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目指せ南極! ポルシェ356Aで冒険を続けるレネー・ブリンカーホフの挑戦【動画】

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目指せ南極! ポルシェ356Aで冒険を続けるレネー・ブリンカーホフの挑戦【動画】

1956 Porsche 356 A

1956 ポルシェ356A

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これまで6つの大陸をポルシェ356Aで走破

レネー・ブリンカーホフ(Renee Brinkerhoff )は、ある大きな目標を持ってポルシェ356で世界を舞台に走り続けている人物だ。2021年冬、彼女は究極の挑戦を計画している。

1956年製ポルシェ356Aを操るレネーが展開する「プロジェクト 356 ワールドラリー・ツアー(Project 356 World Rally Tour)」の最終ステージの舞台は世界最極地、南極大陸だ。

これまでに、彼女は自身が進めるチャリティープログラム「ヴァルキリー・ギブス(Valkyrie Gives)」として、6つの大陸を横断。このすべての走行が、児童人身売買と闘うためのチャリティ活動の啓蒙活動として行われた。この冬、彼女はこれまでトライしたことのない場所、南極でポルシェをドライブする。これは、かつてないほどにタフな挑戦になることは間違いないだろう。

運命的な出会いをしたポルシェ356

アメリカ・コロラド州で4児の母として暮らしていたレネーが、世界を股にかけた冒険乗り出すとは、彼女自身も想像していなかった。ある日、彼女が自宅のランドリールームで洗濯物を畳んでいると、頭の中で小さな声が聞こえてきた。「レースを走るのよ!」と。

そして、夫のいとこがレストアをしようと購入したドイツ製の小さなスポーツクーペを見た瞬間、そのクルマでモータースポーツに挑戦することを決めたのである。

「いとこがクルマを買ったと聞いて見にいくと、それが356だったの。それまで一度も356を見たことはなかったけれど、ちょうどレースに出てみようと思っていたタイミングでした。私はこのクルマに一目惚れして『これこそが私の求めていたクルマだ』と、感じたことを覚えています」

その後間もなく、同じいとこが彼女のためのポルシェ356を見つけてくれた。

「他の車種は一切考えていませんでした。このクルマに出会った時、『これしかない』という直感があったんです」

ラリーカーをドライブするための準備

2011年、レネーはついに356Aを購入。以来、356以外のクルマには目を向けていない。2012年、彼女は初めてメキシコの過酷なロードラリー「ラ・カレラ・パナメリカーナ(La Carrera Panamericana)」を訪れ、ポルシェ 356で参戦していたチームのドライバーとしてルートの一部でステアリングを握った。そして、翌2013年は全行程を自分でドライブすべく、再び参加を決める。

レネーの356Aは「Sport Menor(小型スポーツカー)」クラスで最大限のポテンシャルを発揮すべく、規定に合わせた改造が施されることになった。エンジンのパワーアップ、専用に作られたショックアブソーバーやロールケージの装着が行われ、さらにギヤボックスも標準の4速から5速に変更。世界各地のラリーに対応できるようになった。しかし、準備が必要だったのはクルマだけではなかった。

「そう、運転の仕方を覚えないといけなかったのです。どうやってラリーカーをドライブすればいいのか、まったく分からなかったんですもの(笑)」

レネーはドライビングスキルを高めるために、ポルシェ・トラック・エクスペリエンスに参加。チーフドライビング・インストラクターであり、アメリカで最も有名な耐久レーサーであるハーリー・ヘイウッドの教えを乞うた。「彼はサーキットで本当にいろいろなことを教えてくれました。おかげで、ドライブへの自信を得ることができたんです」と、レネーは振り返る。

ヴァルキリー・レーシングでラ・カレラ・パナメリカーナへ

2013年、57歳になったレネーは、2度目となるラ・カレラ・パナメリカーナ参戦の日を迎えた。このラリーイベントは「カレラ」と「パナメーラ」という2つのポルシェのモデル名を連想させるように、ポルシェの歴史と深い関係を持っている。黎明期にポルシェ550スパイダーが、このイベントで大成功を収めているのである。

レネーは、スタート直前まで356Aの製作が続いていたため、本番前にテストを行う機会が一切なかった。厳しい状況で走行距離2000マイルのラリーをスタートしたにも関わらず、7日間フルスロットルでメキシコを横断し、彼女はクラス優勝を手にした初の女性となった。さらに2014年にも参戦し、クラス2位・総合14位という素晴らしい成績を獲得している。

2015年は新チーム「ヴァルキリー・レーシング」として初参戦。チーム名は北欧神話に登場する、瀕死の戦士をヴァルハラ(主神オーディンの宮殿)へと導く女性たちにちなんで付けられた。そしてこの年、レネーはこれまでにない恐怖に遭遇することになる。

「家に帰れないところでした」と、レネーは振り返る。ラリーを観戦していた群衆を避けようとガードレールに激突、クルマに大きなダメージを受けてしまったのだ。のちに彼女の装着していたタイヤは適正な空気圧ではなかったことが判明。彼女は地元のポルシェ・コレクターからパーツを調達しラリーに復帰したものの、クルマのダメージが大きく、チームはラリー活動の1年休止を余儀なくされた。

プロジェクト 356 ワールドラリー・ツアーが始動

このアクシデントの後、レネーは各地で今も残る貧困や人身売買の状況を目の当たりにし、ふたつの重要な決断をした。まずラリーチームをベースに、危険にさらされている女性や子供たちを支援するための慈善団体「ヴァルキリー・ギブス」を設立。特に彼女は児童人身売買の撲滅に力を入れることを表明する。そして、大規模なチャリティ活動「プロジェクト 356 ワールドラリー・ツアー」が始動した。

レネーは自分自身の限界に挑戦し、新たな慈善活動への意識を高めるために、7大陸で行われる6つのラリーへの参戦を計画した。冒険の規模が大きくなるにつれ、英国に拠点を置くヒストリックラリー・ポルシェのエキスパート「タットヒル・ポルシェ(Tuthill Porsche)」もマシンのプレパレーションに参加。そして2017年、レネーは再びラ・カレラ・パナメリカーナへと戻った。

勝手知ったるメキシコを舞台としたワールドツアーの初戦。レネーは冷静なドライブで2度目のクラス優勝を達成。そして2018年はオーストラリアの「タルガ・タスマニア(Targa Tasmania)」、標高1万5000フィートのアンデス山脈を臨む「カミノス・デル・インカ(Caminos Del Inca)」に参戦する。

2019年はアジアからヨーロッパへと9300マイル、36日をかけてユーラシア大陸を横断する「北京~パリラリー」に挑戦。この時はエンジントラブルに見舞われ、分解した交換用エンジンを4個のスーツケースに入れてロシアのサンクトペテルブルクへ空輸するという荒技も見せている。

そして、10年に及ぶラリーへの挑戦の記念として、2019年は最もタフなヒストリックラリーとして知られる「イーストアフリカン・サファリ・クラシックラリー(East African Safari Classic Rally)」を走破した。このラリーで、ヴァルキリー・レーシングは唯一の女性チームとしてフィニッシュラインを通過。チャリティ活動に加えて、女性チームでの参戦もレネーにとって大きなモチベーションになっているという。

「表彰台に立つことよりも、チームとしての素晴らしい経験が勝っています。人々の生活にポジティブな変化をもたらして、生きるための活力を高めることができたことが、私にとって最もやりがいのあることでした」

7つ目の大陸「南極」へのチャレンジ

設立以来20万ドル近くの寄付を集めてきたヴァルキリーズ・ギブスの活動を継続すべく、レネーは「プロジェクト 356 ワールドラリー・ツアー」のタイトルに込められた“約束”を果たそうとしている。それは7つ目の大陸、つまり最後のフロンティア・南極へと向かうことだ。

2021年1月、彼女が南極に到着した時、そこには応援する群衆もなければ、ライバルもいない。自分自身と、永遠にも思える凍った大地が広がっている。ヴァルキリー・レーシングは未知の世界へと踏み出すのである。

彼女は想像できないほどに過酷なコンディションのなか、南極における世界記録にも挑戦する。「準備はしていません・・・というか、準備なんてできないんですよ(笑)」と、彼女は笑った。それでも、レネーはドライビングスキルを磨くために氷上走行の練習を繰り返し、可能な限り最高のクルーを集めて南極へと向かう。

先日、レネーは極地探査におけるスキーと車両の世界記録を持つ、冒険家ジェイソン・デ・カーテレットのインタビューを受けた。レネーはすぐに「彼が自分は南極の危険に耐えられるかを探っている」と気づいたという。そして、カーテレットの答えは「YES」だった。

南極での走行に向けて大幅に改造されたポルシェ356A

彼女やチームと同様に、1956年製ポルシェ 356Aも南極での走行に向けて準備が進められている。

外観の最も大きな変更は「クレバスバー」の装着だろう。この特別な装備は、氷上で大きな亀裂(クレバス)にハマった場合にクルマが落下することを防ぐ効果を持つ。走行に関しては4つのタイヤではなく、スキーとクローラーを併用。氷上を走るには車重も鍵となるため、例えばヒーターなどの装備が取り外された。

雪や氷のなかではシルバーのボディカラーの視認性が非常に低いため、動画や写真撮影のために真っ赤にリペイントされている。チームはクレバスバーにソーラーパネルを設置したり、チームの装備にカーボンオフセットを活用するなど、プロジェクト全体がカーボンニュートラルであることを強調。持続可能性への対策も徹底されている。

7つの大陸走破後に彼女を待つ道

しかし、このプロジェクトに予想外のアクシデントが待っていた。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、特にパーツの供給と南極へのロジスティクス面で計画の変更を余儀なくされてしまったのだ。それでも、レネーは南極の氷が安定する2021年1月にはすべての準備が整うと確信している。

7つの大陸を走破した後、そこに何があるのかは分からない。ただ、ひとつだけ確かなことがある。レネー・ブリンカーホフは決断力を持ったタフなラリードライバーであり、この先にもまだまだ多く道が続いていることを彼女は知っている。

そして、彼女は「まだ、私の人生は終わっていませんから」と、苦笑いをしながら肩をすくめた。

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