2014年11月27日~30日に開催されたロサンゼルス・オートショーで、アウディは燃料電池を搭載したA7スポーツバックh-tronクワトロのジャーナリスト向け試乗会を一般公道で開催した。また、この燃料電池車はすでにアメリカの公道での実証実験も行なっており、アウディはいつでも市販できるレベルにあると語っている。
アウディはこの燃料電池車をh-tronと名付けているが、「h」は燃料電池システムで使用する水素を意味する。アウディはすでに発表している電気自動車「e-tron」、合成メタンガスを使用する「g-tron」をラインアップしており、次世代技術は全方位で対応するポリシーを打ち出している。
アウディ(VWグループ)は電気自動車「e-tron」、メタンガス車「g-tron」のいずれもWell to Wheelを重視しており、電力は風力発電など再生エネルギー源により生み出し、その電力を使用して水を電気分解して水素を取り出す。燃料電池車に使用する以外の水素はCO2ガスと結合させて合成メタンガス(e-gas)に変換し、g-tronに供給するという、化石燃料に依存しないCO2フリーのエネルギーチェーンを展開している。
このためすでに実験的な風力発電による水素精製工場も独自にドイツに設置している。したがって今回発表されたh-tronもCO2フリーの水素供給を前提にしていることが特徴で、排気ガス・ゼロに対して包括的に対応するという企業ポリシーを打ち出しているのだ。
A7スポーツバック h-tronのパッケージングは、ガソリンエンジン搭載モデルと同様に、コンポーネンツをレイアウトしているのが特徴だ。フロントのエンジンベイに燃料電池の発電スタックを搭載している。発電スタックは300個以上のセルを集合させた、固体高分子型ユニットでプラチナを触媒として使用している。
h-tronが搭載する発電スタックの各セルの発生電圧は0.6V~0.8V。燃料電池全体では230V~360Vの電圧を発生する。燃料電池の補機としては吸入空気を圧送するターボ送風機、水素リサーキュレーションファン、燃料電池冷却水ポンプなどを備えている。これらの補機は高圧電流により駆動され、燃料電池は80度前後の温度で稼動され熱効率60%を達成している。その一方で、冷間始動は-28℃でも可能になっている。また燃料スタックのそばにDC-ACコンバーターが搭載されている。
水素タンクは車両レイアウトに合わせ4本搭載。水素1kgで100kmの距離を走行でき、ガソリンエンジン換算の燃費は27.02km/Lに相当する。したがって航続距離は500km以上となる。また水素のフル充填時間は3分間程度。水素タンクはアルミ合金タンクの周囲にカーボン繊維で補強した構造で、水素は70MPaで、4本のタンクにより約5kgを搭載する。
h-tronの電動駆動システムの特徴はプラグインハイブリッド・システムを採用していることだ。駆動用のリチウムイオン電池はトランクルーム底部に配置され、8.8kWhの容量を備えている。このバッテリーはA3 e-tron(電気自動車)の駆動用バッテリーと共通だ。この水冷電池により、バッテリーだけでのEV走行もでき、もちろん外部から充電することもできる。
アウディは、燃料電池車にはリチウムイオン電池が不可欠と考えており、高効率のブレーキエネルギー回生ができ、加速時にはモーターに大出力を発生させる能力を備えている。このため、前後アクスルに駆動モーターを備えたクワトロシステムにより、強力な加速が実現し、また前後いずれかのタイヤがスリップした場合は電気的にトラクションコントロールが行われるようになっている。
h-tronは大容量のバッテリーを搭載しているため、バッテリーのみで50kmをEV走行できる。バッテリーの充電時間は、満充電まで230V家庭用電源で4時間。工業用360V電源の場合は2時間となる。
燃料電池で発電された直流電流はDC-ACコンバーターにより交流に変換され、前後のアクスルを駆動するモーターに送られる。前後にある駆動モーターは水冷式の永久磁石同期モーターを採用する。各モーターの出力は85kW(115ps)、最高出力は114kW(155ps)。最大トルクは270Nm。駆動モーターは一体化された遊星ギヤ式減速機を備え、減速比は7.6:1としている。またパーキングロック、デフ機構も組み込まれている。
前後輪を独立したモーターで駆動・制御するため、アウディはこれをe-クワトロと名付けている。アクセルをいっぱいに踏み込むと燃料電池は1秒以内に全負荷状態となり、モーター駆動によりエンジン車に勝る鋭い、しかも静粛な加速が得られる。
前後合計540NmのトルクによりA7 h-tronの0-100km/h加速は7.9秒、最高速は180km/hという動力性能を発揮する。前後のモータートルクを制御することで、従来のクワトロに勝るとも劣らないスポーティな動力性能と安定性、強力な駆動力を実現しているのだ。なおh-tronの車両重量は1950kgとなっている。
ドライビング・モードは「D」、「S」があり、「S」モードでは強力な加速と同時に減速エネルギー回生が最大限に使用されるので、アクセルオフでは強力なブレーキ力も発生する。したがって、通常の油圧ブレーキは必要最小限の使用でこと足りる。
アウディの技術開発担当取締役、ウルリッヒ・ハッケンベルク博士は「A7 h-tronクワトロはスポーティな走りと低燃費を両立させた紛れもないアウディ車です。搭載されたe-クワトロシステムは、2つのモーターで4輪を駆動します。今回発表したh-tronコンセプトカーをご覧頂けば、我々がすでに燃料電池の技術をマスターしていることをご理解頂けると思います。マーケットの受け入れとインフラ整備の状況が整い次第、すぐにでも市販モデルを発売できる状態にあります」と語っている。
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