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真逆のマシン特性でレッドブルに挑んだメルセデス。サインツ、ペレスがハマった難関ターン6【中野信治のF1分析/第9戦】

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真逆のマシン特性でレッドブルに挑んだメルセデス。サインツ、ペレスがハマった難関ターン6【中野信治のF1分析/第9戦】

 カナダ・モントリールのジル・ビルヌーブ・サーキットを舞台に行われた2024年第9戦カナダGPは、天候がめまぐるしく変化するコンディションのなか、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季6勝目、自身通算60勝目を飾りました。

 今回は三つ巴の戦いを繰り広げたレッドブル、メルセデス、マクラーレンのマシン特性、アクシデントが続いたターン6の難しさ、角田裕毅(RB)の契約延長などについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

エース格の角田裕毅に対し単年契約を結んだRBに驚きの声/F1時事ネタコラム

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 雨絡みとなったカナダGPはフェルスタッペンが勝利を飾り、2位にランド・ノリス(マクラーレン)、3位にポールシッターのジョージ・ラッセル(メルセデス)が続く結果となりました。目まぐるしくコンディションが変化した決勝では、この3チームがそれぞれ強さを発揮していたように見えました。

 まず、ウイナーのレッドブル陣営は“フェルスタッペンが強かった”。マシンのポテンシャル自体はウエット、ドライ、雨が降ったり止んだりのダンプと、どのコンディションにおいても70~80点ほどの仕上がりですけど、フェルスタッペンはそのマシンポテンシャル以上の走りを見せていました。

 今回のカナダGP、特にドライコンディションにおいてレッドブルRB20は、サスペンションがうまく機能していないのではないかというほどクルマが跳ねていたほか、フェルスタッペンも無線でグリップ不足を訴えるほど。その難しさはチームメイトのセルジオ・ペレス(レッドブル)の予選、そして決勝での結果からも、その困難さが想像できるかと思います。

 レッドブルRB20はカナダGPではストレートも速くはありませんでした。つまりダウンフォースをつけ気味で走っているということであり、それはクルマが決まっていないことの現れです。また、フェルスタッペンは決勝中に「縁石に乗れない」と無線を飛ばしていました。レッドブルは2022年以降のウイングカー規定下のサスペンションジオメトリーにおいて、フロントが動かない(硬い)、ピッチング(前後の上下動)をコントロールできることにフォーカスしたクルマ作りをしてきました。

 足回りを硬くする理由は、車体下面に入る空気を安定させるためです。ただ、フロントが動かない足回りとなることで、路面温度が低いコンディションではタイヤへの熱入れが難しくなったりもします。そういったデメリットがありつつも、タイヤのデグラデーション(性能劣化)も含めて安定するため、これまで速さを見せてきました。

 カナダGPの行われたジル・ビルヌーブ・サーキットは縁石に乗らないとコーナーがタイトになり、かなり速度を落とさなければならなくなります。それゆえに、レッドブルも縁石に乗りたいところではありますが硬い足回り、かつ高さのある縁石で跳ねるため、着地の際に姿勢を崩し、コーナーの立ち上がりでアクセルが踏めない悪循環が生まれてしまいます。その悪循環を抑えるためにカナダGPではダウンフォースもつけ気味だったのではないかと思います。それほどまでにマシンが決まっていなかったのでしょう。

 一方、予選でラッセルがポールポジションを獲得し、決勝ではラッセルが3位、ルイス・ハミルトンが4位という結果を残したメルセデスに関しては、なにが速さの裏付けだったのかは正直わかりません。ストレートでもそこそこ速く、いい意味で“いつもどおり”、“想定内”で収まっていたように見えました。

 メルセデスW15はレッドブルRB20とは真逆で、縁石に乗った際のクルマの動きが非常に滑らかで、縁石をカットした後のクルマの姿勢がすごく収まりが良く、コーナーの出口に向けてアクセルをしっかりと踏めるマシンでした。こういったマシン特性が路面のミュー(摩擦係数)が低い、長いストレートのあるストップ・アンド・ゴーのジル・ビルヌーブ・サーキットにハマったというのもあるかもしれません。

 また、小さめのコーナーでもグリップ感があり、フロントがグイグイと入っていくように見え、特にドライコンディションにおいて、メルセデスは悪い部分が見当たらない仕上がりぶりでした。このカナダGPでのメルセデスの速さ、仕上がりが本物なのか、それとも偶然なのかは次戦のスペインGPで見極めたいところですね。

 そしてマクラーレンは、ノリスが2位、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が5位と、ドライでのスピードに関してはここ数戦どおりの速さでした。マクラーレンのマシンは低速、高速問わずマシンバランスがそこそこ良いのですけど、ストレートスピードがあまり速くはない。それゆえに予選でのポールポジションは難しいのかなとは思いましたけど、予選ではノリスが0.021秒差の3番手、ピアストリが0.103秒差の4番手と善戦し、私としては意外な好走ぶりでした。

 ドライに関して突出して速さがあるわけではないマクラーレンでしたが、決勝においてインターミディエイト(浅溝)タイヤを履くウエットから乾きつつあるコンディションでは、恐ろしいまでのスピードを見せていました。2台揃ってトップ2を追う、タイヤマネジメントしやすいポジション(3番手ノリス、4番手ピアストリ)だったことも少しは影響したとは思います。

 また、ストレートスピードがあまり速くはない、つまりダウンフォース多めというマクラーレンのマシン特性から、タイヤに優しい仕上がりとなったこともあの走りを支えた要因かもしれませんね。

 ノリスは序盤にトップに浮上し、一時は2番手フェルスタッペンに7秒差をつけました。ただ、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)のスピンによる1回目のセーフティカー(SC)により、ノリスはそれまで築いたギャップが消えることとなりました。それゆえにSCがなければどういった展開となったのかは気になるところではあります。

 ただ、もしノリスがギャップを保ったままレース後半を迎えても、ドライ路面となり全車がスリックタイヤに履き替えてからのレースペースを考えれば、たとえSCがなかったとしてもノリスとマクラーレンの勝利は厳しかったかもしれませんね。

■見た目以上に難しいターン6

 決勝ではダンプコンディションのなか、ターン6という左コーナーでカルロス・サインツ(フェラーリ)、ペレスが単独スピンを喫し、サインツのスピンではアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)も巻き添えとなり、ターン6での2件のアクシデントで3台がリタイアとなりました。

 これはターン6が乾き切らなかったことが理由ですね。タイトな左コーナーのターン6に入る際は、右側からターンインしますけど、ちょうど2件のアクシデントが続いたレース後半の時点で、ターン6はイン側(左側)が乾きつつあるも、アウト側(右側)がまだ濡れていました。

 ターン4~5の左、右コーナーを抜けた先のターン6は、ブラインドから急にコーナーが現れるイメージで見えづらく掴みにくいです。かつ、理想的なラインを取ろうとすると、右側がまだ濡れている部分に乗ってしまうので、アクシデントが続いたという印象です。ドライバーにとっては走行ラインが1本、ラインを逃せば止まらない、曲がらないという、見た目以上に難しいコーナーだったりします。

 さて、今回のカナダGPのレースウイークに、裕毅とRBの契約延長が発表されました。6月という早めのタイミングでの来季契約決定は、日本のファンにとっても非常に明るいニュースでした。本人的にもこの時期から来季が決まっていると、変なプレッシャーを感じることなくレースに集中できますので、すごくポジティブですね。

 今回のカナダGP、裕毅とRBはフリー走行ではクルマをまとめきれずに苦しんでいる印象でしたが、予選までにはきっちりと調子を取り戻し、いつもどおりの走りを見せて予選でもQ3進出を果たしました。決勝もいい走りをしていたのですけども、少しブレーキに問題もあったようで、終盤にターン8でコースオフしました。

 ジル・ビルヌーブ・サーキットはダウンフォースが少ない中、高速からブレーキでしっかりと止めなければならなず、ブレーキングが非常に難しく、厳しいコースでもあります。本人もミスだったとコメントしていましたけど、前にクルマがいたことでダウンフォースが少し抜けた状態でのブレーキングだったなど、さまざまな要因が重なった結果のコースオフだったように思います。

 さらなる上のチャンスを伺うためにも、裕毅には今回の早いタイミングでの契約延長を活かし、結果に繋げてほしいです。あの1ミスはもったいないですけど、それ以外ではほぼ完璧な走りを見せていました。大切なことは同じようなミスを2回続けてやらないことですね。

 次戦はカタロニア・サーキットでのスペインGPです。各車の勢力図がはっきりする場ということもあり、個人的にはかなり楽しみなレースです。今季すでに王者レッドブルと、それを追うライバル勢のギャップが縮まりを見せていますが、このギャップの縮まりがサーキット特性に起因するものなのか、マシンアップデートによるものなのかが如実に見えてくるのがカタロニア・サーキットでしょう。

 本当の意味での勢力図を知ることができるグランプリなだけに、とても楽しみですね。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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