メルセデスベンツの販売が今年も絶好調だ。昨年まで6年連続で日本での輸入車登録台数トップをキープしており、今年も年連続販売ナンバーワンに向けて突き進んでいる。まさに輸入車ブランドでの「1強」となっているメルセデスベンツだが、なぜここまでの支持を受けているのだろうか。石川真禧照氏が分析する。
文/石川真禧照、写真/メルセデスベンツ、ベストカー編集部
輸入車値上げ続出でもなぜ据え置き? 日本車が滅多に価格を上げない裏事情
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■メルセデスベンツの国内新規登録台数は7年連続ナンバーワンへ!
今年も後半に入り、上半期の状況がいろいろ発表されている。そのなかで注目したのは、輸入車の販売台数だ。
日本自動車輸入組合(JAIA)の発表によると2021年上半期の車名別輸入車新規登録台数でナンバー1はメルセデスベンツで2万7543台。2位はBMWで1万907台なのでその差は8400台以上。ダントツの首位だ。しかも、メルセデスベンツは通年の新規登録台数では過去6年間連続でトップの座をキープしている。この調子なら7年連続はほぼ確実という状況なのだ。
それにしてもなぜこうもメルセデスベンツが売れているのだろう。外国メーカー車モデル別新車登録台数のベスト10を調べても、2020年では1位はBMWミニだったが、2位はメルセデスのAクラス、さらに9位にCクラス、10位にCLAと、ベスト10に3台もメルセデス車が入っているのだ。
輸入車のモデル別新車登録台数でみても、ベスト10内に写真のAクラスが2位、9位のCクラス、10位にCLAと 3台がランクイン。盤石の強さを誇る
さらにジャンル別の登録台数を調べてみると、例えばSUVでは上級モデルのDセグメントで1位はJEEPラングラーだが、2位はメルセデスGLC、5位にGクラスが入っている。SUV全体では、メルセデスが2万263台で1位。2位はVWで1万5210台と、ここでも5000台近く、引き離している。ダントツの1位といってもよい状況なのだ。
■メルセデスの「強み」は絶妙なタイミングで新車を日本導入していること
売れているということは、ユーザーが欲しいクルマが揃っているということ。しかし、日本で販売されている輸入車を、ベストカー本誌の新車価格ガイドで調べてみると、メルセデスの項目は約2段分しかない。アウディはもう少し多い。BMWは3段分に近いスペースに新車価格が掲載されている。
つまり、車種揃えとしてはBMWやアウディのほうが充実していると言えるのだ。では、車種の多さだけではないほかの理由があるのだろう。
それは導入のタイミングなのだ。メルセデスはコンパクトクラスのA、B、CLA、GLBなどを2019年から次々に日本市場に導入している。このタイミングが、日本のユーザーのニーズと合ったのだ。
昨今のSUVブームは日本でも例外ではない。そこでメルセデスはセダンと同様のラインナップを満を持して日本市場へ導入。そのマーケティングはみごとに当たり、写真のGLAもヒット作となった
昨年からコロナ不況とは言われているが、実際に不況なのは旅行業や飲食業などごく一部と、そこに従事している人たち。世の中の企業は意外に不況ではなかったりしている。そこで働いている人たちは、旅行にも行けず、外食もできない不満が高まっている。
そのハケ口のひとつがクルマ購入。クルマがあれば家族単位で出かけることもできる。しかもある程度余裕があるから、ちょっと外車でも購入してみるか、という需要は意外に多いようだ。そのような時に、メルセデスはコンパクトカーを多車種投入している。
Aクラスは5ドアハッチバックのほかに4ドアハードトップセダンがある。GLAやGLBはコンパクトSUVとして魅力的。車両本体価格も標準装備の安全装備などを計算すると決して高くはない。こうしてコンパクトメルセデスは、メルセデスのラインナップのなかでもベストセラーカテゴリーになった。
GLBもコンパクトメルセデスのSUVとして人気に。ティーンに大人気のモデルでタレントの「にこるん」こと藤田ニコルさんも免許取得後の初の愛車としてGLBをチョイスし、話題となった
昨年の数値ではあるが、メルセデスの日本での全販売台数に対して、コンパクトクラスは約45%を占めたという。昨年のメルセデスの販売台数が5万7041台なので約2万6700台近くがコンパクトメルセデスという計算になる。Aクラスは1万679台、CLAは6233台だったのでこの2車種で1万6700台を販売している。
さらに今、ブームになっているSUVもメルセデスは品揃えが充実している。こちらも昨年実績では全販売台数の35%を占めていたという。約2万台になる。このなかにはGクラスも入っているのは言うまでもない。
■スポーツモデルである「AMG」の拡充もメルセデスの人気を支える原動力に
もうひとつ、メルセデスベンツの新車販売を語るうえで外せないのが、スポーティ&スポーツモデルのAMGだ。現在ではメルセデスAMG社という子会社だが、独自のスポーツカーのほかにメルセデスの量販車の最上級スポーツモデルとして、各車のAMGバージョンの開発を任されている。
以前はAMGバージョンといえばC、Eクラスのセダン/ステーションワゴンやSクラスセダンとわずかなSUVにだけ用意されていた。しかし、現在ではエントリーモデルのAクラスからセダン/ワゴン系、SUVはミニバンのVクラスを除く全モデルなど、フルEVのEQA、EQCを除く全車種にAMGバージョンが存在している。
この存在感はBMWのM、アウディのRSなど他ブランドのスポーツモデルの比ではない。しかも、このAMG販売の戦略もユーザー心理を考えたものなのだ。
通常、新車を購入する時はカタログを手に入れる。その際、メルセデスは必ずAMG仕様をカタログの後半にページを割いて入れているのだ。ちなみにライバルのBMWは、Mモデルは別カタログにしている。
メルセデスを購入しようとカタログを手にした人は、当然、高額だが魅力的なAMG仕様に目を引かれる。なかには、「一番高いやつを持ってこい」という豪快な人もまだいるという。
「AMG仕様は高額なモデルから売れる」(ヤナセ系セールス)という声もあった。実際に調べてみるとAクラスの場合、A35AMG(636万円)とA45S AMG(802万円)があるが、A45Sはもう在庫なしでA35はまだ購入できる。
現状AMGの設定がないピュアEVの「EQA」。今後電動化が推進されれば、EVモデルにもAMG仕様がラインナップされるであろう。そうなれば日本では鉄壁の布陣となる
このメルセデスAMGが全体の15%近くを占めている。実に8200台以上販売されている。
■顧客ニーズをいち早く捉え、新サービスを提供するディーラーも今の人気を支える
車種揃えの上手さだけではない。販売を取り巻くユーザーのニーズへの対応も見逃せない。ディーラーの全国店舗数は207店舗(2021年4月現在)。ヤナセ系とシュテルン系がある。ちなみにBMWは全国186店舗(同)だ
日本での新車販売は、セールスから購入するという文化が根付いている。この分野でのヤナセの強さは圧倒的で自他ともに認めている。こうした伝統的な商法に加えて、メルセデス日本は昨年4月に「デジタルトーク」というオンラインシステムを導入している。
単にクルマの出来がよくても人気にはつながらない。その点、日本のメルセデスディーラーは他車ディーラーを圧倒する新サービスを積極的に導入。顧客の購買意欲をかき立てる努力も怠らない
ユーザーが購入を検討するのに必要な情報をオンラインで入手する。動画コンテンツや見積もりシミュレーションなどを活用し、自宅のパソコンから商談をスタートさせることができるというもの。さらにLINEを用いた「チャットでかんたん車選び相談」では、ユーザーのこだわり条件を入力していくと、ラインナップのなかからお薦めのモデルを紹介してくれる。
さらに予約から決済までオンラインで手続きができる「メルセデスベンツ レント」はスポット数と貸出し車両の拡充を実施したり、短時間貸し出しなどのプランを導入したことで、利用が1.5倍になった。しかもここでメルセデスを体験してから購入というユーザーも増えているという。
クルマのバリエーション拡大だけでなく、販売方法にも新しいチャレンジを採り入れているメルセデスベンツの牙城は当分ゆるぎそうにもなさそうだ。
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