数々の名映画で知られるクエンティン・タランティーノが手掛けたアクション映画『デス・プルーフ』は、主人公がシボレー車に乗ったスタントマンという風変わりな映画だ。
しかし、この作品には過去の様々なカーアクション映画へのオマージュが込められているという。
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今回は、そんな個性的な作品をご紹介しよう!
文/渡辺麻紀、写真/NBCユニバーサル・エンターテイメント
【画像ギャラリー】タランティーノの細かなこだわり&仕掛けにニヤリ『デス・プルーフ in グラインドハウス』を観る
■カルト映画マニアのタランティーノが手掛けたB級、C級映画へのオマージュ
タランティーノ映画の特徴である『映画の本筋とは関係ない、登場人物たちの無駄話』は今作でも健在 (C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.
クエンティン・タランティーノと言えば最強の映画監督&脚本家であり究極の映画おたく。長編デビュー作『レザボア・ドッグス』(92)のときから、常に自作には彼だからこそのあらゆる映画の記憶が詰め込まれていた。
その“映画の記憶”には、いわゆる名作や傑作ではないB級、C級映画が多いのもタランティーノならでは。その偏愛が彼の作品をスペシャルにしていると言ってもいい。
そんなタランティーノが、カーチェイス映画×スラッシャー映画に挑戦したのが今回ご紹介する『デス・プルーフin グラインドハウス』(07)。
『デス・プルーフ』は、タランティーノの盟友でもあるロバート・ロドリゲスによる『プラネット・テラー』との2本立て&存在しない映画の予告編5本とまとめて『グラインドハウス』というタイトルでまず公開され、その後、1本ずつ公開された。
1本ずつになったときのタイトルが『デス・プルーフ in グラインドハウス』というわけだ。「グラインドハウス」とは低予算なキワモノ映画ばかりを2,3本立てで上映していたアメリカの映画館のことである。
■タランティーノが作るスラッシャー映画は超A級のC級ムービー
スタントマン・マイクを演じるのはスネーク・プリスキンでもお馴染みカート・ラッセル。最近ではワイルド・スピードシリーズにも出演するなど活躍している (C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.
本作は2部構成になっている。まず前半はセクシーな女子たちが久々に再会しドライブしながら恋バナに花を咲かせ、いつものバーでまた違う子たちと合流。
そんな彼女たちを、ボンネットに髑髏のマークをペイントした70年製シボレー・ノヴァSSを駆る謎の男、スタントマン・マイク(カート・ラッセル)が付け回す、というもの。
スラッシャー映画とは、残忍な殺人鬼が登場して次々と人間を殺して行く、『13日の金曜日』のようなホラー映画のことで、本作ではセクシー女子たちが殺されるほう、スタントマン・マイクが殺人鬼。彼の殺人アイテムがナイフやチェーンソーではなく、車というのが本作の大きな魅力になっている。
タイトルの「デス・プルーフ」は「耐死仕様」という意味で、マイクのシボレーはどんなスタントにも耐えられる車に改造されていて、それを使って女子たちを血祭りにあげようとするのだ。
前半は雨の夜を舞台にしているせいもあってスラッシャー映画要素が勝っているのだが、後半は一転、ピーカンの昼間でカーアクション映画のほうに思いっきり振れている。
こちらも同じように車中のガールズトークで始まり、その女子たちの車を、前回のシボレー・ノヴァから69年型ダッチ・チャージャーに乗り換えたスタントマン・マイクが追いかける。が、その女子のなかにクセモノが混じっていたため、そう簡単に欲望は果たせず、凄まじいカーアクションに突入するのだ。
■本物のスタントマンをスタントマン役で起用
殺人鬼スタントマン・マイクに狙われる女子4人組。この4人組が一筋縄ではいかないのだ (C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.
と言うのも、今回の4人の女子のうちふたりが映画のスタントマンと言う設定で、そのひとりゾーイは休暇を利用して米国を訪れ、夢の車を運転したいという。その車が440エンジンを搭載した白い70年型ダッチ・チャレンジャー。
この車、カーアクション&ニューシネマ&ロードムービーの傑作と言われている『バニシング・ポイント』(71)の主人公コワルスキーが乗っていたもので、この作品を愛するふたりのスタントマン女子は、それと同仕様の車をもつ男に頼み込み試運転をさせてもらう。
そのときにゾーイがトライするのがシップマストと呼ばれるスタント。
走る車の左右のドアフレーム(実際のダッチ・チャレンジャーにはドアフレームがないので、撮影用にわざわざ取り付けている)に結んだベルトにつかまってボンネットに腹ばいになるのだが、そのときを目掛け、マイクが車を猛スピードでぶつけてくる!
前半のエピソードではマイクが車をぶつけてきただけで女子たちは悲惨な結果を迎えたが、今回は最強の女子たちである。どんだけマイクがぶつけてきても、すぐに立ち直り立場は徐々に逆転して行く。
ここでもうひとつ要チェックなのが、スタントマンのゾーイ。実は彼女、本名もゾーイ・ベルで、本当のスタントマン。ニュージーランドからハリウッドに進出し、タランティーノの『キル・ビル』シリーズ(03、04)でヒロインのユマ・サーマンのスタントダブルを担当。
その才能に感動したタランティーノが、まさに彼女のために書き上げたキャラクターだったのだ。だから、マイクが時速100マイル(160キロ)の速度でガンガンぶつけてくる衝撃により、車のボンネットの上で彼女が転がりまくる、ハラハラ度マックスのスタントもすべて本人がやっている。
■古き良き映画を愛するタランティーノはデジタル一切ナシ!!
カーアクションにデジタル処理は一切ナシ!! 昔のB級映画をオマージュしてフィルムの傷までを意図的に再現している本作にデジタルは似合わない (C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.
車ファンの見どころはここから。デジタルなんて存在していなかった、かつての時代の映画を偏愛するタランティーノなので、カーアクション映画もそのスピリットで作っている。つまりデジタル処理は一切ナシ!
本人の言葉で説明してもらうと「デジタルは一切ナシだ。車の速度を遅くして、あとから速く見せかける、なんてことも一切していない。100マイルで疾走する車を撮るためには、110マイル(177キロ)で走らなければいけないんだ。もちろん、オレはその車に乗ってカメラを回していたんだから!」
というのも本作でタランティーノはカメラマンも兼任しているからだ。ちなみに、女子が集まるバーのオーナーとして出演もしているので、脚本・製作・監督・撮影・出演という大活躍っぷり。彼の入魂っぷりが伝わって来る。
そしてまた、おたくなタランティーノなので、さまざまなかたちでカーアクション映画にオマージュを捧げている。たとえばスタントマン・マイクの最初の車シボレー・ノヴァのナンバープレートは『ブリット』(68)でスティーブ・マックィーンが乗っていたマスタングと同じ「JJZ109」。
後半で乗る69年型ダッチ・チャージャーはダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(74)でピーター・フォンダが乗っていたものと同車種で、ナンバープレートも同じ「938DAN」。
ホイールは、やはり同じ車を使用していたTVシリーズ『爆発!デューク』(79~85)にちなんで同じアメリカンレーシングのものと凝りまくり。
また、その2台のマイクの車についているラバーダックのボンネットマスコットは、サム・ペキンパーの『コンボイ』(78)で、主人公が乗っていた車と同じもの。タランティーノ曰く「『コンボイ』で実際に作った人と連絡が取れたので、オリジナルの型から作ってもらった」。
これらのカームービーに留まらず、映画ネタはてんこ盛り状態。それをチェックするために何度も楽しめるのがタランティーノ映画でもあるのだ。
最後に、タランティーノが公開時に教えてくれた、カー・ムービーのベストをご紹介したい。
「もちろん『バニシング・ポイント』だ。あとは、やっぱり『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』と最初の『マッドマックス』(79)。
もちろん『フレンチ・コネクション』(71)のチェイスシーンは最高だし、『ジャグラー/ニューヨーク25時』(80)のジェームズ・ブローリンとクリフ・ゴーマンのチェイスも凄いよ!」
ちなみに『ジャグラー』は全編チェイス映画。人と車でごった返すニューヨークを舞台に、車や電車、足を使ってお父さん(ブローリン)が娘を誘拐した犯人(ゴーマン)をひたすら追いかけるというだけの、かなりカルトな作品。
これをカームービーとして入れるあたり、やっぱりタランティーノである。
●解説●
自らをスタントマン・マイクと名乗る謎の男。彼はテキサスの人気DJジャングル・ジュリアと女友だちに目を付け、そのあとをつける。彼女たちは行きつけのバーでアルコール&ドラッグを思う存分、楽しむが……。
ヘンタイ野郎のスタントマン・マイクをカート・ラッセルが演じている理由は「オレ、カートの大ファンなんだよ。とりわけジョン・カーペンター作品のときの彼は最高だ。『ニューヨーク1997』(81)、『遊星からの物体X』(82)、『ゴースト・ハンターズ』(86)……全部大好きだ。
実は今回、バーのうしろのほうに、『~ハンターズ』で彼が着ていたタンクトップも飾られているんだ。チェックしてくれよな!」とタランティーノ。
また、音楽にも常に凝りまくるタランティーノが最後のクレジットに流す曲として選んだのは、フランス・ギャルが歌ってヒットした64年のフレンチポップス『娘たちにかまわないで』。
耳に残るメロディとフランス語の響きは軽く意表を突く選択だが、歌詞は本作の内容に見事にシンクロ。つまり、最後の最後までちゃんと楽しめてしまうタランティーノ作品だった。
* * *
『デス・プルーフ』
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