毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
【タイプR スイスポ A110…】 走りのよさ? 楽しさ?? 「人馬一体感」ってなんなんだッ!!?
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ CR-Xデルソル(1992-1999)をご紹介します。
文:伊達軍曹/写真:HONDA、ベストカー編集部
■4人乗りクーペの2代目から2シーター・電動オープンへ
フルモデルチェンジの際に、まるで演歌歌手の氷川きよしがいきなりビジュアル系に転身したかのような、まさかの方針転換を実施。
そのため元々のファンは離れ、そして新たなファンもつかめずに消えていった、あまりにもチャレンジャーな車。それがホンダCR-Xデルソルです。
1983年に登場した初代CR-X(ホンダ バラードスポーツCR-X)は、「FFライトウェイトスポーツ」というまったく新しいジャンルを切り開いた2+2のファストバッククーペ。
これは若年層を中心にけっこうなヒット作となりました。
続いて1987年に登場した2代目CR-Xは車名からバラードが外れて「ホンダCR-X」となりましたが、基本的には初代からのキープコンセプトであったため、これまたスポーティな走りを好む若者世代にはまあまあ売れました。が、全体としてはやや微妙な販売状況でした。
その失地を回復すべく1992年に投入されたのが、3代目のCR-Xに相当する「CR-X デルソル」なのですが、それはちょっとというか、かなり大胆なモデルチェンジでした。
オープンルーフが「トランストップ」と名付けられた電動式とマニュアル式とを選ぶことができ、マニュアル式のルーフは取り外しも可能だった。デルソル(del Sol)はスペイン語で「太陽の」の意。「明るい太陽の下で爽快な走りを楽しむ」との願いが込められたという(リアルスタイルの画像はSiR)
それまでのファストバッククーペスタイルを捨てたところまでは、まあ想定の範囲内とも言えます。しかし新しいCR-X(デルソル)は、まさかの電動メタルトップ式2座オープンカーだったのです。それも、2代目までの硬派欧州系スタイルではない、妙にアメリカ~ンで陽気なデザインの。
「トランストップ」と名付けられたメタルルーフは、スイッチひとつでトランク内の専用ホルダーに収容できる電動ルーフ(※手動式のオープンルーフもありましたが)。
今で言う「クーペ・カブリオレ」とほぼ同じです。ただし時代が時代ですので、その開閉と収容には約45秒かかりました。
搭載エンジンは、上級グレード「SiR」には最高出力170psの1.6L DOHC VTECエンジンが搭載され、「VXi」はハイバランスな130psの1.5L SOHC VTECを搭載。
5MT車のシフトはショートストローク化され、その変速フィールはなかなかスポーティでした。
しかしCR-Xデルソルは人々の心をとらえる車ではなかったようで、1998年をもって生産終了に。
それと同時に、「CR-X」という一世を風靡した車名も消滅してしまいました。
■大胆な挑戦 しかし背景には抜き差しならない事情も
CR-Xデルソルが1代限りで生産終了となった理由。それを考えるには、初代&2代目CR-Xについても考えなければなりません。
そもそも3代目のCR-X(デルソル)が奇天烈な(?)モデルチェンジを行わざるを得なかった背景には、「小型スペシャリティカー全般の人気低迷」があります。
初代のバラードスポーツCR-Xはスマッシュヒットとなりましたし、2代目CR-Xも最初は好調でした。しかし市場そのものが縮んできてしまったため、ホンダとしては「キープコンセプト」のフルモデルチェンジを行うわけにはいきませんでした。
自由でのびやかな空間造りを目指した内装。メーターパネルは、風を切って走るオープン感覚を強調し、ゴーグルをイメージした個性的なデザインが採用された(写真はともにSiR)
それをやっても、一部の車好きは喜ぶでしょうが、商売としては立ち行かない可能性大だからです。
そこでホンダが打った手が、冒頭で申し上げた「あの氷川きよしがビジュアル系に?」みたいな「あのCR-Xがアメリカ~ンな2座式電動オープンカーに!」という大胆なイメチェンだったのです。
その心意気やよしではありましたが、残念ながら物事はそう簡単には運びませんでした。
小型のスペシャリティクーペというのも小さめな市場ですが、「小型の2座式オープンカー」というのはさらに小さな市場です。そこに釣り糸を垂らしても、魚はいなかったわけです(もしくは、いたけど少なかった)。
また、ほぼ同時期に初代マツダ ロードスターという怪物的人気を誇る競合がいたことも、少しは影響していたかもしれません。
とはいえCR-Xデルソル、決して悪い車ではありません。
快適なオープンエアが楽しめる割にボディの剛性感はたっぷりですし、VTECエンジンもさすがの好印象です。
2代目CR-Xが終わるタイミングで「CR-X」の名を捨て、単なる「ホンダ デルソル」として発売したならば、もしたしたらデルソルは「地味な長寿モデル」に育った可能性はあったのかもしれません。
■ホンダCR-Xデルソル 主要諸元
・全長×全幅×全高:3995mm×1695mm×1255mm
・ホイールベース:2370mm
・車重:1120kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1595cc
・最高出力:170ps/7800rpm
・最大トルク:16.0kgm/7300rpm
・燃費:13.6km/L(10・15モード)
・価格:188万円(1992年式SiRトランストップ5MT)
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