車選びは難しい。ライバル関係にある二台のクルマをどちらか一台選ぶのも難しいし、同じ車種であってもパワーユニットが異なる場合は、やはり選択に迷うはずだ、人間だもの。
そんな迷える子羊たちに強引にでも指針を与えたい! というのが本企画の主旨。「これは迷うだろう」と思われる選択肢に、自動車評論家3名が正解を出す。
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3名というのがミソで、実は意見が割れる場合もけっこうある(というより今回お3方の意見が一致したのは8つのケースのうちたった一つだけだった)。
その場合は、「専門家といえども必ずしも意見が一致するわけではないのだな」と捉えてもらって、ご自身の見方に一番近い方の意見を参考にしてみてほしい。
※本稿は2019年5月のものです
文:国沢光宏、鈴木直也、渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年6月26日号
■[Case.01] RAV4買うならハイブリッド? 2Lガソリン?
●トヨタ RAV4 2L NA/価格:260万8200~334万8000円
●トヨタ RAV4 2.5L ハイブリッド/価格:320万2200~381万7800円
パワーユニットは2Lガソリンと、2.5Lベースのハイブリッドが用意されるRAV4。2Lガソリンエンジンの出力は171ps/21.1kgmとなかなかパワフルだが、ハイブリッドもシステム出力は222psと魅力的。
4WDシステムは、2Lガソリンの「アドベンチャー」グレードがトルクベクタリング式を採用するのに対し、ハイブリッドは電動4WD。
が、モーターを強化した結果、かなりアクティブな走りが可能となっている。そんな状況だからこそ、迷うのである。
■国沢光宏の判決:ハイブリッドを買うべし!
年間走行距離が少ないのなら2Lガソリンでもいい。ただ1万km以上走るのだったら、燃費のよさとリセールバリュー、税金の安さでハイブリッドと2Lの差額などカバーできてしまう。そもそもRAV4のハイブリッド、動力性能からして普通のガソリンより優れており、乗っていても楽しいです。
■鈴木直也の判決:ハイブリッドを買うべし!
新型RAV4はトルクベクタリングAWDが話題。となると、買うなら2Lガソリン仕様と思ったのだが、ハイブリッドに乗って考えが変わった。なぜなら、RAV4の2.5Lハイブリッドがえらくパワフルで、しかも電動AWDのe-Fourも驚くほど進化していたから。燃費と走りの楽しさの両立が素晴らしい!
■渡辺陽一郎の判決:2Lガソリンを買うべし!
NAエンジンは排気量が2Lだが、直噴式の採用で実用回転域の駆動力に余裕がある。回転感覚はハイブリッドより滑らかでノイズも小さい。グレードもNAエンジンが豊富で4種類を用意する。悪路走破力とカーブを曲がる性能を高めたダイナミックトルクベクタリングAWD装着車も選べるのがいい。
■[Case.02] スズキ スペーシア買うならギアか? カスタムか?
●スズキ スペーシア ギア(上)/価格:161万4600~185万6520円
●スズキ スペーシア カスタム/価格:151万7400~190万8360円
スズキの誇るスーバートール軽ワゴン、スペーシア。2代目は全車マイルドハイブリッドとなり、ホンダのN-BOXと日々アツい販売合戦を繰り広げている。
そんなスペーシアの個性派といえば迫力フェイスの「カスタム」と、SUVルックを纏う「ギア」。価格帯も微妙にカブるこの2台。はたしてどちらを選ぶべきなのか。評論家陣は以下のような判断をしたですよ。
■国沢光宏の判決:ギアを買っとくべし!
本当の答えは「どちらも選ばない」である。スペーシア買うなら、安全性や自動ブレーキ性能が圧倒的に優れているeKクロスを選ぶ。でも私が「eKクロスにしたら?」と言ってもスペーシアを買うのなら、ギアをすすめておく。理由は簡単、手離す時のリセールバリューがおそらく有利だからだ。
■鈴木直也の判決:ギアを買うべし!
スペーシアギアは、モアハイト系軽ワゴンにSUVテイストを盛り込んだ新バリエーションだ。従来は標準車が子育て中の女性向け、カスタムがそれに飽き足らない男性向けというイメージだったが、スペーシアギアはそのどちらにも当てはまらないユニークな魅力がある。今買うならコッチでしょう。
■渡辺陽一郎の判決:カスタムを買っとくべし!
スペーシアギアは、SUV風の外観と水洗いできる荷室などを備えるが、最低地上高はほかの仕様と同じ150mmだ。ハスラーとは異なり、4WDを含めて機能面のSUVらしさは乏しい。一方、カスタムXSターボは15インチタイヤとの相乗効果で走行性能が高く、ギアでは選べないカーテンエアバッグも装着する。
■[Case.03] マツダ CX-5&CX-8 買うならディーゼル? 2.5Lターボ?
●マツダ CX-5 2.5Lターボ/価格:355万3200~365万400円
●マツダ CX-5 ディーゼルターボ/価格:288万3600~365万5800円
CX-5&CX-8に2.5Lガソリンターボが設定されたのは昨年の10月。230ps/42.8kgmという出力は、従来から存在する2.2Lディーゼルターボ(190ps/45.9kgm)と比べると、なかなか悩ましい。加えて価格も、同じCX-5のLパッケージで比較した場合、ターボが355万3200円、ディーゼルが355万8600円と非常に近い。こら迷うで。
■国沢光宏の判決:ディーゼルを買うべし!
ガソリンとディーゼル、価格が同じである! このこと自体、ナンセンスだと思う。だってディーゼルのほうが圧倒的にコスト高いですから。ターボひとつ取ってもガソリンはコスト重視のしょぼいタービンなのに対し、ディーゼルはシーケンシャルツインターボ。絶対にディーゼル買ったほうが得です!
■鈴木直也の判決:ディーゼルを買うべし!
CX-5人気を牽引してきたのはディーゼル。45.9kgmの強力なトルクがもたらす余裕のドライバビリティと、ディーゼルならではの低燃費がライバルにない魅力だ。ガソリンターボは走りはほぼ同等。高回転域がスムーズなのが特徴だが、燃費では負ける。ディーゼルを凌ぐ魅力があるとは思えない。
■渡辺陽一郎の判決:ディーゼルを買うべし!
CX-5の場合、両エンジンの性能と価格はほぼ同じだが、燃料代は、軽油価格の安さもあってディーゼルが約60%に収まる。またディーゼルのエコカー減税は、燃費に関係なく免税となる。運転感覚はガソリンターボに吹き上がりの鋭さが足りず、ガソリンのメリットが希薄だ。グレードの選択肢も少ない。
■[Case.04] トヨタ 86 vs. スバル BRZ 今買うならドッチを選ぶべき?
●トヨタ 86(上)/価格:262万3320~342万3600円
●スバル BRZ/価格:243万~359万1000円
トヨタとスバルの共同開発により2012年に誕生したFRスポーツ、86&BRZ。デビュー時は兄弟間でキャラクターの違いがあったが、年を経るごとに両車とも似た感じに……。じゃ、今買うならドッチがいいの?
■国沢光宏の判決:86を買うべし!
スバルファンだというならBRZだろうけれど、今や人気度合いでいけば86優位。リセールバリューだって高いです。というか、今だとトヨタのほうが元気だし、イケててブランドイメージも高い。BRZの中古車が安いならよい買い物かもしれないけれど、新車で買うんだったら86でしょう。
■鈴木直也の判決:BRZを買うべし!
初期型の86/BRZは、操縦性のキャラがそれぞれ微妙に異なっていて、ドリフト派は86、グリップ派はBRZという説があったが、最近のモデルはサスの熟成が進んで、その差はほとんど感じられなくなった。走りに差がなくなった以上はデザインの好みで選ぶしかないわけで、ボクならBRZを選びます。
■渡辺陽一郎の判決:BRZを買うべし!
86とBRZのアナログ速度計は、目盛りが細かくて見にくい。そこでBRZは、モータースポーツ用のRAレーシングも含めて全車にデジタル表示を採用した。しかし86では安価なGにはオプションでも付けられない。またBRZには専用の足まわりなどを備えたSTIスポーツもある。
■[Case.05] ホンダ ヴェゼル買うならハイブリッド? 1.5Lターボ?
●ホンダ ヴェゼル ハイブリッド/価格:246万~281万円
●ホンダ ヴェゼル 1.5Lターボ/価格:290万3040円
132ps/15.9kgmのエンジン+29.5ps/16.3kgmのモーターという構成のハイブリッドに対し、1.5Lターボのツーリングは172ps/22.4kgmの出力。ハイブリッドはミッションがDCTというのも魅力だ。
■国沢光宏の判決:1.5Lターボを買うべし!
ヴェゼルのハイブリッド、乗ればわかると思うけれどメチャクチャ違和感ある。特に元気よく走りたいようなクルマ好きだと厳しい。ツーリングが搭載する1.5Lターボなら自然な走行感覚のうえ、けっこうエンジンフィールもよかったりする。私なら迷う余地なくターボを選択します。
■鈴木直也の判決:ハイブリッドを買うべし!
ホンダの1.5Lターボは、エンジンは悪くないのだが、いかんせんCVTがその魅力を引き出せていない。一方、ハイブリッドは7速DCT+モーターで、リズミカルに変速しつつ燃費効率よく走れるのが気持ちいい。ふだん使いでの楽しさを評価して、ハイブリッドを選んだほうがいいと思います。
■渡辺陽一郎の判決:1.5Lターボを買うべし!
ハイブリッドは動力性能が高い半面、思ったほど燃費はよくない。ハイブリッドZ Honda SENSING 4WDのJC08モード燃費は21.6km/Lにとどまる。一方、1.5Lターボは2000~4000回転の駆動力が高く、高回転域の吹き上がりも活発だ。操舵感は切れがよく、安定性も優れている。
■[Case.06] スイフトスポーツ買うなら6MT? 6AT?
●スズキ スイフトスポーツ 6MT/価格:183万6000~198万9360円
●スズキ スイフトスポーツ 6AT/価格:190万6200~205万9560円
先代の1.6L NAから1.4Lターボへとパワーユニットを変更したスイフトスポーツ。優れた性能を誇るわりに、183万6000円~と比較的安価なこともあり、高く評価する評論家も多い。
ではこのスイフトスポーツ、買うなら6MTと6ATのどちらを選ぶべきか。普通に考えるなら6MTとなりそうだが、実は6ATはレーシングドライバーの山野哲也氏をして「6MTより速いかも」と言わしめる実力の持ち主。
どっちを選ぶと幸せになれる?
■国沢光宏の判決:6MTを買うべし!
ATを選ぶという考えは最初からない。なんのためにスイフトスポーツを買うのかってことです。毎日の足として使うなら普通のスイフトで充分でしょう。しかもスイフトスポーツのAT、これといった特殊なシステムじゃなく、スポーティフィールなし。リセールバリューだってMT有利だと思う。
■鈴木直也の判決:ATも悪くないぞ!
スイスポを買うならMTでしょ! と思うけど、唯一の欠点は6000rpm弱で厳格にリミッターが作動すること。そこまでは気持ちよく伸びてゆくので、ついリミッターに当ててしまう。ATは自動でシフトアップするからそれがなく効率的。ATでワインディングを攻めるのも、意外に楽しいものですよ。
■渡辺陽一郎の判決:6MTを買うべし!
コンパクトなスイフトスポーツは峠道を走ると楽しい。ハンドルやペダルを素早く、なおかつ的確に操作する醍醐味がある。速度の絶対的な高さは問われない。こういうクルマには6速MTが似合う。シフトレバーとクラッチペダルの絶妙な操作感が、運転の楽しさをいっそう盛り上げるのだ。
■[Case.07] マツダ ロードスターを買うなら1.5L? それとも2LのRF?
●マツダ ロードスター 1.5L/価格:255万4200~325万6200円
●マツダ ロードスター 2L/価格:336万9600~381万2400円
全国産車中、最も美しいとの評価もあるロードスター。フルオープンドライブが爽快なソフトトップと、クーペライクなスタイルが魅力のタルガトップとなるRFの、ふたつのボディ形状を持つが、そこがまさにお悩みポイント。
搭載エンジンの排気量違いもあり、RFはソフトトップに比べ、かなり高額となるが、ルーフを閉めればクローズドボディとなるRFの利便性もやっぱり捨てがたい。
というわけで、評論家陣にドッチを選ぶのが正解か、相談してみましょう。
■国沢光宏の判決:エンジンパワーで2L!
RFは別に望まない。普通の幌トップで充分楽しいし耐候性もあります。問題はエンジン。海外だと2Lを選べるロードスターながら、日本だけなぜか幌トップは1.5Lしかない。2L、圧倒的に楽しいしロードスターのよさを引き出せる。幌トップの2Lで出れば、そいつをすすめます。
■鈴木直也の判決:1.5Lを買うべし!
現行ND型ロードスターは、原点に帰るというのが大きなテーマ。こういうハッキリした開発哲学がなければ、性能命のスポーツカーであえて排気量をダウンするなんてことは不可能だったろう。そういうメッセージに共感するなら1.5Lを選ぶべし。やっぱり作り手側の魂がこもってる感じがしますよ。
■渡辺陽一郎の判決:1.5Lを買うべし!
ロードスターはオープンドライブが基本だ。クローズドの時も車外の雰囲気を感じたい。そうなると2Lの電動開閉ハードトップではなく、1.5Lのソフトトップになる。ボディカラーとブラックのソフトトップが生み出すコントラストも魅力だ。1.5Lエンジンは吹き上がりがよく、運転感覚も楽しい。
■[Case.08] トヨタ クラウン vs. レクサスES セダン派が幸せになれるのはドッチ?
●トヨタ クラウン/価格:460万6200~718万7400円
●レクサス ES/価格:580万~698万円
もはや日本を代表するセダンとなったクラウンに対抗できるのは、レクサスの最新セダン、ESしかない! 駆動方式こそ異なれど、価格帯はカブるこの2台、日本で乗るのにふさわしいセダンは、いったいドッチなんだ?
■国沢光宏の判決:クラウンを買うべし!
瞬時も迷わずクラウンを選びます。そもそもレクサスは中身がトヨタなのに、全般にトヨタ車より100万~150万円も高い。だったらトヨタを買ったほうがずっとクレバーだというものです。というか、クラウンのほうが安全装備も充実していて、いいクルマ。素直にクラウンを買いましょう。
■鈴木直也の判決:クラウンを買うべし!
クラウンは2Lターボもハイブリッドもだいたい550万円ほどだが、価格表を見てビックリするのがレクサスES。標準で580万円、上級モデルでは700万円に近い。レクサスというブランドに価値があるとはいえ、ベースがカムリでこの価格は、ちょっとねぇ……。普通に考えたらクラウンを選ぶよね。
■渡辺陽一郎の判決:レクサスESを買うべし!
現行クラウンはユーザーの高齢化に対応して路線を変えた。走行性能は向上したが、伝統的な優しい乗り心地と日本的な高級感が薄れ、ベンツに似てきた。肩に力が入った印象だ。一方、レクサスESはリラックスできる雰囲気で、自然な運転感覚が魅力になる。クラウンより日本のセダンっぽいといえる。
* * *
だうだったろうか。冒頭でも触れたことだが、今回こんなにも意見が一致しないものかと、企画担当としても正直興味深く感じた部分が大きい。
それこそが自動車評論の難しさを表している、ともいえるし、逆に検証対象となったクルマが持つ性能、キャラクターのいろんな側面(=みるべきポイント)に光が当たった、ともいうこともできるだろう。
今回挙げたケースがそのまま当てはまることも少ないだろうが、3人の評論家がどの部分を重視していたかなどをぜひ参考にしていただき、クルマ選びの一助としてもらえれば嬉しい。
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