筆者はディーラー営業マンとして、新車が購入・納車される場面に数多く立ち会ってきた。そこには、新車に対する高揚した気持ちと、これまで大切に乗ってきた愛車への惜別の念が入り混じる。
納車の際に、下取り車を引き取るが、これはユーザーのさまざまな思い出も同時に預かるということだ。本稿では、筆者の記憶に強く残る、下取り車にまつわるエピソードを紹介していきたい。
エコと安全と経済性を両立!? 大型車では必須のリトレッド技術とは
文/佐々木 亘
写真/Peugeot、メイン写真/Yakobchuk-Olena-Stock.Adobe.com
【画像ギャラリー】下取りの日、家族で磨いた思い出の愛車……プジョー 206を写真で見る
■子どもたちも大賛成の乗り換え検討
車の買い替えはオーナーだけでなく、オーナーの家族にとっても大きなイベントとなる(hedgehog94@AdobeStock)
ある日、筆者の勤務する販売店に、ご夫婦と小学校低学年くらいの子どもが2人の4人家族が来店した。
乗っていたのはプジョー 206。5ドアハッチバックが手狭に見えたその家族から、SUVへ乗り換えたいと、来店目的を告げられる。当時、人気の高かったSUVを試乗し、見積もりと、商談はトントン拍子に進んでいった。
子どもたちは、初めて訪れたカーディーラーのショールームに、少し緊張しながらも、行儀よく過ごしていた。試乗中は、とても楽しそうにクルマの乗り心地や広さに対する感想を言ってくれて、「子どもたちも気に入っているのでこのクルマにしましょう」と、商談を円滑に進めるサポート役にもなってくれたのだ。
家族全員が賛成し、すんなりと決まったクルマの買い替え。人気車であり、納車までは半年ほど時間がかかったため、下取り車の査定は、納車目安の2か月前にとお願いし、その日は注文書だけを取り交わして手続きを終えた。
■一緒に成長してきたプジョーを紹介してくれる子どもたち
下取り車となったプジョー 206。家族の思い出には当たり前のように車があった
下取りとなるプジョー 206は、走行距離が多く、年式も相応に古い。ただ、内外装の程度はよく、オーナー家族が大切に乗ってきたことは、すぐにわかった。下取り額を提示し、納得いただいて、契約手続きのすべてが完了する。
帰り際、クルマまで見送りに行くと、子供たちが私に声をかける。
「ねぇ知ってる? この傷ね、私が自転車で転んでついたんだよ。あっちはね、弟が付けたの。それからね……。」
子どもたちは、クルマの細かな傷やシートの汚れが、誰の何が原因で付いたものなのかを、丁寧に私に対して説明してくれた。なかには、お父さんの知らない傷まであって、ご両親が苦笑いする場面もあったほどだ。
新車で購入したというプジョー 206。子どもたちの年齢を考えると、生まれた瞬間から今までの8~9年、共に成長し続けた間柄なのだろう。クルマは家族同然とも言われるが、子どもたちにとっては、兄弟のようなものだったのかもしれない。
■写真とスペアキーで心に思い出を刻み込む
手元に残されたスペアキーはかつて家族と共に過ごした車の思い出の証だ(Paylessimages@AdobeStock)
納車当日、来店すると少々元気のない子どもたち。対照的にプジョー206はピカピカに輝いている。前日に家族全員で洗車し、ピカピカに磨き上げたのだとお父さんは話してくれた。
「納車の手続きに入る前に、プジョーと写真を撮りませんか?」と私は提案した。ディーラー入り口の特等席にクルマを置き、筆者のカメラでクルマを入れた家族写真を撮影する。カメラの液晶越しに、子どもたちの物憂げな顔が見えた。
勤務していた販売店には納車のために使う専用ガレージがある。新車とご対面する前に、そのガレージのシャッター前へ、プジョー 206を移動させた。
応接室で待っていたオーナー家族を呼びに行くと、子どもたちがシクシクと泣いている。「プジョーとお別れするのは寂しいよ」と訴えていた。私は「新しいクルマをプジョーと一緒に見よう」と、子どもたちをなだめ、ガレージの前へと連れ出す。
プジョーの前に子どもたちには立ってもらい、ガレージのシャッターを開ける。家族で磨いたプジョーと同じくらい光っている新車を、思い出のプジョーと目にして、少し子どもたちの表情がほころんだ。
新車の前でも家族写真を撮った。クルマの使用方法を説明したのちに、私はすぐに写真を印刷し、事前に用意しておいた3枚写真がおさまる写真立てに収納する。2枚の家族写真、そして先に撮影しておいたプジョーと新車だけのツーショット写真を添えて。
新車での出発直前、写真立ては娘さんへ、そしてプジョーのスペアキーは息子さんへそれぞれ手渡した。キーの先は少し削らせてもらって使用できない状態にしたが、プジョーのマークはしっかりと刻まれている。
下取り査定時、スペアキーはないと言われていたので、査定額の中にはそもそも含まれていなかった。スペアキーを渡すのは、私の業務としても問題はない。
プジョーとの思い出をしっかりと手にすると、二人はプジョーのもとへ駆け寄る。「バイバイ、元気でね」とプジョーとお別れをした二人は、新しいクルマの後部座席へ乗り込んでいった。
多くのクルマを納車してきたが、子どもたちが乗っていたクルマの傷の歴史を話してくれたのも、クルマとの別れが寂しくて泣いていたのも、私の納車歴では初めての出来事だった。筆者の中では忘れられない思い出であり、幼少期の記憶が思い返される体験でもあった。
* * *
実は、筆者が3歳の頃、父親がクルマを乗り換えている。マツダ ファミリアからトヨタ カムリへ乗り換えたのだが、筆者はファミリアが大好きだった。経緯は詳しくわからないが、大好きだったファミリアのスペアキーは、筆者の手元にある。もう30年以上も大切に保管してある宝物だ。
筆者がスペアキーを渡した彼が、今、その鍵を見てどう思うのだろうか。筆者としては、一人の若者がクルマを好きでいてくれる、ひとつのきっかけを作ることができたのならそれでいい。
クルマは家族の思い出をたっぷりと乗せて走っている。ペットなどには付けられる「愛」の文字(愛犬・愛猫等)だが、「愛車」というようにモノに付くのは珍しい。クルマはそれだけ、人の想いが詰まっているものなのだと思う。
下取り車には、それぞれの歩んできた歴史が、深く刻まれている。
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みんなのコメント
すぐに忘れるけどね
「アレ乗ってたんだよなあ」と云う思い出と写真が1枚有れば充分です