歴史の波間に消えゆく街テキソーラ
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。シカゴを出発して西に向かい、イリノイ州からミズーリ州、カンザス州を通り、オクラホマ州へやって来ました。今回はテキサスとの州境にある小さな街を案内します。
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「テキサス」+「オクラホマ」=「テキソーラ」
長かったオクラホマ州のルート66もそろそろ終わり。次のテキサス州からは風景がガラリと様相を変え、いかにも西部らしい壮大かつ雄大な自然を味わえる。その前にぜひとも立ち寄りたいのが、州境にある小さな街、テキソーラだ。名前でピンときた人もいるかもしれないが、「テキソーラ」はテキサス+オクラホマに由来。ただし州としては今も昔もオクラホマで、街のはずれに州境を示す看板がある。
昔はテキソクラやテキソマと呼ばれていたこの地域に、テキソーラという自治体ができたのは1900年代の頭。1902年にはシカゴ・ロック・アイランド・パシフィック鉄道が通るようになり、それに伴って人口も徐々に増加し1930年のピーク時には581人に達したという。隣接するテキサス州は綿花の栽培が主要な産業のひとつで、それらを加工する製糸工場がテキソーラに建設された。ところがルート66沿いにある多くの街と同じく、インターステートの発展に伴って衰退が始まる。1940年代から人口は減少の一途をたどり1980年には約100人、1990年は45人と全盛期に比べれば10分の1以下になってしまう。
私がテキソーラを知ったのはDVD『アメリカの母なる道 ルート66』で、発売が2001年なので現地の取材はもっと前じゃないかと思われる。壁に大きく「NO PLACE LIKE TEXOLA(テキソーラのような場所は他にない)」と書かれたレストランが印象的で、初めて訪れたときは真っ先にそのお店に行ってみたものの閉業からだいぶ年月が過ぎた雰囲気。壁の文字だけは映像で見たままなのが、逆になんとも物悲しい気分を駆り立てられた。ただし隣にはダイナー兼ギフトショップがあり、街に残った人々や旅行者が利用しているようだ。
わびさび漂う過疎の町、撮影のときはガラガラヘビに要注意
短いメインストリートをゆっくり流すと、ごく少ないが誰か生活している雰囲気の家屋はある。商業施設は先ほどのお店しか見当たらず、生活に必須なガスステーションすらない。当然ながら病院や薬局、そして警察署に消防署もだ。クルマで約10分の距離にエリックという街(といっても人口は1000人ほど)があるにせよ、ここでの暮らしを想像すると過疎に歯止めがきかないのも十分に納得できる。
名所と呼べるのは2カ所だけ。ひとつは国家歴史登録財に指定されたマグノリアのガスステーション、もうひとつはワンルーム・ジェイルと呼ばれる1室だけの刑務所だ。といっても資料が展示されているわけでも、スタッフが案内してくれるわけでもない。ガラガラヘビやコヨーテに注意しつつ、写真を撮影するくらいがせいぜいだろう。
ゆるやかに消えゆく街は一種のノスタルジーをかき立てる格好の素材だが、テキソーラは決してゴーストタウンではなく生活している人がいる。無断で敷地に立ち入ったりしないよう、訪れる際はくれぐれもマナーを忘れずに。
* * *
最後になったが、原稿を書いている最中に面白いデータを目にした。なんと2020年に国勢調査を行なったところ43人で、2010年の36人から増加しているとのことだ。日本でもコロナ禍で地方への移住者が増えたと聞くが、もしやテキソーラでも同じようなことが起こっているのだろうか?
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