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「競技ベース車でなく、競技車両そのもの!」 WRCグループB、熱き時代の残像。【ManiaxCars】

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「競技ベース車でなく、競技車両そのもの!」 WRCグループB、熱き時代の残像。【ManiaxCars】

右足とエンジンがシンクロ、蹴り出されるような加速感を見せるFJ24!

日産が放った限定200台のグループBホモロゲモデル「240RS」

「競技ベース車でなく、競技車両そのもの!」 WRCグループB、熱き時代の残像。【ManiaxCars】

モータースポーツ各カテゴリーのレギュレーションに合わせて生産された競技“ベース”車両は数多く存在する。国産車で言えば、スカイラインGTS-RやスープラターボA、ランサーエボリューション、インプレッサWRX STI、さらにストーリア/ブーンX4などもそれに該当する。いずれもナンバー取得が可能な、いわゆる市販モデルが存在するが、その点において240RSは極めて異質な存在だった。

なぜなら、日産は当初から日本国内での販売を想定しておらず(実際には数台のみ競技ユーザーの手元に渡ったが)、当時の日本の排ガス規制とは無縁の設計がなされていたから。

つまり、国内でのナンバー取得が不可能だった240RSは、ホモロゲーションをクリアするための競技“ベース”車両ではなく、純然たる“競技車両”として誕生した生い立ちを持っているのだ。

そもそも240RSは、グループB規定に合わせて1983年に登場。サファリラリー制覇を目標に開発されたマシンは1986年までWRCを戦ったが、並み居る海外ワークス勢がターボ4WDマシンでパワー競争へと突入していく中で、ついに勝利を挙げることなく表舞台を去っていった。

240RSのベースは、そのスクエアなスタイリングから察しがつくようにS110シルビア2ドアの後期モデル。エクステリアを最も特徴づける角型オーバーフェンダーを始め、ボンネットやトランク、前後バンパーはFRP製に交換され、フロント以外のウインドウをポリカーボネイト製に置き換えるなど徹底した軽量化を施し、カタログ値970kgという車重を実現している。

尚、角型オーバーフェンダーはベースのS110に対して片側10cmのワイド化を実現し、レギュレーションで定められた最大リム幅11Jまでのホイールが装着できるように設計されている。ホイール&タイヤは当時、14インチのエンケイ製3ピースAP-5(6J)+ダンロップSP310(215/60R14)が標準だったが、16インチのPPF1(8JJ)+前ポテンザRE11S(205/50R16)、後ポテンザRE55S(225/45R16)に交換。また、フロントブレーキにECR33純正キャリパー&ローターを移植して制動性能も高めている。

エンジンは240RSのために専用設計されたFJ24。ボア径φ88.0×ストローク量92.0mmから2340ccの排気量を稼ぎ、最高出力240ps、最大トルク24.0kgmというスペックを誇る。ちなみにFJ24は、エンジン型式からはFJ20の排気量拡大版と理解されがちだが、それは間違い。両エンジンの共用パーツはほぼ皆無で、FJ24はあくまでもWRCグループBでの使用を前提につくられているのだ。

燃料供給は、すでに国産各メーカーが実用化していた電子制御式ではなく、2基のミクニソレックス50PHHが担当。エアクリーナーボックスも標準で備わり、ワンタッチで脱着できるなど、実戦でのメンテナンス性を考慮した作りとなっている。電子制御式は、まだ今ほど緻密な燃料コントロールができず、当時WRCという過酷な舞台で使うには耐久性や信頼性に大きな課題が残っていたはず。さらに、それまでの実績や状況に合わせたセッティングの容易さなどからキャブレターが採用されたと想像できる。

また、EXマニは4-2-1集合の等長タイプを装着。ただでさえFJ系エンジンは振動が大きく、しかもWRCという過酷な状況下での使用を想定しているため、フランジと各パイプ、集合部には、クラックや割れの防止を目的に補強プレートが装着されている。

ちなみに、左フロントタイヤハウスの前方に取り付けられたのはブレーキマスターシリンダー。前後用が別個に設けられ、カスタマー仕様はオプションで、エボリューションモデルは標準で、前後ブレーキバランサーを装備した。

もちろん、エンジンに合わせて駆動系も強化。クラッチはボーグ&ベック製ツインプレート、ミッションは左下が1速となるレーシングパターンとされたクロスレシオの5速直結MT、F5C71Bが搭載された。

グループBのホモロゲーションを取得するために必要だった生産台数200台の内訳は、左ハンドル仕様が150台、右ハンドル仕様が50台。そのうち約30台が日産ワークスカーとして使われ、残りが海外カスタマーに販売された。また、後に15台ほどが逆輸入され、現在10台前後が実動状態にあるという。

取材車両はオーナーのH氏が93年に購入し、01/02/03/06年には自らがステアリングを握って、タスマニア島で行われる公道レース“タルガタスマニアラリー”に出場。06年はクラス優勝も飾っているという1台。貴重なクルマだが、単に所有して満足するのではなく、持てるポテンシャルを解き放つべく、国内外のイベントで思い切り走らせているのが素晴らしい。

実は12年前、この240RSを筑波山で取材したことがある。タルガタスマニアに出場する前だったため、ボディがまだ白一色だった頃のことだ。

その時、H氏の厚意によって試乗…それも、レブリミットまでキッチリ使った全開走行を思う存分、楽しませてもらった。

ちなみに今回は、駆動系がタルガタスマニアを走ったままの仕様…クラッチは標準のボーグ&ベック製ツインプレートからOS技研製強化シングルプレートに交換、ミッションはトップスピードを稼ぐため、5速オーバードライブのHCR32純正5速MT(FS5W71C)に換装されていたため、ギヤ比が適度に離れていて街乗りでは快適に走れたが、それは240RS本来の走りではない。

そこで、机の奥深くに眠っていた12年前の取材ノートを発掘。詳細なメモを元に、素の240RSの試乗インプレッションをお届けしたい。

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バケットシートに腰を降ろして、イグニッションキーをひねる前にアクセルペダルを2~3度あおる。キャブ車ならではの“儀式”さえ済ませておけば、FJ24はあっけないほど簡単に目を覚ます。ステンレス製のワンオフストレートマフラーから吐き出されるエキゾーストノートは、1300rpmという高いアイドリング回転もあって盛大だ。

ダッシュパネルはアルミ製で、フロントウインドウへの映り込みを抑えるためマットブラックで塗装され、助手席側グローブボックス部にはラリーコンピュータを装備。取材車両には、当時サファリラリー参戦を見据えて開発された試作エアコンが装備されていたが、軽量化のため取り外されていた。ミッションは左下が1速となる直結5速MT、F5C71B(ギヤ比は1速から順に2.818/1.973/1.470/1.192/1.000)が標準だが、タルガタスマニアのコースに合わせて、中身だけをR32用5速MT、FS5W71C(同3.321/1.902/1.308/1.000/0.759)に交換してギヤ比を最適化。尚、ファイナル比は標準4.625のままで変更なし。

メーター周りは至ってシンプル。左から1万rpm&200km/hフルスケールのタコ&スピードメーター、油圧/燃料/水温/電圧計が整然と並ぶ。タコメーターはレブリミットの7500rpmにスパイ針がセットされ、油圧計は2.5キロ以下になるとワーニングランプが点灯する。ちなみに、エンジンスターターボタンはセル始動の不具合対策として後から追加したものだ。

運転席、助手席ともに日産純正バケットシートを装着。シートベルトはFIA規定を満たす3インチ幅のタカタMPH-430だ。ロールケージも日産純正で6点式+サイドバーの8点式となる。

フロア後方に設けられたガゼットプレート。徹底した軽量化と同時にボディ補強も抜かりなく行われ、登場から30年が過ぎようとしている今でも、十分な剛性を感じさせてくれる。

設計が古いツインプレートクラッチは、それなりのペダル踏力を要求。左足にグッと力を込めてシフトレバーを左下に倒し、1速を選ぶ。ゼロ発進時のクラッチ操作には気を使うが、アイドリング回転のままでも注意深くミートさせれば、スルリと動き出す。思いのほか厚い低速トルクと1トンに満たない車重の軽さを、まず感じる瞬間だ。

キャブセッティングが完調のFJ24は思いのほか繊細で、右足のつま先に込める微妙な力加減にも敏感に反応するほどレスポンスが良く、アイドリングから7500rpmまでおそろしくスムーズに吹け上がる。FJ20では苦しくなる5500rpm以上でのパワー感もケタ違い。FJというエンジン型式から勝手にトルク型と思っていた特性が、実は高回転高出力型だったということを、そこで初めて思い知る。

6500rpmあたりからシフトレバーに伝わる振動が大きくなって共振音も出始めるが、お構いなしにタコメーターのスパイ針が示す7500rpmまで回してシフトアップ。2速へは5500rpmで、3速へは6000rpmでバトンタッチする。

見事にクロースしたギヤ比に加え、仮に8000rpmまで回しても5速での最高速が200km/hという全体的にローギヤードなギヤレシオは、筑波山のようなワインディングを走るには打ってつけ。途切れのない豪快な加速がくり出される。2~3速のシフトチェンジが縦方向の操作のみで完了するレーシングパターンも、ハイペースで走るにはすこぶる具合がいい。

軽量かつ十分な剛性が与えられたボディと、225幅タイヤのグリップ力(以前のポテンザRE711ではタイヤが勝ちすぎていたため、取材時はポテンザDAGGを装着)に負けないよう、固めて固めて横G剛性を出す足回りによって、コーナリングは軽快そのもの。

ただし、ボール&ナット式ステアリングは操作初期のレスポンスが鈍く「実際、カウンターステアが遅れてスピンしたことが何度かある」とH氏。しかもパワステレスのため、強めのキックバックを感じながら常にステアリングを抑え込んでおく必要がある。基本的に、力ワザでねじ伏せなければならないわけだ。また、アクセルオフ時にテールが若干巻き込むが、派手にブレイクすることはなく挙動はマイルド。その特性さえつかんでしまえば、積極的に向きを変えるキッカケとして使える。

オーバーフェンダーによって全幅は1.8mに達するが、運転席からの眺めは完全に5ナンバー感覚。スクエアなボディデザインは、四隅の見切りの良さに大きく貢献している。パワフルなエンジンやクロスレシオミッション、軽量な車重がもたらしてくれる高い動力性能や運動性能を引き出せるのは、実はドライバーが着込む感覚で操れる、このボディがあるからこそ、なのだ。

グループBマシンだけに「転がすだけでも手強いのでは?」と思っていたが、試乗を終えて強く印象に残ったのは、あっけないほど乗りやすく、ドライバーの操作に忠実なクルマだったということ。WRCという舞台で世界の強豪たちと戦うには、ドライバーに必要以上の労力やストレスを与えないことも、クルマに求められたひとつの重要な性能だったのだと思う。

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今回、撮影を終えて12年ぶりに240RSのステアリングを握らせてもらった。筑波山で取材した時のようにレブリミットまで回すことはなかったが、タルガタスマニアを走ったままの仕様は、12年前よりも軽快にエンジンが吹け上がり、ターマックのみに的を絞った足回りセッティングとSタイヤ装着によって、ハンドリングもより機敏さを増しているように感じた。

登場から30年が過ぎようとしている今、“超”が付くほどのグッドコンディションを保っているだけでなく、競技でも好成績を収めているという事実に、240RSに対するオーナーH氏の計り知れない愛情を感じずにはいられなかった。

■SPECIFICATIONS

車両型式:BS110

全長×全幅×全高:4330×1800×1310mm

ホイールベース:2400mm

トレッド(F/R):1410/1395mm

車両重量:970kg

エンジン型式:FJ24

エンジン形式:直列4気筒4バルブDOHC

ボア×ストローク:φ92.0×88.0mm

排気量:2340cc

圧縮比:11.0:1

最高出力:240ps/7200rpm

最大トルク:24.0kgm/6000rpm

トランスミッション:5速MT

サスペンション形式:Fストラット/R 4リンクリジッド

ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rディスク

タイヤサイズ:FR215/60R14

PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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