今や名実ともに世界最大のモーターショーとなった上海国際モーターショー、「オート上海」は2021年4月19日~28日まで中国・上海の国家コンベンションセンターで開催された。
中国市場は新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年の第1四半期は武漢市のロックダウンなどで経済は停滞したが、感染拡大を抑え込みに成功した第2四半期からは月ごとに力強い回復を見せ、2020年の年間の乗用車販売台数は2531万台に達している。
そして2021年の第1四半期もその好調が継続し、世界で唯一、大幅に経済成長しており、間違いなく世界ナンバーワンの自動車販売台数を記録するはずだ。つまり、この巨大市場で成功するかどうかが自動車メーカーの命運を握っているとも言えるだろう。
上海モーターショーの概要と意義
新型コロナウイルスの世界的な感染流行以降、初めて予定通り開催された国際自動車ショーとなった今回のショーは、新型コロナウイルスの感染拡大の抑え込みに成功した中国の経済回復と成長を背景に、世界最大の自動車ショーとなった。
2021年上海モーターショーのテーマは「Embracing Change(変化を受け入れる)」がテーマとされ、実質的に電気自動車ショーと呼べる内容。その他に自動運転やコネクテッド技術とサービスの最先端も数多く出展されている。
今回のショーには、出展社数では1000社が参加し、総展示面積は36万平方メートル、ワールドプレミア128台を含む1310台の車両が展示された。そして、徹底した新型コロナウイルス対策により来場者は81万人とやや絞られたものの、大盛況と言っていい。特に世界的な感染拡大により海外からの来場者が大幅に減少しており、海外のジャーナリストのほとんどはオンライン参加の形にならざるをえなかったからだ。
4月19日~20日のメディアデーでは主要自動車メーカーによる記者会見が過去最多の138回行なわれ、中国と海外のジャーナリストの合計1万913人が取材に訪れている。このメディアデーには、記者会見の他にフォーラム、サミット、セミナー、技術交流会なども開催され、それらの会場でカーボンニュートラル、新エネルギー(電動化)、自動運転、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(デジタル化、ネットワーク化されハードウエアが仮想化されたクルマ)など、多くの今日的な課題に焦点が当てられている。
しかし何よりも、今回はEVショーとなったように、中国の新エネルギー車市場が世界の注目を集め、中国の民族系自動車メーカー、さらには海外の伝統的な高級車メーカーが発表したEV・新エネルギーモデルの数が、出展されたクルマの半数以上に達している。
電気自動車と同時に、中国市場ではスマートカーが今後の時代を切り拓くであろうことも明確になっている。2021年のショーではついに中国IT企業のファーウェイ(華為)、バイドゥ(百度)などのインターネット&IT大手企業と自動車会社との強力なコンビネーションが発表され、自動車市場は燃料から新エネルギー車へ、メカ・ハードウエアから知能化へ、そして、より上質な生活空間へと変化して行くことが明確化されている。
このことは、自動車メーカーのブランディング、商品企画、マーケティングなども大きく方向転換せざるを得ないことを意味している。
今回のショーは参加したテクノロジー企業の数が過去最高となり、テクノロジー巨大企業による製品化元年であることも感じられた。
展示場における「テクノロジー・サプライヤー」の展示面積は6万平方メートルで、自動車用半導体、レーダーやLiDAR、自動運転、インテリジェント&デジタル・コックピットなどの技術を競っているこのような大規模なテクノロジー企業が、より強力に関与することで、自動車の電動化、知能化、ネットワーク化、情報化に向けた開発が促進されることは間違いない。
特に中国の自動車消費者がインテリジェントカーや自動運転により関心を深めており、自動運転車の技術が特に注目を浴びている。
なお今回の上海モーターショーでは新型コロナウイルス対策として、健康データの監視と管理は大きな効果を発揮している。ショーのコンセプトに従い、電子チケット、電子入退場管理、顔認証サービスを導入し、来場者の実名認証を厳格に行ない、また会期中は展示ホールや公共エリアを徹底的に消毒し、安全なイベントとして実現している。
また新型コロナウイルス対策の一環として、展示方法も多様化。今回のオートショーでは、各自動車メーカーは斬新な展示方法、スペースに余裕がありリラックスして楽しく、環境にも配慮した良いカーライフのコンセプトを観客に示している。
近未来のテクノロジー・ライフスタイルの共有や、没入型のインタラクティブな体験展示などは今後のクルマが関わるライフスタイルを示しているといえるだろう。
今回のモーターショーは技術&ハードウエアからソフトウエア重視にアップグレードされ、自動車がデジタル・モビリティとスマートコネクティビティの時代に入ったことは印象的だ。こうした新たなトレンドは世界の自動車産業が回復するための強力なエンジンとならざるを得ないだろう。
ファーウェイ(華為)の決断
今回のモーターショーの象徴的な風景として、自動車メーカーではなくファーウェイ(華為技術)のブースに多くの人々が集まった。
ファーウェイ 自動車事業発表
ファーウェイのブースには「HI」のロゴが貼り付けられた1台のクルマが展示されており、このクルマは中国の北京汽車の電気自動車(EV)ブランドが発売した「ARCFOX(極狐)αS」である。そして「HI」はなんと「インテル・インサイド」と同じ流儀で「ファーウェイ・インサイド」の頭文字であるという。
この新型EVは、ファーウェイ製の電気駆動モーターやセンサー類、中央統合制御用ECUなどで構成されるファーウェイの自動運転+EVプラットフォームを新採用。市街地でのハンズフリー走行が可能な高度運転支援システムを搭載し、価格は650万円~700万円とされている。
なお、中国では現時点では多数のレベル3、レベル4の自動運転の実証実験が行なわれているが、法規的にはレベル3以上の自動運転システムは認可されていないのでレベル2となる。だが、技術的にはレベル3を飛び越してレベル4にアップグレード可能な高度運転支援システムの搭載となっているのだ。
実はファーウェイは、モーターショーの開幕に先立つ4月12日に、広東省シンセン市にある本社で、上海モーターショーで自動運転システム搭載モデルを発表すると予告。同時にファーウェイは、新たな事業部門として自動車事業を開始することを決定し、自動車メーカーとしてクルマを作るのではなく、自動車メーカーにトータルなハードウエアとソフトウエアを供給するメガ・サプライヤーを目指すとしている。
今回のモーターショーでは、北京自動車の新型車だけではなく、ファーウェイの開発した電気モーターやバッテリー制御ユニット、ギアボックスなどを一体化したEアクスル「Drive ONE」、自動運転に欠かせないLiDARや4次元イメージングレーダー、バッテリー制御、独自OSを搭載した車載デバイスやECUなどを出展した。
世界に19万7000人の従業員を擁するファーウェイは、通信機器やスマートフォンだけではなく様々なテクノロジー開発を行なっている企業だ。5G通信、AI技術などからモビリティに関する開発も行なっている。そのため以前からシンセン港の港湾域内での大型トラックの無人運転システムも実証実験を行なっている。そうしたリソースを自動車事業に投入しようというのだ。
自動車事業は、まずEVの自動運転車の統合電子プラットフォームを作り、同時にそのプラットフォームで作動するセンサー類、駆動モーター、電気駆動制御システム、コネクテッド技術などをラインアップしている。
もちろんハードウエア類の多くは提携企業との共同開発品だが、必要なハードウエアは全てラインアップ。このように電子プラットフォーム、電子制御システムとハードウエアをすべて順することで、CASE時代のデファクト・スタンダードとしてのメガ・サプライヤーを目指しているといえる。
逆に言えば、これからのCASE時代に、自力で全てを開発できる自動車メーカーは存在しないという読みでもある。ファーウェイの電子プラットフォームは、北京汽車、長安汽車、広州汽車など中国地元の大手メーカーがすでに導入を決め、今後さらに拡大すると予想される。
ファーウェイだけではなく、今回のモーターショーを契機に、バイドゥ(百度)も自社の高精度地図データなどを利用した自動運転システムを自動車メーカー向けに発売することを予告し、スマートフォン製造大手のシャオミィ(小米)は、今後膨大な資金を投入してEVプラットフォームを開発することも発表している。
中国における2020年のEVを含む新エネルギー車の販売台数は、前年比で約11%増の136万台。中国政府は自動車販売全体に占める新エネルギー車の販売比率を現在の約5%から2025年には20%前後に引き上げる方針を掲げており、その大幅な増加をさせるのがEVとされている。
今回の上海モーターショーでは、中国市場でのさらなるダイナミックな変貌を予感せずにはいられない気がする。
上海国際汽車工業展覧会 公式サイト
ファーウェイ 公式サイト
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