2021年9月3日、通算11代目となるホンダの新型シビックが発売された。シビックといえば、日本でも馴染み深い車種だが、今やホンダ車のなかでCR-Vに次ぎ世界販売2位の車種だというから隔世の感がある。
いっぽうで日本ではどうか? といえば、販売台数の面ではフィットやヴェゼルといった国内の主力には及ばない状況が続いてきた。しかし、そうはいってもやはり「今度のシビックはどうなのか」はホンダファンにとって気になるところ。
さっそく新型モデルを公道で走らせてみると、かなり体育会系なその走りが見えてきた。
文/松田秀士、写真/池之平正信
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実は受注の3割がMT? 新型シビックはどう変わったのか
2021年9月3日に発売された新型シビック(全長4550×全幅1800×全高1415mm/ホイールベース2735mm)
11代目となる新型シビック。先代(10代目)は、どちらかというと奇抜なエアロを採用したポップな印象のエクステリアだったのだが、新型は彫りの深いフロントデザインながら全体的に落ち着きのある都会的洗練度を増したものとなっている。
ルーフとピラーのレーザー溶接接合部に新技術を投入してなだらかなラインを可能にし、リアゲートは樹脂製にして軽量化とデザインの自由度を増している。
伸びやかに感じられるサイドビューはデザインによるだけではなく、実際に全長は+30mmの4550mmだ。これに対してホイールベースは+35mmとより伸びていて2735mm。リアオーバーハングは詰められて-20mm。一方フロントオーバーハングは伸ばされて+15mmだ。
全幅は1800mmとこれまでと変わらないが、リアのトレッドが+10mmの1565mm(フロントは1535mm)となっている。これにはリアフェンダーの端部を折り曲げるヘミング処理が採用され、フェンダーギリギリまでワイド化されている。全高は-20mmの1415mm。このためリアビューはロー&ワイドな落ち着きのある眺めとなった。
シートリフターとステアリングの位置調整が充分にあるので運転手の好みのドライブポジションをとることができる。ドアミラーの位置が、ドアマウントに変更なったことで、さらに視界が良好になった
そのコクピットに納まると低いシートポジション。まるでスポーツカーに乗っているイメージだ。個人的に低いポジションが好きなのでシートベルトを締めた瞬間、一気に気分は盛り上がる。
ただし、シートリフターは電動でもマニュアル手動でも充分なアジャスト量があるので、高めを好むドライバーでも問題ない。
もうひとつ、ステアリングのチルトの上下動域とテレスコの調整長も充分にあるので、小柄な筆者にとってはベストなドライビングポジションをとることができる。新型シビックのドラポジは、筆者がこれまでに試乗したモデルのなかでは最高のものだ。
ドラポジが決まると視界が気になる。低いドラポジが好みでも水平視界は充分にほしいもの。これに対してはAピラーを後退させていて水平視界が非常に良い。
また、ドアミラーがAピラー(付近)マウントからドアマウントに変更されている。これによってミラーとAピラーとの間に隙間ができ、なおかつ若干低くマウントされているのでサイド方向の視界も良好だ。Aピラーの形状もドライバーからは細く見え、視界の邪魔を最小限に抑えている。
先代モデルよりもホイールベースが35mm伸びたことで、後席の足元スペースに余裕が出来た。ゆったりと快適な空間を実現した。ラゲッジスペースは452L(EX仕様446L)である
後席はホイールベース+35mmの恩恵を受けて、見るからに足元スペースに余裕があり、とても快適な空間を実現している。リヤラゲッジスペースは452L(EX仕様446L)でほぼ先代と同じ。
エンジンは最高出力182ps/最大トルク240Nmを発生する1.5L直列4気筒ターボのワンスペック。これにCVTと6速MTの2仕様が用意される。今どきMTを? と思われるかもしれないが、受注状況ではMTモデルが3割を超えているとのこと。
筆者自身1980年代のスーパーシビックレースで4輪レースの世界に足を踏み入れたが、シビックファンにはMT好きが多いのだ。ちなみに購買ターゲット層はジェネレーションZと呼ばれる1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代とのこと。
その世代が本当にMT 3割であれば、クルマ離れといわれる昨今、まだまだ捨てたものではない。
「惜しい」のは乗り心地だけ? ホンダ党好みの走りは超硬派
1.5Lターボエンジンは停止状態からスムーズに加速する。走行時の静粛性と振動がとても低く抑えられているので、室内の快適性が高かった
試乗会場は清里方面。ワインディングも多く、なにより降雪地帯なので路面が良くない。つまり、乗り心地やサスペンションの動きを観察するには絶好のシチュエーションだ。
走り出してまず感じたのは静粛性の良さだ。遮音にはかなり手を入れている。例えばトーボードを含めたキャビン全体の振動感がない。本当にカッチリした、まるで堅剛なカーボンファイバーのボディに乗っているかのようだ。サスペンションは後で触れるが、決してソフトではない。しかし、清里の悪い路面から伝わることが予想される二次振動がまるでない。
それゆえ室内は本当に快適。これにはホイールへのリゾネーターの追加や、前後アンダーパネルの振動伝達特性を改良し、ピラー内への発泡剤注入を含めた数々の遮音対策のたまものだ。
もう一つ、今回エンジンのNV(=音振)特性を見直し、高剛性クランクシャフトと高剛性オイルパンを採用している。これによってエンジンの振動感がとても低く抑えられているのだ。
では気になる走りはどうか。1.5Lターボは停止状態からスムーズに加速する。3人乗車(筆者・編集・カメラマン)だったのだが、市街地レベルの実用速度域も山の登坂路でも、全く過不足を感じさせず自由に気持ち良く移動できる。3人乗ると若干足の硬さを感じるが、シートのクッション性とも相まって嫌味ではない。
逆にホンダファンはこれぐらいの硬さがないとつまらないと言うだろう。このことはスバルファンにもいえることだ。しっかりしたサスペンションはコーナリングで素晴らしいポテンシャルを発揮した。
前述したようにボディが堅剛なので、ステアリングを切り始めた瞬間からフロントの応答は速い。しかし、速いが唐突感は皆無。とても自然なハンドリングで曲がり始める。EPS(電動パワーステアリング)のプログラミングを煮詰めたそうで、これも大きい。
初期応答からステアリングを切り足していく。さらにアクセルを踏み込む。もうフロントタイヤが音を上げるだろうとの予想をはるかに裏切ってどこまでも曲がってゆく。正直これには驚いた。サーキットのような鏡面路面ではなく多少の凸凹路面だ。
そしてリアのグリップが安定している。かといって前後バランスでフロントを押し出すわけでもない。ホイールベース延長、リアトレッドワイド化。このあたりも効果を出しているのではないだろうか。走り込むうちにどんどん楽しくなってきた。
また、3人乗りよりも1人乗りの方が乗り心地も良くなったように感じる。ただし、走りの気持ち良さが速度に関係なく感じられ、乗り心地も同時にこれで良いと、硬さを感じなくなるから不思議だ。
ただし、乗り心地も上を見ればきりのないところだが、例えばタイプRに採用されるような電子制御による可変減衰ダンパーを採用すれば、さらに良くなることだろう。
コストアップが気になるところだが、ここまでボディ剛性が堅剛なのだからマクロなサスペンションコントロールによってハンドリングもより進化するはず。ボディが良いだけにもったいないと感じたところだ。
注目の6MTとCVTで新型シビックはどう変わる?
CVTにはECO・NORMAL・SPORTの3種類の走行モードがあり、エンジンの特性をしっかり引き出しているという。6速MTではMTならではのスポーツ感あふれる走行が出来る
さてCVTと6速MT。個人的にCVTはこのエンジンの特性をしっかり引き出していると感じた。
CVTにはECO・NORMAL・SPORTの3種類の走行モードがあるのだが、SPORTモードでは全開加速時のステップアップシフト制御やブレーキ時のステップダウンシフト制御、さらにパドルシフトなど、しっかりとエンジンの有効回転域を使うことができる。またアクセルON/OFFでのダイレクト感もパドルを使っていればかなり高い。
では6速MTはというと、やはりギア固定でコーナリングするダイレクト感はMTならではのスポーツ感。約30kg軽量であることもハンドリングの素直さを感じられる。固定ギアでトップエンドまで引っ張るときのエクゾーストノートの気持ち良さは格別だ。
ひとつ気になったのは、シフトレバーが若干左寄り。輸出がメインだろうから仕方ない。またクラッチペダルが軽すぎる。慣れの問題ではあるが、今回シフトストロークもショート化され小気味よく決まる。シフトとクラッチは密接な関係にある。リズムとタイミングを合わせるにはもう少しだけクラッチを重くしたい。
最後に安全面ではACC(先行車追従型クルーズコントロール)が、渋滞対応0km/hから使用でき、車線内維持支援のLKAS(車線維持支援システム)も65km/h~だったものが0km/hになった。
これにはフロントカメラの視野角が100°とワイドになったことも大きい。踏み間違い衝突軽減システムも新たに追加されるなど、安全面の進化注入も見逃してはならない。
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