スーパーカーとは思えぬほど快適
マクラーレンの量産プラグインハイブリッド・スーパースポーツの「アルトゥーラ」がついに日本の道を走り始めました。サーキット走行で本性を試したのに続き、今回は量産の個体でのロングドライブテストでその実力を西川 淳氏が試します。
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重いバッテリーを積んでも、マクラーレンらしい走り
今や最後となったミドシップスーパーカーだけのブランド、マクラーレン。次世代の主力となる新型モデル、アルトゥーラは2021年に発表された。マクラーレンの量産モデルといえばこれまで馬力数字とアルファベットで呼んできたが、シンプルな反面、モデルやシリーズの違いがわかりづらいという難点があった。
最近では「セナ」や「スピードテール」のようによりわかりやすいペットネームを与えることも多くなって、今回、初めて量産モデルにも「ちゃんとした名前」が与えられたのだった。アルトゥーラとは、「アート・オブ・デザイン」と「フューチャー・テクノロジー」を「ハイブリッド」した造語。そのコンセプトとパフォーマンスを知れば知るほどにお似合いのネーミングだとわかる。
生産の立ち上がりが遅れて心配したが、2022年秋、ようやく日本でも試す機会が訪れた。まずはサーキット走行でマクラーレンとしての本性を試したのだが、舞台となった富士スピードウェイでは正確無比なドライブフィールが際立つ、いかにもマクラーレン製のカーボンシャシースーパーカーらしい性能をみせたものだった。重いバッテリーを積んだ重量的なハンデなどプロレベルでない限りわからない。むしろ淀みのない車体の反応に感動することしきり。
峠道での印象はサーキットよりさらに良かった。軽さは正義というのがブランドの金科玉条だが、そのことをわかりやすく体験できるという点において正しいのはマクラーレンである。車検証上の重量もきっちり1.5t台に収めてきたから優秀だ。
まずは一級のスポーツ性能を有するモデルであることをトラックとワインディングで知った。重いバッテリーを積んでなお、じつにマクラーレンらしいモデルだと言っていい。では長距離ドライブの印象はどうだろうか。
マクラーレンといえばその名も「GT」というロングツアラー・スペシャルの存在を忘れてはいけない。何度も京都まで連れて帰ったことがあるけれど、ミドシップモデルのなかでは抜きん出て乗りやすく、疲れ知らずのスーパーグラントゥーリズモだった。もとより限定モデルや高性能版(LTなど)を除いた歴代モデルは、乗り心地に優れロングツアラーとしても秀でた存在だった。
はたしてアルトゥーラは500kmドライブでどんな走りをみせてくれるのだろうか。時間を置いて、今度は量産個体による公道インプレッション&ロングドライブを試みる。いつものように東京から自宅のある京都まで往復のロングドライブテストである。
シャシー全体の動きが手にとるようにわかる
満充電のアルトゥーラを都内で受け取った。電動(e)モードでスタートする。スペック表にはBEVとしての航続距離は31kmと書かれてあった。実際には20kmと少し程度だと思っておいた方がいいだろう。それでも都心を出発して最寄りの首都高もしくは高速道路入り口まではたどり着ける距離感だ。早朝や深夜の出発・帰宅に便利であることは間違いない。都内と洛中では電動走行で走りたいところだ。
BEVで走るからには乗り手もできるだけ落ち着いた気分でいたいもの。エンジン音が聞こえてこないぶん、余計なノイズが入ってきやすいが、マイクロチップ入りのピレリPゼロやノイズ吸収型軽量スクリーンなどのおかげもあって上級サルーンのように静かに走る。
数kmで首都高に乗ったので、バッテリーにはまだまだ余力があった。そのまま電動走行を試みる。高速道路の制限速度を守って走っている限り、BEVのままだ。空気を切り裂く音だけが聞こえてくる。ミラーあたりから聞こえてくる風切り音がかえって気になるほど静か。
バッテリー容量が残り6%となったあたりでV8ツインターボが目を覚ます。パワートレインとハンドリングのモードをコンフォートにしてクルージングを続けた。
じつに快適だ。GTよりはっきりと静かなぶん、より安楽かもしれない。刻々と変化する路面に対してつねに柔軟性をもって対処する。これぞ軽くて硬いカーボンファイバー製ボディの恩恵というもので、アシが設計通りによく働いてくれるのだ。そんなシャシー全体の動きのひたむきさが手にとるようにわかる。
クルマが道をよく知っている
途中で雨がぱらついてきた。マクラーレンのロードカーといえば2駆のハイパワーミドシップカーのみ。それでも雨中を安心して進んでいけるのが従来までのモデルの特徴で、アルトゥーラもまたそんな実績をさらに上書きするかのようにいっそうの安心感とともに走った。横風にも強いから、トレーラーの脇や、トンネルとトンネルの間でもまるで怯むことなく高速クルーズを続けることができる。
アルトゥーラの美点は視界の良さにもある。それは文字通りの意味もあるけれども、根本的には視線をつねに落ち着かせることができるからだ。車体=キャビンが安定しているうえ、路面とフロントセクションの関係性がじつにわかりやすい。だから意識して前方を気遣うまでもなく、ほとんど無意識に車体は思い通り進んでくれる。これこそ「クルマが道をよく知っている」というやつだ。
気分的にはアッという間に残り150kmとなった。そろそろ洛中を走る準備をしたい。残念なことにアルトゥーラにはリチャージモードがない(同じくV6 PHEVのフェラーリ296GTBにはある)。パワートレインをトラックモードにすれば充電が始まるのだ。
トラックモードで走ると当然ながらやや煩くなってしまう。ガソリンを余計に使っているという感覚も甚だしい。それでも京都東インターを降りる頃、バッテリー容量は99%まで回復していたので、よしとする他ない。街中は、たとえスーパーカーであっても静かに駆け抜けるのが「スーパーカー乗りの心がけ」というものだろう。
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