から早4年、そろそろ飽きもやってきそう。
次をどうするか。これが実に悩ましい。職業柄こだわりが格別に強いから、というわけではない。自分用のクルマは自分の好みだけで選ぶ。最近ではBMW M2を気に入って乗っている。翻ってわが家のクルマ選びが難しいのだ。ことさら困難にする要素は、この期に及んで3ペダルMTでなければならないという点だ。実をいうと私はMTでもATでもどちらでもいい。カミさんが妙に3ペダルMTにこだわっている。オートマじゃ走らせている気がしないし何より安心できないのだそうだ(お年寄りの踏み間違い事故ニュースがあるたびに、みんなMTに乗れ! と叫んでいる)。
29歳、フェラーリを買う──Vol.41 トラブル発生! ドアが開かない!?
ボディサイズは全長3550mm、全幅1645mm、全高1730mm。ホイールベースは2250mmと非常にコンパクト。扱いやすいサイズ感と運転席の視界の高さから京都など、狭い路地の多い場所でもストレスなく走れる。だからといって旧車というわけにもいかない。デザインを気に入ったとしてもカビや油の臭いが嫌らしい。途中で止まる可能性あり、なんてのも論外。軽自動車もイメージ的に好かないという。となると実は選択肢は限られてしまって、パンダのフルモデルチェンジを待つ(なかなかしそうにない)か、いっそでっかいミニを狙うかくらいしかない、などと思案を巡らせているうちに日本の誇るスズキジムニーシエラを思い出した。
ジムニーシエラの外観上の特徴が前後に装着するオーバーフェンダー。ジムニーよりも安定感があるように見え、デザイン的なまとまりも上。未だ1年待ちという現実現行型ジムニーのデビューは2018年7月だったから、デビュー後かれこれ1年半が経っている。デビュー直後はオーダーが殺到し、納車に1~2年なんて話を聞いたものだが、さすがにもう落ち着いている頃合いだろうと近所のディーラーを覗いて聞いてみれば、なんと未だに1年も待つらしい! シエラだともう1カ月ほど余計に掛かるかもしれないという。だから細かな仕様決めは生産日が決まってからでいいので早めにモデルとグレードと色を決めて注文した方がいいと言われた。まるで新車のフェラーリをオーダーするみたいな話になっている。
あわててカーセンサーを検索してみたら、なんと250万円以上のプライスタグを付けたいわゆる新古車のシエラがざくざく出てきた(新車の車両本体価格は約200万円)。
ジムニーシエラが履く純正タイヤはブリヂストンのDUELER H/T684II。SUV 4×4用に開発されたタイヤで、操縦安定性が高いほか、燃費性能の向上にも役立っている。耐久性の高さなども特徴だが、この性能を生かし切るほどの悪路を走る機会は……。ジムニーを1年待って買うという気に今はなれない。かといってプレミア価格で買うのも何だか納得いかない。でも世の中的にはそれでも良いという人が多いわけで、生産関連の問題とかジムニーマニアの待ちに待った感とか、そういうことはさておいても他に人気の理由があるはず。
どうして現行型のジムニーがそれほどの人気を保ち続けているのか、ちょっと考えてみることにした。
最高出力102psを発生する1.5リッター直列4気筒エンジンを搭載。5MTの燃費性能はWLTCモードでリッター15.0km。オフロード走破性だけが人気の理由か?新車発表以来だろうか。ディーラーでもらったカタログを広げてみる。たとえばミニのようにグレードやボディカラー、オプションが豊富でアレコレ夢想しているうちに欲しくなる、なんてパターンがある。けれども残念ながらジムニーにそこまでは望めない。せっかくいい素材(クルマ自体)だというのにもったいないほどで、色味は黄緑と青と肌色しかなく、2トーン仕様とか多少頑張ってはいるけれど、あとは暗いボディカラーばかり。インテリアは一色のみで、オプションに欲しくなるようなものがまるでない。
やはりジムニーそのものの存在がいちばんの魅力なのだろう。それはなんぞやと考えたときに歴代ジムニーの伝統である高いオフロード走破性、などと答えることもまたちょっと違う気がする。確かにジムニーは歴史的にみて悪路走破性に優れたクルマだ。サバイバルツールとして優秀である。世界最高かも知れない。ジムニーのタフネスぶりに憧れるクルマ好きも多い。
実をいうとパンダを買う前に乗っていたのが旧型ジムニーシエラだった。京都に越してくるに当たって適切なサイズのクルマが欲しかったというのもあったけれど、買ったイチバンの理由が“長年の憧れ”だった。究極のオフロードマシンという刷り込みがあって、いちどは乗ってみたいと思っていたのだ。
トランスミッションは5MTと4ATを用意。高速道路での移動を考えると、せめてもう1段は欲しい。ところが買ってはみたものの、京都ではオフロードはおろか雪の日に乗ることさえしなかったし、何より4WDへの切替えボタンさえ使わなかった。ジムニーをジムニーとして使わず、ただ便利なコンパクトSUVとして乗っていたのだ。だからかもしれない。パンダに乗り換えることができたのだった。
おそらく多くの人がそんな風な使い方ではないだろうか。ジムニーをジムニーらしく使う人なんてごくわずかのマニアだけ。ヨーロッパ、特にイタリアやスイスの山岳地帯でジムニーを見掛けることが多いのは、カッコいいわけでも燃費がいいわけでもなくて、ひと筋縄ではいかない場所での実用性が非常に高いからだろう。山の国日本でもそんなニーズは少なくないとは思うけれど、納車待ちの行列ができるほど多いとは思えない。
結局のところ納車待ちができるほどにジムニーが人気なワケはデザインに尽きるということになる。現代のクルマには珍しく四角張ったデザイン。日本人のみならず世界でも評価が高い。一見懐古趣味に見えて、確かに初代あたりのボクシーな雰囲気を踏襲しているのだけれど、実は歴代各モデルからモチーフを回収してモダンに表現している。実に巧みなデザインではある。
運転席の着座位置はやや高く、視界は良好。角張ったボディフォルムと合わせて、車両四隅が把握しやすいのも運転しやすい理由。デザイン、走破性はいいけど……今どき珍しく全てが角張っている。ジムニーの魅力はこれに尽きる。多少レトロに見えるところも多くの人にとってはかえって新鮮、洒落て映る。ファッションと同じ。現行モデルではシエラもそれなりに人気だというのは、このデザインにはワイドフェンダーの仕様の方が収まりもいいからだろう。デザインの基本はシエラにあると思っていい。実際シエラを見るとまるで別格のモデルにみえるし、乗り味も全く異なっていた。
オフロード性能の高さはジムニーなので織り込み済み。デザインだけで人気を取った、といっても過言ではない。それゆえあまり語られない弱点もある。悪路走破性以外のパフォーマンスだ。たとえばトランスミッションは今どき4ATもしくは5MTで何段も足りない気がしてしまう。せめてMTにもう一段あったらうちのマイカー候補になるのに。パンダは6MTでたまの高速使用時に効く。以前乗っていたシエラも5速で高速道路では大いにストレスが貯まった。
はっきりいってジムニーのパワートレーンは時代遅れである。
快適とまではいえないまでも十分に実用的な後席。前後席ともに座面・背もたれ部分に撥水加工を施している。後席はリクライニングも可能。ジムニーが目指すべき方向は?余計なお世話だろうがジムニーの今後も少し心配してしまう。歴代ジムニーは基本コンセプトを変えることなくスタイリングを徐々に変えてきた。現行型ではそんな進化の軌跡をすっぱりと諦めてレトロモダン路線へと舵を切ったわけだ。言ってみれば“まるで新しくない”デザインでこれだけの人気を博した。ということは今後のモデルチェンジがとても難しくなる。メルセデスベンツGクラスのようにこの形を保ったままナカミを進化させて存続していくのかもしれない。
ラゲッジスペースは、後席を倒した状態で325リットルの容量を確保。ラゲッジ床面に、リッド開閉式のラゲッジボックスを備えており、小物や汚れたものも収納できる。それはそれでいいのだろう。スズキにはハスラー&クロスビーという新しい“なんちゃってSUV”もある。ジムニーは世界屈指の本格派コンパクトクロカンとして末永くこのまま作っていくという、それは覚悟の現れなのかも知れない。
個人的には今このタイミングで1年待ってまでジムニーシエラを買うことはない。けれどもパワートレーンを進化させた(せめて6MT)5ドア版のカラフルシエラが近い将来出てくれるというなら、それまでパンダに乗り続けることもやぶさかではないのだが。
文・西川 淳 写真・柳田由人 編集・iconic
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みんなのコメント
自分は時代遅れのパワートレインが欲しかったし急いでもいないので今納車待ちですが。
どんなにコンパクトでも非力でも無骨でも、現代的に洗練されたエンジン・変速機のクルマに乗っちゃうとどうしても飛ばしたくなっちゃって、でも飛ばしても虚しくなるだけで、そんな中で唯一、ジムニーシエラは違うんですよ。
至らなくて遅くて、楽しい。
正直オフロードなんてどうでもいい、というか長野住みなので四駆は邪魔にはなりませんけどわざわざオフロード走ろうとは思いません。あくまでも遅くて楽しいシンプルなクルマが欲しかった。カラフルでも便利でもそれは手に入りません。唯一無二です。
メルセデスGクラスとかレンジローバーなんかと比べられてたりしてw
スゴイ価格差なのに走破性は全く引けを取ってない。
遊びの道具として最高の一台だね。