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なぜオモチャのようなクルマが1000万円オーバー? 欧米セレブ御用達の「ジョリー」とは

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なぜオモチャのようなクルマが1000万円オーバー? 欧米セレブ御用達の「ジョリー」とは

■ビーチでの「甘い生活」にはジョリーが必須

 アメリカやヨーロッパのオークションを訪ねたり、カタログを覗いたりしていると「Ghia Jolly(ギア・ジョリー)」という、まるで遊園地のデコレーションカーや子ども用ペダルカーのごとく可愛いクラシックカーたちに、けっこうな頻度でお目にかかる。

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 フィアット「600」や「ヌォーヴァ500」などをベースに、イタリア・トリノのカロッツェリア「ギア」社が少量製作したビーチカー「ジョリー」は、今なお欧米のクラシックカー愛好家に熱烈な支持を受けるとともに、コレクターズアイテムとしても珍重されているのだ。

 今回は、RMサザビーズ社が2020年11月11日-20日にアメリカ本社を拠点に開催した「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品した「600ジョリー」と、「500ジョリー」へのオマージュを捧げたレプリカ車を俎上に載せ、そのヒストリーとオークションレビューをお届けしたい。

 ギア・ジョリーは、イタリアの自動車界では「スピアッジャ(Spiaggia:デッキチェア)」というジャンルで呼ばれる「ビーチカー」の代表格である。

 イタリア語のジャンル名が示すごとく、濡れた水着のままでも乗車できるようにラタン(籐)で編まれたデッキチェア状のシートを前後に配し、ルーフはいさぎよくカットオフ。ドアも取り去られた代わりに、まるでレストランやカフェのようなタッセル(飾り房)つきの布製日よけを掛けた、なんとも洒落たクルマである。

 ベースとされたのは、1950-1960年代の欧州製ベーシックカーたち。フィアット600(セイチェント)ベースに始まり、ヌォーヴァ500(チンクエチェント)やルノー「4CV」をベース車として、トリノのギア社ファクトリーで職人たちがハンドメイドで改装した。

 そして、夏のヴァカンス(イタリアではヴァカンツァ)を人生でもっとも大切なものとみなしてきた南ヨーロッパのみならず、西海岸を中心とするアメリカでもけっこうな人気を得たという。

 同じイタリアのカロッツェリアでも、ミケロッティやピニンファリーナ、ベルトーネなどとは違って、大手自動車メーカーのデザインワークや生産業務を充分に受託できていなかったギアにしてみれば、ジョリーのヒットが大きな助けになったことは間違いあるまい。

 ところが1960年代後半になると、ジョリーにとっては最大のマーケットであったはずの北米で雨後のタケノコのごとく現れた、フォルクスワーゲン「ビートル」をベースとする「デューンバギー」たちに、ビーチカーとしての需要を奪われてしまう。

 さらに1967年にカロッツェリア・ギアがデ・トマゾの傘下に入り、結果としてフォードとの関係を深めた(1973年にフォード傘下に移行)したことも相まって、一連の「ジョリー」は終焉を迎えてしまったのである。

●1959 フィアット「600ジョリー」

「ギア・ジョリー」の歴史は、のちにJ.F.ケネディ元大統領夫人だったジャクリーンの再婚相手となったことでも知られるギリシャの海運王、アリストテレス・オナシスが、フィアット600をベースとするビーチカーの製作を、カロッツェリア・ギアに依頼したことから始まったとされている。

 その後、1958年から1966年までにおよそ600台から700台が生産されたセイチェント・ジョリーは、モナコのレーニエ三世大公とグレース王妃夫妻、あるいはジャンニ・アニエッリなど、1950-1960年代を代表するセレブレティたちがこぞって愛用していたことから、ヴァカンスにおける「ドルチェ・ヴィータ」の象徴として、都市部におけるフェラーリやマセラティのごとく、大衆の憧れとなっていたのだ

 このほど「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品されたセイチェント(600)ジョリーは、1959年型で初期の633ccエンジンを搭載するフィアット600をベースに製作された1台。この時期では北米仕様のみに装備されていた、大径のヘッドライトを持つ。

 公式WEBカタログによると、新車時にサンディエゴにデリバリーされたのち、長らくカリフォルニア州に生息しているとのことである。

 近年、カリフォルニア州コスタ・メサ「テオ・マイクロカー(Theo’s Microcars)」のエキスパートによって完全なレストレーションが施されたとの由。そのレストアのレベルの高さは、タッセルのついたトップやヤシ繊維製のマット、美しいクロームワークや複雑なラタンのシート、上縁を適切に切り落とされたウインドスクリーン、そしてエンジンコンパートメントの仕上げなどを見ても明らかである。

 この極上コンディションの600ジョリーに、現オーナーとRMサザビーズ社は10万ドル-12万5000ドル、邦貨換算約1030万円-約1290万円という推定落札価格を設定したが、オンライン限定の競売では「No Sale(流札)」に終わったようで、現在でも営業部門による継続販売とされている。

■チンクエチェントベースのジョリーも、オリジナルは1000万円!?

 カロッツェリア・ギアの大ヒット作となった「ジョリー(Jolly)」は、前ページにも登場したもっとも有名なフィアット600ベースに加えて、同じフィアットでもひと回り小さなヌォーヴァ500だけではなく、少数ながらフランスのルノー4CVやフォルクスワーゲン・ビートルなどもベース車両として選択し、北イタリアのピエモンテ州トリノのギア工房にて一台一台ハンドメイドされた。

●1970 フィアット「ジョリー・カスタム(500 Rizza)」

 フィアット600やルノー4CVの「ジョリー」が、比較的余裕のあるボディサイズを利して、ビーチリゾートにおけるホテル送迎車やタクシーとしても活用されたのに対して、小さなチンクエチェントをベースとする「ジョリー」は、専らパーソナルユーズのビーチカーとして使用されることが多かったようだ。

 現在の国際クラシックカー市場では、同じフィアットでも600より500の方が人気/評価ともに高いようだが、ことギア・ジョリーについては600も500も大差なく、ともに日本円にして1000万円前後のプライスタグが付けられるのも、決して珍しいことではない。

 ただし、今回の「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品された個体は、カロッツェリア・ギア製のオリジナル500ジョリーではなく、忠実に再現したレプリカ車である。

 イタリアの首都ローマに拠点を置くレストアショップ「リッツァ・クラシック(RizzaClassic)」社によってシリーズ製作されているカスタムモデル「500 Rizza」シリーズの1台として、スタンダードの「500ベルリーナ」を大改造したクルマとのことである。

 499cc空冷直列2気筒OHVエンジンや、4速マニュアルトランスミッションなどのメカニカルコンポーネンツはすべてオーバーホールされるとともに、「ジョリー」のアイコンであるタッセル(飾り房)つきファブリック製トップや籐製のシートなど、エクステリア/インテリアの仕立ても見事に再現されている。

 また1970年型のチンクエチェントをベースとしながらも、ジョリーが製作されていた時代の「ヌォーヴァ500」用のディテールで仕立てられ、フィアットとギアによる風変わりなビーチ&リゾートカーへの、カラフルかつ魅力的なオマージュとなっているのだ。

 カスタマイズを含めたレストア以来、オドメーターに表示される走行距離はわずか140kmにすぎないことからも分かるように、コンディションは新車にも等しいレベルにあるようだ。

 この「ジョリー」スタイルの500 Rizzaは、オークショネア側に支払われる手数料込みで3万4100ドル。日本円に換算すれば約353万円で落札されることになった。

 この落札価格は、同じレベルにレストアされたフィアット500よりもかなり高額であり、ジョリーの伝説が現在でもなお健在であることを示しているともいえるだろう。

 蛇足ながら、リッツァ・クラシック社の500 Rizzaは現在でも新規オーダーが可能で、とくに現在では電気自動車へのコンバージョンを前面にアピールしていることもお伝えしておこう。

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みんなのコメント

2件
  • 日本でもNUOVA500のEVを販売しているけど550万円で航続距離が80kmなのが残念。
  • 記事の最後が余計だ。一気に冷めた
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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