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新型トヨタ「スープラ」の最大の美点はなにか。3つのモデル(エンジン)バリエーションがあって、それぞれ、独自の個性が与えられているところではないか? と、思う。
BMWとトヨタのいいとこ取り!──新型トヨタ スープラ試乗記 Vol.1 大谷達也編
3.0リッター直列6気筒ターボエンジン搭載のグレード「RZ」が、看板車種のようになっているけれど、じつは2.0リッター直列4気筒ターボエンジン搭載モデルも見逃せない。私が買うなら、6気筒か4気筒モデルかで大いに、かなり悩みそうだ。
スープラについて、いまさらくどくど説明する必要はないと思うが、トヨタ自動車とBMWの包括提携によって誕生したスポーツカーである。当初、燃料電池車や水素自動車など次世代環境技術をめぐる技術提携が骨子と聞いていただけに、スープラおよびZ4のスポーカー企画には驚いた。
背景には、ニュルブルクリンク24時間レースを含むさまざまな耐久レースなどで勝ちたいという、トヨタのマスタードライバーでもあるトヨタ自動車社長・豊田章男氏の意向も強く働いたと言われる。
2014年、本格的にトヨタとBMWのスポーツカー開発計画はスタートし、プロトタイプを開発するかたわら、トヨタのデザイナーたち8人がミュンヘンに赴き、BMWがMINIのために持っていたデザインスタジオを借り上げ、スープラのスタイリングを完成させたそうだ。
専用のクーペボディで、とりわけグラマラスとも表現したくなる曲線を持つリアフェンダーまわりが目をひく。「こんな難しい造形、本当に作れるのか……」と、生産を担当するオーストリアのマグナシュタイア社を絶句させたというほど凝ったものだ。
基本的に開発を担当したのはBMWであるが、途中、トヨタからは「ニュートラルステアを実現するためにスタビライザー径を太く、などのお願いをした」と、ガズーレーシングカンパニーでプロジェクトマネージメントを担当する福本啓介氏は述べている。
運動性能については、トヨタなりのこだわりを反映させたという。RZとSZ-Rに設定されるモンロー社製ダンパーの減衰性や、シフトスケジュールなどは、トヨタのエンジニアが、最適と考えるスペックを盛り込んでいる。
ただし、エンジンはBMWのものだ。“伝家の宝刀”という言葉を自動車ジャーナリズムはエンジンに使うケースが多い。ゆえに、使い古された感の言葉かもいしれないが、今回のBMW製3.0リッター直列6気筒ツインターボエンジンにはあえてその言葉がふさわしいと思う。
新型3シリーズから7シリーズ、さらにSUV、そしてスープラの異母姉妹であるフルオープン・2シータ-「Z4」でも、この3リッター・エンジンが最高のパフォーマンスを発揮してくれるのは確認済みだ。トルクがたっぷりあるうえ、ウルトラスムーズに高回転域までまわり、実用的であるいっぽう、スポーツカーにぴったりのセンセーショナルな感覚を持つ。
私がもし、サーキットでも楽しみたいと思ってスープラを買うなら6気筒搭載のRZしかないだろう。しかし、日常的にスポーツドライビングを……というなら、4気筒の存在感ががぜん大きくなる。
スープラに搭載される直列4気筒エンジンは、直列6気筒とおなじくBMWが手がけた2.0リッター直列4気筒ターボエンジンだ。BMWのラインナップ同様、出力ちがいの2種類が用意される。最高出力258psのエンジンは「SZ-R」に、最高出力197psは「SZ」に搭載される。
かんたんに違いを説明するとしたら、SZ-Rはグランドツーリング的な性格が強く、パワフル感は6気筒のRZに迫り、いっぽうSZはトヨタ「86」、スバル「BRZ」、マツダ「ロードスター」などを好むひとむけのピュアなスポーツカーだ。
SZ-Rのいい点は、パワーと軽快なハンドリング感覚のバランスのよさにある。2気筒減ってノーズが軽くなったぶん、コーナリング時の軽快感がうんと上がった。操舵感は軽いけれど応答性にすぐれるステアリングホイールを操作して走ると、すばらしいスポーツカーだとほれぼれする。
SZは、もしほかの2グレードに乗れる機会もあったなら、足まわりの硬さに驚くかもしれない。モンローのダンパーをもたないSZは、路面の凹凸がもろに……というかんじで、シート座面とステアリングホイールに伝わってくる。
べつの言葉を使うとダイレクトな操縦感覚だ。このほうがクルマを意のままに操れる楽しさがあるというドライバーもいるだろうし、あまり過剰でないパワーがドライバーとの一体感をより強調してくれて好ましい、と感じるドライバーもいるだろう。
8段オートマチック変速機のパドルシフトで、マニュアル変速しながら、エンジンを高回転までまわして走るときの加速感といい、サウンドといい、心がとろけそうになる。ブレーキも十分に性能を発揮してくれて、道幅の狭いワインディングロードだろうが、SZはあらゆる場所で楽しめる。
ちなみに、トヨタ86より100mm短いホイールベースを持ち、そこにワイド・トレッドを組み合わせているのも、“リアルスポーツカーを作ろう!”という開発者のこだわりだ。ホイールベースとトレッド比は1.55で、「スポーツカーとしては理想的です」と、チーフエンジニアを務めた多田哲哉氏は語っていた。
ちなみに価格は、RZが690万円で、SZ-Rは590万円で、SZは490万円と、きれいに100万円の価格差で3つのモデルが縦に並ぶ。価格を考えてSZを選んだとしても、スポーツカーを欲しいと思っていたならけっして失望はしないだろう。
ちなみに、スープラと並行して開発されたBMW Z4も、日本仕様の「Z4 20i」(566万円~)には、SZとおなじ最高出力197psの直4ターボエンジン搭載モデルが設定されている。そちらはまもなく日本での発売が開始されるという。
4気筒ピュアスポーツとしては、スープラとほぼおなじボディサイズのポルシェ「718ケイマン」がある。2.0リッター直列4気筒ながら最高出力300psものパワーを誇るが、価格は673万円とかなり高価だ。
アウディは、全長4190mmの2プラス2ボディに、最高出力197psを発揮する2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載する「TTクーペ40TFSI」(479万円)と、ハイパワーエンジン(最高出力230ps)とクワトロ・システム(4WD)を組み合わせた「TTクーペ45TFSIクワトロ」(599万円)をラインナップする。そのうえには最高出力286psの「TTS」(799万円)も用意されている。
こうみると、4気筒のスポーツカーは個性豊かで面白い。Z4はフルオープン、ポルシェはミドシップ・レイアウト、アウディは前輪駆動か4輪駆動(クワトロ・システム)、と。それぞれ強い個性がある。では、スープラの個性は? というと、後輪駆動+2シーターという組み合わせだ。
なにはともあれ、スープラの4気筒モデルは、クルマを楽しみたいと思っているひとへの、トヨタからの贈り物のような気がする。なぜなら、高い走行性能と豊富な装備を考えると、随分頑張った価格設定だなぁと思ったからだ。
そういえばトヨタ(とレクサス)のひとは、「車種体系に上下はない」と、言う。理由を訊くと「車種のバラエティは、乗るひとのニーズに合わせたものだから……」というのが理由だ。RZ、SZ-R、SZと乗ってみて、その意図がよくわかった。
というわけで、直列4気筒モデルを購入しても、がっかりすることは皆無である! と、声を大にして伝えたいと試乗を通し、思うのであった。
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