2022年1月3日から8日まで、アメリカのラスベガスにて、CES2022(コンシーマー・エレクトリック・ショー)が開催された。メルセデス・ベンツは、「メルセデス・ベンツ ヴィジョンEQXX」というEVコンセプトカーを発表した。一回の充電でベルリンからパリまでおよそ1000kmの航続距離を目標にしている。
EVコンセプト発表の約1カ月前に、ベンツ親会社ダイムラーは、2022年から2026年までのビジネス・プラン、ベンツEV将来戦略をサポートすることを決定した。EV化、販売のデジタル化など多岐にわたる電子事業に、600億ユーロ(約7兆7千億円)の投資を行なうことを発表した。
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そこで、本稿では、巨額投資によるベンツのビジネス・プラン、EV戦略、そして2030年全車種EV化宣言の行方を考察する。さらに、ドイツ国内EV事情についてもお届け。
文/木村好宏、写真/Mercedes-Benz
[gallink]
ベンツに巨額の投資!! ベンツEVビジネス戦略の中身とは?
CES2022でメルセデス・ベンツが発表したEVコンセプトカー「ヴィジョン EQXX」
2021年12月2日、メルセデス・ベンツ親会社ダイムラーの経営陣は、会議で2022年から2026年までのビジネス・プランを討議、メルセデス・ベンツのフルEV将来戦略をサポートすることを決定した。
そのためにトラック部門を切り離し、乗用車とバンをハイバリューのあるラクシャリー・ブランドとして確立させるため、EVパワートレーンとソフトウェアのリーダーシップをとるという内容である。そして、このエミッション・フリーとソフトウェア主導型、将来のトランスフォーメーションのために22年から26年の4年間に600億ユーロ(約7兆7千億円)の投資を行なうということを発表した。
投資目標をもう少し具体的に解析するとEV化、デジタル化、次世代自動運転への技術研究開発となっている。つまりエミッション・フリーのEV開発だけに使うのではなくて、他の目的にも使用するわけである。
ここで重要なのはデジタル化である。リリースをよく読むとEVへの移行と同時に、マージン(粗利、利益)を確保するために、一台当たりの純売上高をあげると理解することができる。すなわちデジタル・サービス(インターネット販売)を通じて直販を可能にするための投資である。
メルセデス・ベンツだけではないが、ドイツの自動車メーカーは昔から仮想敵メーカーを作って、まい進するという帰来がある。数年前はハイブリッド技術を持ったトヨタ、そして近年では直販で利益を上げているテスラだ。メルセデス・ベンツにとって、当時思ってもみなかった高級BEVの分野にまるでSクラスをよじったような「モデルS」で席巻されてしまったのだ。
しかも、テスラはこれまでの自動車メーカーが思ってもみなかったインターネットによる直販、さらにOTA(オーバー・ジ・エア)によるソフトウェア・アップグレードなどのデジタル技術で、一台当たりの利益はトヨタの3倍、モデルにもよるが額にして一台当たりおよそ80~100万円というレベルに達しているのである。
冒頭の経営会議でオーラ・ケレニウス社長が改めて「高級乗用車セグメント、そしてテクノロジーのリーダーシップをとるのが目標」と語っているのが、その裏付けである。
この投資額のなかにあるデジタル・サービスには、プレミアムなBEVへの移行と同時に、マージン(粗利、利益)の確保、一台当たりの純売上高の増加、直販モデルの増加を図るためにディーラーを廃止して代理店方式によるデジタル・サービス(インターネット販売)も含まれている。つまりこの投資は一般に理解される、EV化のためだけに使われるのではないのだ。
なぜCOP26 EV化合意書にサインしたのか
流線形のデザインが特徴的なヴィジョン EQXX。エアロダイナミクス性能を追求して、空気抵抗係数のCd値は0.17を実現
こうした戦略を発表する1カ月前、正確には2021年11月10日にメルセデス・ベンツはグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動サミット)で2035年までに全車種をEV化するという合意書にサインをした。
2021年7月、ドイツでオーラ・ケレニウス社長は「この国が2030年までにガソリンやディーゼルを禁止するのであれば、それまでに全車種をEV化することができる!」と公言しており、それゆえにこの合意書へのサインは首尾一貫した行為といえる。いっぽう、メルセデス・ベンツとは違ってドイツのブランドBMW、フォルクスワーゲン・グループ、さらにドイツ政府はグラスゴーでの合意書にサインはしなかった。
ちなみにこのほか、サインしなかった国は中国、アメリカ、日本など、そして自動車メーカーではトヨタ、ステランティス、フォルクスワーゲン、BMWなどである。いっぽう、フォード、GM、ボルボ、メルセデス・ベンツ、ジャガー、ランドローバー、ウーバーなど24か国と6社は2035年までの目標に賛同している。
この会議の決定事項には拘束力はない故にそれぞれの国、そしてメーカーはそれぞれの内情を素直に反映させた結果であろう。すなわち世界各国に広く市場を持っている自動車メーカーは(実はメルセデス・ベンツも)、それぞれの国の事情を考えて、2035年、あるいはそれ以降でもICE搭載モデルをオファーすることになる。よって、現時点でイエス・ノーとは言えないというのがホンネであろう。
2030年までにEV化可能か? ドイツ国内EV事情は?
ヴィジョン EQXXののインテリア。47.5インチに及ぶ車幅いっぱいに広がる一体型ディスプレイを搭載
最後に、メルセデス・ベンツが2030年までに全車種をEV化することが可能かどうかの考察をしてみよう。
同社は2021年に209万台(2,093,476台)を販売、そのなかでEQシリーズは48,936台(昨年比でプラス158.4%)に達している。個別車種では、2021年8月からEQSの受注は16,370台、いっぽうでICE搭載のSクラスの出荷は87,064台だった。つまり、2021年の総販売台数に対するBEV販売の割合は23%だったというわけだ。
この数字は2021年のドイツ国内新車市場におけるBEVの新車販売占拠率(34.4%)よりも少ない。この国のBEV販売は、政府と自動車メーカーによる最大9,000ユーロ(約120万円)という高額なBEVインセンティブ(購入補助金)で支えられている。
その結果、ドイツ市場では2021年におよそ60万台以上のEVが販売された。ちなみに、最多販売モデルはVW e-UPで、2位はテスラ・モデル3、そして3位がVW ID3である。これを多いか少ないかを判断、将来を見通すのは難しいが、ドイツの環境大臣は2030年までにドイツにおけるBEVの割合を可及速やかに引き上げると語っている。
すなわち2025年までに、新車登録の3分の2、2030年には80%までに引き上げる。それまでに、正確にはドイツの道路を走っているBEVは40%、台数にして1,500万台に引き上げたいとしている。
そして、そのためには前述の補助金を2025年まで続けると宣言している。すなわちこれまでの条件が続くドイツでは、まあ青信号といえる。
いっぽう、2030年の世界市場におけるBEV販売台数だが、様々な資料を分析すると最良のシナリオで35%、台数にして約5,310万台、最悪な場合には15%、同じく約2,480万台と予想することが可能である。世界シェアおよそ2.9%のメルセデス・ベンツとしては微妙なところである。
こうした様々な状況を考慮してもメルセデス・ベンツのCOP26における宣言(コミットメント)、そして「全車種のEV化」は、同社のスローガン「最善か無か!」という企業哲学、すなわち玉虫色で中途半端なことはやらないという考え方からすれば当然の決定なのだ。
ただしこれはあくまでコミットメントである。日本語では「約束」だが、ドイツ語でのニュアンスは「努力目標を掲げた」という程度である。ダイムラー社のプレスリリースにも「世界の市場に考慮する」という条件がみれる。
ダイムラー社は、2011年にフューエルセルによるEV(F-EV)が、環境保護にもっとも有効で未来があると判断(コミット)し、BクラスF-CELLで125日間世界一周という大イベントを敢行した。私もオーストラリアのブリスベンからシドニーまで走ったが、そのあと、乗用車ではほぼ全滅、大型商用車(トラック)への可能性にシフトするという歴史も持っている。
「最善か無か!」というスローガンは、このように一気に進み過ぎるという可能性も持っているが、今回の英断は少なくともメルセデス・ベンツらしい。ただし、あくまでも「コミットメント」すなわち「努力目標の宣言」と、理解すべきである。
もちろん、そのためには実行が伴う。すでに、メルセデス・ベンツは2022年初めのCES(コンシーマー・エレクトリック・ショー)にて、一回の充電でベルリンからパリまでおよそ1000kmの航続距離を目標にしたEQXXというコンセプトを発表した。さらに、2023年にはこの車での公開実証テストも行なう。
メルセデス・ベンツの積極的な姿勢について、慎重すぎて石橋を叩いて渡るどころか、失敗に対して心配のあまり強く叩きすぎて石橋を壊してしまい、向こう側に着くことすらできない可能性のある日本政府&メーカーが見習うべき点であるかもしれない。
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みんなのコメント
ある程度規格が揃い今まで高額だったパーツ単価が下がっても車両価格は下げないどころか上がっていくのか。
出始めの頃はバッテリーもモーターも高価だったのは理解できる。
それによりEV車は高額なものと言うイメージが出来上がったためにエンジン車より安価に出来る物をエンジン車より高く売ろうって事じゃないのか?