本物のスカリエッティ製デイトナ スパイダー
つい先ごろ、新型V12ベルリネッタ「12チリンドリ」が鮮烈なデビューを果たしたことによって、そのオマージュの対象と目される「フェラーリ365GTB/4デイトナ」には、にわかに注目が集まるものと予想されているようです。そんな状況のもと、2024年5月10日から11日に、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として開催されたRMサザビーズ「MONACO」オークションでは、デイトナの中でもさらに希少な「365GTS/4デイトナ スパイダー」が出品されました。今回は、その最新オークション結果についてお伝えします。
フェラーリ「デイトナ」が6億円弱で落札! スパイダーがクーペより5倍も高値になる理由とは?
自動車の領域を超え、時代のカリスマとなったデイトナ スパイダーとは?
1968年のパリ・サロンにおいてワールドプレミアに供されたフェラーリ「365GTB/4デイトナ」は、当初はクローズドのベルリネッタのみの体制だった。しかし「275GTB/4 NARTスパイダー」の後継モデルを求める北米市場からの熱心なリクエストに応えて、1969年のフランクフルト・ショーにてオープンバージョンの「365GTS/4」、いわゆる「デイトナ スパイダー」を追加デビューさせることになる。
デイトナ スパイダーは、フェラーリ・マラネッロ本社の有名なゲートを出た史上最高のストラダーレのひとつとして、多くのティフォージ(愛好家)から評価されている。ただし、ベルリネッタボディの365GTB/4とメカニズム的には同一であり、さらにドライブトレインの多くは、伝説的な275GTB/4から継承していた。
ベースとなるデイトナ ベルリネッタと同じく、モデナの「スカリエッティ」社が正規モデルとして製作した365GTS/4は、単にベルリネッタのルーフを切り取っただけではなく、ボディ補強を含めて新たに後半部を作り直したものだった。
いっぽう、レオナルド・フィオラヴァンティの主導でデザインされたグラマラスなボディの下には、古典的なチューブラーフレームが敷かれており、理想的な重量バランスを保つためにトランスアクスルが後輪にパワーを伝達した。
パワーユニットは、4391ccのV型12気筒クアッドカム。最高出力は352psをマークし、この時代としては世界最速のオープンスポーツとして認知されることになった。
そして、この圧倒的なまでの華やかさとカリスマ性は、この時代の映画人たちも大いに刺激したのだろう。1976年に公開されたアメリカ映画『激走!5000キロ』(原題:The Gumball Rally)や、レイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』を原作とし、鬼才ロバート・アルトマンの監督で映画化した『ロング・グッドバイ』(1973年公開)などの作品で、主役であるハリウッドスターたちと互角の存在感を披露していた。
こうして365GTS/4デイトナ スパイダーは、生来の目論みどおり北米を中心に人気を得ながらも、1969年の春頃から1973年までに製作されたのは、わずか121台(ほかに127台説などもあり)に過ぎないといわれている。
そのかたわら、市井のボディショップがスタンダードベルリネッタの屋根を切断してしまった「即席の」スパイダー・コンバージョンも少なからず存在しているものの、本物のスカリエッティ製スパイダーと比べると、国際市場における価値は大幅に低くなるのが現状となっている。
来歴がほぼ完璧に残されていることは、マーケット価格にも反映する?
このクルマに付属するフェラーリ・クラシケ「レッドブック」によると、このほどRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品されたフェラーリ365GTS/4デイトナ スパイダーは、「15383」のシャシーナンバーを与えられてラインオフ。
1972年3月に、当時のミラノ地区フェラーリ正規ディーラーの「M.G.クレパルディ・アウトモービリ」社に引き渡されたのち、4カ月後の7月4日、ミラノの「モトールグイ有限会社」がイタリア在住のファーストオーナーに納車した。また、その前月にミラノナンバー「MI P 83722」で初登録されていた。
スカリエッティ製のボディは「グリジオ・アルジェント(シルバーグレー)」で塗装され、キャビンには「ネロ(黒)」のコノリー社製レザーハイドが張られていた。
フェラーリの大家として知られる自動車史家、マルセル・マッシーニ氏によると、シャシーナンバー15383は、121台中48台目に製造されたデイトナ スパイダーであり、グリジオ・アルジェント仕上げで工場を出荷された14台のうちの1台であったとされる。
1974年6月12日には、シャシーナンバー15383は再びモトールグイ社を介して、2代目オーナーとなるミラノの油圧機械製造会社「CEI S.r.l.」に譲渡される。
1979年9月には、ミラノ在住のエミリオ・ジュッサーニがこのデイトナ スパイダーの3代目オーナーとなり、1980年4月、美容・化粧品会社「ロレアル」の会長として当時パリに駐在していたリンゼイ・オーウェン・ジョーンズ卿に売却した。翌月、この個体はイタリア・トリノで「TO U 90877」としてナンバー登録された。
そののち1981年までに、シャシーナンバー15383はブラックに再塗装され、リビルトエンジンを搭載して走行していたと報告されており、当時イタリアのアレッサンドリアで開催されたフェラーリのクラブイベントでも目撃されていたようだ。
1983年3月には大西洋を渡り、北米コネチカット州ダンベリーの正規ディーラー「ボブ・シャープ・フェラーリ」で販売され、のちにニューヨークのマイケル・ワインストックに売却。しばらくは表舞台から姿を消す。
しかし1993年になると再び姿を現し、今度は新車時代のグリジオ・アルジェントに戻され、1994年10月にフロリダ州在住のジョン・ウィンターに売却。彼は、サンディエゴ「シンボリック・レストレーション」社のボブ・シャナハンに、このデイトナ スパイダーをフルレストアするとともに、イエローに再塗装するよう依頼する。
そして1990年代後半に売りに出されたシャシーナンバー15383は、1998年のオークションで買い手不明のまま落札。再び表舞台から姿を消すことになる。
それから12年の時を経た2010年、カリフォルニア州バーバンクの著名なコレクションの一部として登場したシャシーナンバー15383は、フェラーリ・クラシケによって公認され、同年4月21日に「レッドブック」が発行された。
2011年1月、オークションでロンドン在住のオーナーに売却され、その後イタリアで開催されたフェラーリのドライビング・イベントにて、イエローにペイントされた同車が走行する姿が目撃されたとのことである。
そして6年後、今回のオークション出品者である現オーナーが入手したこのクルマは、フェラーリについては世界的名匠として知られる「カロッツェリア・ザナージ」とジョー・マカーリが、2年がかりでペイント総剥離のフルレストアを施す。エンジンとギアボックスはリビルトされ、サスペンションを含むそのほかの機械部品も一新された。
豪華なレッドのレザーインテリアが施され、エクステリアは魅力的なガンメタル・グレーに仕上げられた。このレストアは、2019年にローマで開催されたクラシック・フェラーリのイベント「カヴァルケード・クラシケ」までに間に合わされたという。
フェラーリ・クラシケの「レッドブック」のほか、フェラーリ社発行の原産地証明書コピー、ACIのドキュメント、そしてマルセル・マッシーニ氏によるレポートが添付された、この魅力的なデイトナ スパイダーについて、RMサザビーズ欧州本社は280万ユーロ~320万ユーロのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
これは、同じRMサザビーズ欧州本社が2023年11月に開催した「MUNICH 2023」オークションにおいて、235万ユーロ~265万ユーロというエスティメートに対して、309万8750 ユーロで落札された実績からみても、極めて妥当な価格づけと思われる。
そして、実際の競売でも、エスティメートの上限を上回る343万6350ユーロ、日本円に換算すると約5億8200万円という目覚ましい落札価格となったのは、スカリエッティで正規に架装された本物の365GTS/4デイトナ スパイダーには、しかるべきプライスが認定されること。そして来歴も事細かに残されていることが、市場価値に反映するからにほかなるまい。
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みんなのコメント
査定に全く関係ないと言われてたが?