2021年ダカールラリーは、Hondaワークスが2連覇を果たした。例年通りのシーソーゲームの展開がはやいうちに収束、ホンダの勝利は手堅いかと思われた終盤、しかしその結末はわからなくなった。現場で指揮をとった本田太一MGは、「最終日のフィニッシュラインを迎えるまで勝利は確信できなかった」と独白する。
勝利の確信は、持てなかった
TOP10が僅差で続き、トリッキーなナビゲーションが多く、1ミスで大きく順位を落としてしまうステージ設定だった今大会。レース中、勝利を確信できるようなことはなかったという。序盤の展開から、KTMのトビー・プライス、サム・サンダーランドと優勝を争いをすることが想定された。その中でトビー・プライスがリタイアしたことでHondaの優勝が近づいたが、その後すぐにHonda勢もホセ・イグナシオ・コルネホ、ホアン・バレダの二人がリタイア。最終的にケビン・ベナバイズが逃げ切って総合優勝を果たしたが、本当に気の抜けないレース展開だった。
作戦は4人のチームプレイ
今回の4人体制の狙いは、「4人全員が上位に入り、4人で協力しあって、総合優勝を目指す」ことにあったという。通常ラリー競技では、優勝の可能性のあるライダーのサポートに回る、いわゆるウォーターボーイ役をおいて、勝ちにいく戦略もあるが、Hondaワークスは、4人のチームプレーでの勝利を目指した。
事実、ナチョの転倒によるリタイア、バレダのガス欠によるリタイアが出るまでは、Honda勢が上位に走り、ステージ1・2フィニッシュで協力する姿が何度も見られた。マシンをライダーともに高い水準に仕上げたからこそできるハイレベルな戦法が上手く機能した。
コロナ禍でも怠らなかった準備
前回大会で使用したマシンの解析を行い、改良を加えたマシンを、クロスカントリーラリー世界選手権への参戦、実戦テストを通して、仕上げて行くのが例年の流れだが、今年はコロナの影響で、実戦テストは叶わなかった。
Hondaワークスはライダーそれぞれに試す予定だった部品を、各ライダーに直接送って、各々でエンジンやサスペンションの特性を試し、リモートでフィードバックをもらいながら、マシンの方向性を探っていった。幸いにして、各ライダーはバイクに乗れる環境にあった。リッキー・ブラベックはアメリカの自宅前に広がる砂漠で、ホセ・イグナシオ・コルネホやケビン・ヴェナバイズも、自宅近で乗れる環境があり、それぞれトレーニングに励んだ。スペインに住むホアン・バレダは、地理的制約から、ラリーのような練習環境はなかったが、モトクロスコースやエンデューロコースでの練習に励み、バイクに乗ることは欠かさなかった。
チーム揃っての実戦テストができたのは、10月に開催されたアンダルシアラリーだが、そこではライダーからはマシンに対してポジティブなフィードバックが得られ、開発陣とライダーが同じベクトルであったことを確認できた。
熟成を重ねたCRF450Rally
前回大会からは大きく変えずに、熟成を重ねながらセッティングをつめていったという。南米大陸からサウジアラビアで舞台を移したことで、必ずしもTOPスピード域ではない、エンデューロコースのような中低速でタイムを争う場面が増えた。そのためより中低速でライダーの思い通りに走れるような方向性で、エンジン・サスペンションともに熟成を図り、トラクションコントロールも各ライダーに合わせた念密なセッティングを施した。他メーカーでマシントラブルが多発する中、Honda勢はマシントラブルを一切発生させなかった。
三連覇に向けて切磋琢磨するライダー達
2022年のライダー・チームの体制は未定だが、今大会を通して更に選手層が厚くなったように感じるHondaワークス。ケビンが今回総合優勝を獲得した一方で、前回王者のリッキーは前半の遅れが響き、総合優勝にあと一歩及ばず悔しい思いをした。ダカールラリー随一のスピードスターのバレダは上手くリズムが噛合えば確実に総合優勝できる実力をもつ。またドクターストップによりレース続行が困難となったが、中盤で実力を見せつけたナチョ。彼らはチームメイトであると同時にライバルでもあり、4人が切磋琢磨することで、よりHondaファクトリーは強くなり、三連覇を確固たるものにするだろう。
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