1990年代に人気を集めた日産のFRスポーツ「180SX」。S13型シルビアの兄弟車で、シルビアのほうもとても人気が高かったが、ハッチバックボディでリトラクタブルヘッドライトを採用した180SXもシルビアの約1年遅れで登場。
シルビアが幅広い層に人気があったのに対して、こちらは走るのが好きな若者を中心に人気を集め、約10年間も販売されるロングセラーモデルとなった。180SXがそこまで根強い人気を集めた理由とは?
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その魅力についてまだ大学生だった当時、実際に180SXを新車で購入した元オーナーであり、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が振り返る。
文/岡本幸一郎 写真/NISSAN、岡本幸一郎
【画像ギャラリー】もう作れない!?日産のリトラクタブルヘッドライト搭載スポーツカー『180SX』を写真でチェック!!
■兄弟車だがシルビアとはまったく迷わなかった!
中古車を検索すると、あんなにあったのにめっきり少なくなったことと、シルビアともどもかなり相場が高いことに驚く。こんなことなら大事に乗っておけばよかった……!?(笑)
筆者は大学を卒業する間際の1991年の2月、当時マイナーチェンジしてまもない180SXを新車で購入した。これから社会人になるから大丈夫だろうと、頭金をなんとか用意して月々5万円のローンを組んだ。
筆者の岡本幸一郎氏とその愛車 180SXの写真。当時、バブル期の金利の高いローンを組んで20代の若者がふつうにクルマを買っていた
60型セリカXXからの乗り替え。リトラ&ハッチバックが好きだった筆者は、最後までRX-7(FC3S)と本気で迷ったが、モデル末期vsマイナーチェンジ直後ということで、180SXに決めた。いくぶん後席が広かったことも理由のひとつだ。
70スープラのターボRも考えたが価格が高いのであきらめた。当時、FC3Sや70がすでにやや古さを感じさせたのに対し、180SXのほうがモダンに見えたのも大きい。
かたやシルビアとはまったく迷わなかった。シルビアもオシャレだしFRで好きな1台だったけれど、筆者にとっては普通のクルマというか、180SXとは別のクルマという認識だった。
当時、自動車メディアの業界に身を置く前だった筆者にとって、自動車誌でシルビアといっしょくたに扱われたり、「主」と「従」的な扱いをされていたことには少々不満を覚えたものだ。
■シルビアの上位モデルに位置づけされていた180SX
180SXのことは、シルビアから1年遅れて1989年に初期型が日本で発売される少し前に、こういうクルマが出るらしい情報をキャッチした頃からずっと気になっていた。
1988年にデビューしたS13型『シルビア』。ターボモデルのK'sとNAモデルのQ's、廉価版のJ'sがあり、K'sとQ'sの価格差はおよそ30万円あった
1989年にデビューした日産『180SX』RS13型。1.8LのCA18DETターボエンジンを搭載、オプション装備で四輪操舵のハイキャスが付くとKRS13型になる
意図的に遅らせたのか、販売サイドからの要望で後から企画されたのかはわからないが、前身のS110やS12シルビア/ガゼールにもノッチバックとハッチバックがあった流れからすると不思議ではない。ただ、リトラクタブルヘッドライトが付くらしいことがわかって一気に関心が高まった。
シルビア系の輸出モデルに由来する「SX」という専用の車名が与えられて世に現れた180SXは、機構的にはほぼ共通ながら、シルビアではエンジンが自然吸気とターボが選べたのに対し、180SXが当初はターボのみとされたのは、シルビアよりも微妙に「格上」と位置づけられていたからだという。
175psのCA18DETを積む前期型の中古車も検討したが、買うなら赤系ともとから決めていて、前期型はエンジっぽい色だったところ、マイナーチェンジで鮮やかな「スーパーレッド」になったのにも背中を押されて、やっぱり205psのSR20DETに乗りたいという思いも強く、お金もないのに思い切って新車を買ってしまった。
それから3年ほど乗った。ちょうど筆者が自動車メディアに身を投じた頃の愛車でもあり、所属していた媒体に愛車が登場したこともあった。
■失速したS14シルビアと堅調に売れた180SX
ご参考まで、1991年以前と1997年以降のデータが調達できなかったのだが、180SXとシルビアのざっくりした販売台数をお伝えすると、下記のとおりだ。
1992年 180SX約14,500台、シルビア約36,000台
1993年 180SX約16,000台、シルビア約30,000台
1994年 180SX約15,000台、シルビア約30,000台
1995年 180SX約9,000台、シルビア約18,000台
1996年 180SX約8,000台、シルビア約15,000台
若い読者はあまりご存知ないかもしれないが、大ヒットしたS13シルビアが1993年秋にS14にモデルチェンすると一気に売れゆきが芳しくなくなった。かたやモデルチェンジされず継続販売された180SXは、新鮮味もなくターボのみの設定ながらシルビアの約半分かそれ以上のペースで売れた。
1993年にデビューした6代目S14型『シルビア』。先代のS13のデザインがあまりにも秀逸だったため、S14のカタチが受け入れられずに不人気に終わった
累計販売台数も、S13は30万台を超え、S14は約8万5000台にとどまったのに対し、180SXが約11万5000台というのは大健闘かと思う。S14は5ナンバー枠でなくなったせいで売れなくなったという指摘もあるが、個人的にはそれよりも単純にパッとしないデザインが要因だったように思っている。
180SXが人気を博したのは、シンプルにかっこよさと、とっつきやすさにあると思う。
基本に忠実なクセのない定番的なクーペスタイルは、スポーツカー好きにとってすんなり受け入れられた。シンプルゆえ自分好みにアレンジできそうな、“素”の感じもよかった。
個人的にはBOMEXのエアロがとても気に入っていた。装着する前に手離してしまったけれど……。
180SXの約10年のモデルライフは前期、中期、後期に分けられ、途中で小規模な変更がいくつかあった。ただ、振り返るべきものとしては、1991年~の中期で前述のとおりCA型からSR型にエンジン換装されたこと。
それと、1996年~の後期でフロントバンパーのデザインが変わり丸型リアコンビランプや大型リアスポイラーが与えられるとともに、ついに自然吸気のSR20DEエンジン搭載車も設定されたことが挙げられる。
1991年のマイナーチェンジで2.0LのSR20DETターボエンジンを搭載しRPS13型になった中期型モデル。写真は1992年に追加された最上級モデルの「TypeIII」
1996年にマイナーチェンジが行われた後期型の「Type X」。主な変更は外観だが、SR20DEを搭載したNAモデルの「Type S」が新たに追加された
ただし個人的には、取って付けた感の強い後期型のデザインはあまり好きになれなかった。
■惜しむべき「小型で手ごろなFRスポーツ」なクルマ
シルビアと機構面で共通性が高いのはお伝えしたとおりだが、ボディ形状などが異なるので走りの特性も微妙に異なる。
リトラクタブルヘッドライトでハッチバックということで、車両重量がたしか20kg重かったはずで、フロントのオーバーハングがリトラクタブルライトにより重いことと、ハッチバックなので後軸重も重くなり、バルクヘッドがないぶんリアの剛性はシルビアよりも不利であるなど、厳密には素性としてはシルビアのほうがよかったことになる。
プロによるタイムアタックでも、把握している限りではラップタイムはシルビアのほうが上だった。
また、ハードに走った個体はシルビアも含めリアアクスル上のフロアの溶接が剥がれるというトラブルがS13系では散見されたようだが、やはり剛性で不利な180SXのほうが剥がれやすいという話をチューナーから聞いたことがある。
一方で、エンジンは壊れにくく容易にパワーアップできるのでいじりがいがあるとも聞いた。可変バルタイの付いたS14以降のエンジンが移植されることも多いが、SRに換装直後の赤いヘッドのほうが見た目はカッコよかった。
実は「テスタロッサ」だったのだ(わかりますよね? 笑)。また、実はハードにチューニングするとアルミブロックのSR20DETよりも鋳鉄ブロックのCA18DETのほうが有利だった。
クルマの性格としても、スポーツカーとしての資質はたとえばRX-7のほうが本格的なものの、ロータリーは燃費もメンテも究極的にお金がかかるし、操縦性も切れ味が鋭い半面、ピーキーでもある。
シルビアともども180SXは、RX-7ほどいろいろなものがシビアではないし、足りない部分もいじれば簡単に結果が出せた。そのあたりもよかったように思う。
そんな180SXも、事情によりS14シルビアとともに1998年いっぱいで生産終了となった。S15シルビアが、ハッチバックではなく独立したトランクを持つとはいえ、それまでよりもやけにリアウインドウが寝かされたのは、日産にとっても180SXへの未練があったように思えたものだ。
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みんなのコメント
それから数ヶ月後、日本で180SXが発売されたが、新入社員では買えるバスもなく、、、。若き日の思い出の車の一つですね。