はじめに
Dセグメントである。かつて、自動車メーカーが5つのモデルをラインナップするのも、テレビに5つのチャンネルがあるのも、多すぎだと感じられた頃があった。その頃のDセグメント、すなわちファミリーカーとしては大型にあたるジャンルは、英国においては市場の主役級だった。
カンパニーカー需要を重視したこのマーケットで、そのラインナップとそれらの洗練度は際立っていた。当時、車名バッジにあるiの文字はインポータント、すなわち重要さを意味するのだと語ったTV番組があったほどだ。
圧倒的に市場を占有していたのはフォードとヴォグゾール。BTCCこと英国ツーリングカー選手権は、ボルボがワゴンで参戦したのを除けば、Dセグメントセダンが席巻していた。そんなマーケットとサーキットには、もちろんプジョーの姿もあった。
だが、トヨタやルノー、日産などのメーカーは、このセグメントにクルマを投入していながらも、ここは主眼を置く必要がないと決断した。そのときから、現在のような状況が見られるようになった。
BMWやアウディ、メルセデス・ベンツが入り込む余地が生まれ、一方の大衆車メーカーは価格やスタイル、クオリティの上級移行で、ユーザーをつなぎ止めて売り上げを保とうとするようになったのだ。
その点、プジョー508はどうか。デザインは2019年のオートカー・デザインアワードを贈呈したジル・ヴィダル率いるティームが担当。この軽快で目を引くクルマは、ふたつの使命を帯びて生まれてきた。
ひとつは、日常遣いするワゴンの市場で競争力を発揮すること。もうひとつは、ブランド力で勝るライバルたちに対抗すること。はたして、それだけのクルマに仕上がっているのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
このところ、ワゴンにもプジョーにも見栄えのいいものが多かった。それゆえ、この508が、ボディの陰影がメタリックカラーほどはっきり出ないホワイトに塗装されていながら、非常に目を引いたとしても不思議ではない。
全長は約4.78m、全幅は約1.86m。浅目にスロープしたエレガントなクルマで、このセグメントのセダン/ワゴンに予想されるボディサイズの水準に達している。
プラットフォームは、PSAグループの大型モデルに使用されるEMP2。同じコンポーネンツはプジョー3008、シトロエンC5エアクロス、DS7、そしてGM傘下から移籍してきたオペル/ヴォグゾールのグランドランドXのベースになっている。
このプラットフォームということは、ボディ構造は一般的なスティール素材のモノコック。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがエンジン車ではマルチリンクを採用するが、ハイブリッドモデルは駆動用バッテリーを搭載するべく、よりコンパクトなトーションビームに変更されている。
他社の同クラスや、PSAの小型車向けのプラットフォームと比較した場合、異なっているのは電動化の方法だ。たとえばプジョーの小型車は、エンジン車とフルEVを用意することになる見込みだが、EMP2使用車はエンジン車とプラグインハイブリッドを設定する。
今回テストするのは後者のエンジン/モーター併用車で、ハイブリッド 225 E-EAT8 S&S アリュールというじつに長いグレード名がそれを表している。
フロントに横置きされるエンジンは1.6Lの4気筒ターボで、8速ATを介して前輪を駆動する。最高出力は180ps、最大トルクは 25.4kg-mで、エンジンとギアボックスの間に設置される111psの電気モーターでアシスト。
スペック表に記載されるシステム総出力は225psだが、トルクの総合値は公表されていない。これは、ふたつのパワーソースがトルクのピークを同時に発生するポイントがないからだ。
プジョーのSUVや、開発が進むプジョー・スポール・エンジニアード仕様では、後輪駆動用モーターをリアに追加した4WDが用意され、加速の活発さで前輪駆動版を上回る。
今回の前輪駆動版PHEVは、リア寄りのフロア下にマウントした11.8kWhの駆動用バッテリーにより、50km程度のEV走行を可能にしている。
内装 ★★★★★★★☆☆☆
インテリアは、これこそまさに、10年ちょっと前に、大衆車メーカーがプレミアムブランドに対し反攻に出た分野だ。このクルマのキャビンを目にすると、その挑戦が成功したのだとはっきりわかる。
組み付けと仕上げのレベルは良好。プラスティック部品の見栄えは、手触りに比べればややいい。とはいえ、ブランドを示すものをすべて取り去れば、パッと見ならプレミアムブランドのものと間違えるひともいるのではないだろうか。プジョー特有のiコクピットをもってしても、すぐにわかるというほどの差はない。
設計思想は、これまでのプジョーと変わらない。アシスト強めのラックには、角張った小径ステアリングホイールが取り付けられる。メーター類は、リムの内側を通してではなく、その上から見ることになる。
それが視界の邪魔にならないようにドライビングポジションを取れるか、それが気にならないドライバーであれば、これも悪くない。経験からいえば、恩恵に預かれるひとは多いはずだ。
このレイアウトは、登場から年月を経て改良を重ねられてきた。508のメーターパネルは、ほとんどのテスターが、少なくとも重要な表示を視認できた。
とはいえ、決してパーフェクトではなく、ステアリングホイールを一般的なポジションに設定することができない。とにかく低く座る必要がある。まるで遊園地のゴーカートみたいに。
計器類そのものは、文字が太く鮮明だ。ただし、使いやすさや表示の情報量は、選択したレイアウトに左右される。そのうちのひとつがカスタマイズ可能なモードで、われわれはこれを使用した。
この計器盤を補完するのが、センターのタッチ式ディスプレイだ。これは、実用性を損うことなしに、多くのボタンを排除しようという試みの一環でもある。
操作部のデジタル化は、ソフトウェアとデバイスが進歩するにつれ、ある面では意味を成すようになった。しかし、画面タッチでエアコンの温度調整をするなどというのは、われわれに言わせれば愚の骨頂だ。
508のドライビングポジションはおおむね良好で、後席スペースはまずまず。前席シートバックは裏側がえぐられていて、レッグスペースは十分だ。ただし、ルーフが傾斜しているので、ヘッドルームは制限される。ラゲッジルームのカバーとルーフの間にスペースはあまりない。
後席使用時の荷室容量は530Lで、ワゴンボディのヴァリアントで650L、セダンでも586Lあるフォルクスワーゲン・パサートには実用性でだいぶ後れを取る。ルックス重視のワゴンというのも、それはそれで価値があるとわれわれは思う。愛犬が同意してくれるかは、また別の話だが。
走り ★★★★★★★☆☆☆
508に搭載されるガソリンエンジンはすべて、ピュアテック180と呼ばれる180psの1.6Lターボだ。これにモーターアシストが加わるハイブリッドは225ps。1年くらいのうちには、モーターをもう1基追加した350ps級の仕様も登場する予定だ。
ガソリンユニットは、低回転域では静粛性が非つねに高い。走り出しや、大人しく流しているうちはじつに静かだが、速度が上がってもその傾向は続く。
コラムマウントで、ステアリングホイールとともに回ることのないシフトパドルでエンジン回転を制御することもできる。だが、テスター陣はほとんどの間、ドライバーがシフトに介入せずとも、心地よく飛ばせることを実感した。
このクルマの排気量比出力は113ps/Lに達する。スペック的にみれば、普及版ファミリーカーとしてはハイパワーだ。そのためモーターは、それ自体が駆動力を発揮すると同時に、エンジンのターボが効きはじめるまでのトルクの谷を埋める補助デバイスとしても機能する。
電力のみでの走行もまた、選択することが可能だ。今後は、それを義務付ける都市も増えてくることだろう。フルチャージでの航続距離は公称50kmだが、それが実現できるとしても渋滞でスタートとストップを繰り返しているような場合に限られるはずだ。それでも、われわれがいつもテストを行う郊外のルートで、楽に30km台の距離を稼げそうではあった。
8速ATの変速はスムースで、走行中にレバーを後方へ1回引くと、ふたつのブレーキングのモードを簡単に切り替えられる。ひとつはゆったりと空走し、もうひとつはよりシビアに、スロットルオフで軽くブレーキを踏んだような制動力を発生する。ただし、発進時からつねにクリープが効いているので、ワンペダル運転はできない。
使い勝手 ★★★★★★☆☆☆☆
インフォテインメント
メーター表示はカスタム可能。プリセットメニューはそれぞれ一長一短あるので、調整できるのはありがたい。
たとえば、ミニマムモードを選ぶと、ミニマムすぎて燃料計が表示されない。ダイアルモードを選ぶと煩雑すぎるし、ドライビングモードでは奇妙な円形メーターが表示される。
必要な情報を選んで表示したいなら、パーソナルモードで設定すればいい。トリップコンピューターがつねに投影されるのもこのモードだけだ。
ステアリングホイールのスイッチを別にすれば、インフォテインメント系の操作はタッチ式ディスプレイを介することになる。その下に並ぶ実体スイッチは、オーディオ、エアコン、ナビ、車両設定メニュー、コネクティッドアプリ、電力の使い方を呼び出すものだ。
このほか、滅多に使わないエアコンの内外気切り替えやオフのボタンが個別に設置されるが、使用頻度の高い温度調整が画面上でしかできないというのはいかがなものだろうか。
メニューそのものは慣れてしまえばなかなかよく、グラフィックも悪くない。だが、スマートフォンのミラーリングを使うユーザーがほとんどなのではないだろうか。
操舵/快適性 ★★★★★★★☆☆☆
これまで乗った508は、快適でリラックスしたドライブにピッタリのクルマだった。今回のプラグインハイブリッド版は、エンジン車比で100kgもの重量増にもかかわらず、同様の性格の持ち主だ。
本領を発揮するのは、ゆったり流しているとき。テスト車には1000ポンド(約14万円)のアダプティブダンパーが装着され、乗り心地はつねにしなやか。走行モードを切り替え、よりパフォーマンス志向にしても、運動性能が目に見えて高まったとはわからないはずだ。
このクラスのライバルと比較して、アジリティが不足しているというわけではない。ヴォグゾール・インシグニアやフォルクスワーゲン・パサートなどよりはずっとレスポンスがいい感じだ。しかし、基本となるセッティングはコンフォートモード。ドライブトレイン一番おいしいところも、それにマッチしている。
アジリティに関する部分を左右するのは、ダイレクトでクイックなステアリングだ。小径ステアリングホイールは、強めのアシストが必要で、フィードバックはまったくない。ただ、ゼロ発進時やタイトコーナーの脱出時には、わずかながらトルクステアが出る。
しかし、グリップレベルを予測し、508に多くを求めたとしても、良好なトラクションを発揮してアンダーステアに抵抗し、このクラスとしては優れたボディコントロールをみせる。
購入と維持 ★★★★★★★★☆☆
アリュール仕様の508SWは、車両本体価格が3万6545ポンド(約512万円)で、テスト車は3万9420ポンド(約552万円)相当。これには7kW充電対応化の300ポンド(約4.2万円)も含まれるが、標準装備にすべきだ、というのがわれわれの意見だ。
支払い例としては、年間約1万km走行と仮定して残価を1万3000ポンド(約182万円)に設定し、頭金7000ポンド(約98万円)で月々370ポンド(約5.2万円)を4年間というプランが用意されている。29g/kmというCO2排出量ゆえに、カンパニーカーとしての税制優遇もなかなか魅力的なものとなる。
適正な使いかたをされれば、プラグインハイブリッドの508は給油の機会を限りなく少なく抑えられる。こまめに充電ができ、日々の移動距離がEV走行を活用できる短いものに収まるならば、だ。
また、充電切れ状態で走り出し、現実的なドライビングをしても、16km/L近い燃費をマークできるはず。それ以上の低燃費を目指すなら、もっと努力が必要だ。その程度の数字なら、われわれの経験では、フォルクスワーゲン・アルテオンの1.5Lガソリンでも楽に出せる。もちろん、速さでは今回のプジョーのほうが上だが。
スペック
レイアウト
現行508のベースとなるEMP2プラットフォームは、SUVの3008や5008にも用いられていることでおなじみだ。
リアサスペンションは、エンジン単体モデルではマルチリンクだが、ハイブリッドモデルは駆動用バッテリーを搭載するべく、よりコンパクトなトーションビームを採用している。
テスト車は、8速ATを介して前輪を駆動するが、後輪を電力駆動するよりパワフルな四輪駆動モデルも準備中だ。
エンジン
駆動方式:フロント横置き前輪駆動
形式:直列4気筒1598cc、ターボ、ガソリン、交流同期モーター(111ps)
ブロック/ヘッド:アルミニウム
ボア×ストローク:φ77.0×85.8mm
圧縮比:10.5:1
バルブ配置:4バルブDOHC
駆動用バッテリー:リチウムイオン、354V、12.0kWh
システム最高出力:225ps/-rpm
最大トルク:-kg-m/-rpm
許容回転数:6500rpm
馬力荷重比:130ps/t
トルク荷重比:-kg-m/t
エンジン比出力:113ps/L
ボディ/シャシー
全長:4778mm
ホイールベース:2793mm
オーバーハング(前):948mm
オーバーハング(後):1037mm
全幅(ミラー含む):2079mm
全幅(ミラー除く):1859mm
全高:1420mm
積載容量:530-1780L
構造:スティール、モノコック
車両重量:1720kg(公称値)/-kg(実測値)
抗力係数:0.28
ホイール前・後:7.0Jx17
タイヤ前・後:215/55 R17
ミシュラン・プライマシー
スペアタイヤ:なし(パンク修理キット)
変速機
形式:8速AT
ギア比/1000rpm時車速〈km/h〉
1速:3.85/8.5
2速:2.22/15.0
3速:1.43/23.2
4速:1.04/31.9
5速:0.86/38.5
6速:0.70/47.5
7速:0.56/59.2
8速:0.47/70.7
最終減速比:3.95:1
燃料消費率
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:58.8~83.3km/L
燃料タンク容量:62L
EV航続距離:km
CO2排出量:29g/km
サスペンション
前:マクファーソンストラット/コイルスプリング、スタビライザー
後:トーションビーム/コイルスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動アシスト機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:3.0回転
最小回転直径:10.8m
ブレーキ
前:330mm通気冷却式ディスク
後:290mmディスク
制御装置:ABS、ブレーキアシスト
ハンドブレーキ:センターコンソール
結論 ★★★★★★★★☆☆
われわれは2018年に、ディーゼルの508セダンをロードテストで取り上げた。これを読み返すと、今回の508SWにも通じるような方向性が見て取れる。
ルックスは魅力的で、乗り心地は快適。大衆車だけでなく、プレミアムモデルに対峙しても堂々たるクルマだ。キャビンはまず印象的で、プジョー独自のiコクピットは少しずつ改善を重ねている。いつの日か、BMWのiドライブのようにすばらしいものになるかもしれない。可能性は低いが。
ただし、われわれのようなエンスージアスト的にとってのこのクラスのトップ5は、依然として2年前にランクインしていたジャガーXEやアルファロメオ・ジュリアのような、走りのいいモデルが顔を並べることになる。
今回のトップ5は、あくまでもプラグインハイブリッドに限った場合のランキングだ。XEやジュリアなら、一晩中コンセントを差しておく必要もない。
この508を興味をそそる代替案から、魅力的な有力候補へと引き上げる要素を挙げるなら、日常遣いではほとんど燃料を消費しないという点だ。
このドライブトレインに美点を見出すユーザーもいるだろう。だが、それを別にしても、508のほかの部分にもほめるに足るものがある。
担当テスターのアドバイス
マット・プライアー・今回のホイールは17インチだったが、以前に18インチと19インチの508にも試乗している。セカンダリーライドは、18インチのときのようにわれわれを悩ませることはなかった。
・燃料タンクは圧力がかかっているので、リリースボタンを押してもキャップが開くのに数秒かかる。外が寒いときには、車外に出る前にボタンを押すクセがつきそうだ。
オプション追加のアドバイス
アリュールの装備内容は充実している。追加すべきはメタリック塗装と7kW充電対応くらいだ。
改善してほしいポイント
・7kW単相充電器を標準装備にしてほしい。
・iコクピットは次世代型へ発展してもらいたい。現行208の3D iコクピットはじつによくできている。
・右ハンドル車の運転環境が、いまだに左ハンドル車に劣る。もっと差をなくしてもらいたい。
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