もくじ
どんなクルマ?
ー ゼンヴォTS1 GT 数値はもはや航空機
マットレスの帝王 160台のコレクション きっかけ、こだわりとは
どんな感じ?
ー 独創的だが、クオリティは追いつかず
ー ほかのハイパーカーとは異なる部分も
ー 現状は半分の出力 ただし「怪物」
「買い」か?
ー 「超わがままな顧客を説得するのは難しい」
スペック
ー ゼンヴォTS1 GTのスペック
どんなクルマ?
ゼンヴォTS1 GT 数値はもはや航空機
ゼンヴォTS1 GTを特徴づけるびっくりするほど大きな数字、それは1200psに達しようという最高出力、自動車というより航空機というべき375km/hの最高速度、そして最後に価格だ。
新しいハイパーカーに£120万(1億7900万円)という価格をつけたゼンヴォは、最速車の世界に身をおいている。
ただし、この世界では単に「すごくいい」というだけではダメで、実際のところTS1 GTはまだまだだ。
ご存知のように、ゼンヴォST1は十年近く前から雑誌の表紙を飾りはじめた。このデンマークの会社は、しばらくクルマの生産もせず模様眺めの風だったが、2年前にロシアの富豪に買収され、ようやくクルマを市場に出すための支援を得ることができた。
TS1 GTというバッジがついたゼンヴォのハイパーカーは、ブガッティ・シロンやパガーニ・ウアイラなどを相手にする準備ができたというわけだ。
本当に?
太陽のフレアのように輝くライム・グリーンのクルマは、生産モデルではなくまだプロトタイプである。英国でしばらくの間、後期のテスト(ほとんどは低速走行)を行うのだ。大いに宣伝して関心を集め、頭金をかき集めるためでもある。
したがって、しばらくの間は多少の欠点には目をつむらなければならない。まず、われわれが検証するのは、そのポテンシャルである。
どんな感じ?
独創的だが、クオリティは追いつかず
見た目はアーケード・ゲームからそのまま抜け出してきたような感じだ。それとも、ロッキード・マーチンが初めて高性能車を作ったらこんな感じか。
とにかく、巨大なインテークと不可能なほど低いグラスハウスが外観の特徴。しかし、均整がとれているのは事実。凝縮感もある。最も印象的なのは、ほかのどのメーカーのクルマにも似ていないこと。まったく独創的なのだ。
平べったい六角形が外観のデザイン・テーマになっており、キャビンも奇妙奇天烈な六面体だ。ナビゲーション画面の縁取りからシートのステッチまで六角形であふれている。ウイルスが増殖したみたいだ。
実際にはなかなか魅力的だが、ステアリングホイールまで六角形にするべきではなかった。一方、アルミ削り出しのスイッチ類やスピーカー・グリルはまともな感じの専用品だが、キャビンのクオリティはとても£120万(1億7900万円)という価格にふさわしいとはいえない。
1180ps、112kg-m、スーパーチャージャー2基。5.8ℓのV8はゼンヴォ自身の設計。スーパーチャージャーを使ったのは、排気駆動のターボチャージャーより冷却が容易だからだ。ちなみにこれを2基使うことは前例がない。
ブースト圧は生産モデルでは引き上げられるが、しばらくの間、エンジニアはドライバビリティと低速でのマナーを優先しているので、このエンジンは760psにデチューンされている。それでもあり得ない数字だけれど。
ほかのハイパーカーとは異なる部分も
変速機には多数のオプションがある。信じがたいことに6速マニュアルもある。通常のシンクロメッシュ付きパドルシフト・ギアボックスのほか、ダイレクトな高速シフトをお望みなら、ドッグ・リング(ノンシンクロ)のパドルシフト・トランスミッションも選択できる。試乗車にはこれがついていたが、まだまだ未完成という印象だ。
TS1 GTはトルセンのLSDを通して後輪を駆動する。試乗車にはブレンボのカーボン・セラミック・ブレーキが奢ってあり、タイヤは前19インチ、後ろ20インチのミシュラン・パイロット・スーパー・スポーツを履いていた。
ローンチ・コントロールを使うと、0-100km/hは2.8秒で駆け抜ける。サスペンションは前後ともダブル・ウィッシュボーンでKWのパッシブ・ダンパーが使われている。
ほかの正真正銘のハイパーカーたちとは違って、ゼンヴォはカーボンファイバーではなく一般的な鉄/アルミ製のモノコックを使っている。そのため、ボディワークはフルカーボンであるが、重量は肥満気味で1710kgもある。
肥満の話をすると、遊び道具に£120万(1億7900万円)も出すような人種は栄養不良でないことをゼンヴォはよく知っている。そのため、ドアの開きはとても大きく、キャビンも広大で、乗り降りには苦労しない。ただし、試乗車のシート・セッティングは少し高すぎて、スツールの上に座っているような感じ。
ちなみに、フロントのボンネット下には135ℓの荷物入れもある。
現状は半分の出力 ただし「怪物」
ゼンヴォの宣伝用パンフではこのクルマをハイパーGTと呼んでいる。想像するに、長距離をラグジュアリーで快適に走れるクルマとして開発されたのだろう。
バッキンガムシャーのスーパー・べロス・レーシング(最初のゼンヴォ・ディーラー)近くの、でこぼこしたB級道路では、乗り心地は硬く落ち着きがないが、法外に硬いわけでもない。
つねに落ち着きがない乗り心地を別にすると、シャシーはおおむねフラットでバランスもいい。ボディ・コントロールもしっかりしており、路面のいなし方も上手だ。
油圧式のステアリングもすごく良い。センター付近ではちょっとあいまいで生気がないが、そこを過ぎればとてもダイレクトで手応えもレスポンスも自然である。
がっちりしたフロントのグリップは頼りがいがあり、もっと小さいスポーツカーのようだ。コーナリングのバランスも優れており、大パワー、大トルクにもかかわらずトラクションもしっかりしている。
400psほどデチューンされてはいるものの、エンジンは全くの怪物だ。ターボチャージャーではないためスロットル・レスポンスは鋭く、豊かな重低音を奏でる。
一方、素直でリニアな出力特性はまったく病みつきになりそうだし、アクセルを踏み込めば電気モーターさながら、狂気をはらんで7700rpmのレッドゾーンまで一気に駆け上がる。さらにパワーが1.5倍になったら一体どうなるのか、神のみぞ知る。恐ろしいことだろう。
ギアボックスは当分の間、辛抱しなければならない。高回転領域でのシフトはクイックで小気味いいが、その他の領域ではギクシャクしている。ハーフ・スロットルでシフトアップした時のイグニッション・カットは唐突なので、右パドルを引くとブレーキ・ペダルを蹴っ飛ばしたようになる。
「買い」か?
「超わがままな顧客を説得するのは難しい」
ストロークの長いスポンジーなブレーキ・ペダルなど、他にもいろいろ問題はあるが、このクルマの最大の問題はその価格だろう。スーパー・べロス・レーシングでは、年間2台から5台の売り上げを期待しているが、現実的な数字だと思う。
そして、開発の最終段階ではゼンヴォももちろん大幅な改善を行うであろうが、それでもわたしには、TS1 GTがパガーニのように超高品質かつ職人芸の手触りを持った宝石のようなクルマになるとはどうしても思えない。超わがままな顧客を説得するのはさらに難しいだろう。
ゼンヴォTS1 GTのスペック
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