■20世紀最後に現れたポルシェのモンスターマシン
ポルシェが1999年のパリ・サロンで発表した、スタディモデルの「カレラGT」は、革新的なメカニズムを採用して誕生したモデルだった。
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ポルシェにとって、プロダクション化の道が閉ざされているスタディモデルは存在しないと考えられていたため、いつかカレラGTという究極のスーパースポーツがポルシェから市場に送り出されることを、ファンはこの時から確信していたのだった。
●2005 ポルシェ「カレラGT」
カレラGTの生産型は、それから4年を経過した2003年のジュネーブ・ショーで見事に誕生することになる。
生産は旧東ドイツ領に新設されたライプツィヒ工場でおこなわれたが、心臓部たるエンジンだけは伝統の本社工場──ツッフェンハウゼン工場で製造された。これは、ポルシェの伝統を熟知する熱狂的なカスタマーのための配慮と考えてもよいだろう。
ちなみにライプツィヒ工場での生産キャパシティは、1日に2台から3台。ポルシェは当初、トータルで1000台前後の生産規模を想定していたが、実際には1270台のカレラGTが、この工場をラインオフしたという記録が残っている。
このうちの644台がアメリカに輸出されたというのが、RMサザビーズによる調査結果だ。
カレラGTのスタイリングは、スタディモデルからほとんど変更を受けることなく生産型に移行したという印象が強い。
フロントウインドウの傾斜角や灯火類のデザインなど、細かい部分では若干の見直しを受けているのも事実だが、基本的なシルエットなどには一切の変更がない。
スタディモデルの段階では、オープンとともにクローズドボディが設定されるのではないかという噂もあったが、結局カレラGTには着脱式のルーフが備わるオープンボディのみだった。
いま見ても最新のスーパースポーツに見えるカレラGTだが、ポルシェのカスタマーを刺激する過去のコンペティション・モデルからモチーフを得たと思われるディテールがいくつかある。
例えばフロントマスクに精悍なイメージを与える丸型ヘッドランプは「917」から、ボリューム感溢れるフロントフェンダーの造形には「918RSKスパイダー」のイメージを受け継いだものである。
■V10を6速MTで操る「カレラGT」の希少性
カレラGTは、インテリアも実に魅力的なデザインである。
RMサザビーズの「オープンロード」オークションに出品されたカレラGTは2005年式で(デリバリーは2004年)、すでに生産から15年以上の時が経過しているが、ダークグレーで統一されたキャビンは、その年式を考えればコンディションは十分に魅力的だろう。
ちなみにドキュメントの残る最後のサービス記録は、新車でアメリカへとわたり、その後スイスへと戻った後の2020年3月のもので、この時の走行距離は1万6327kmとなっている。
●2005 ポルシェ「カレラGT」
カレラGTの基本構造体はCFRP製のモノコックタブだが、その前後にはサブフレームが接合されている。とくにシェル型のデザインを採用した、CFRP製のリアサブフレームのフィニッシュは、溜息が出るほど美しい仕上がりだ。
こうした軽量化策で、カレラGTの車重はDIN規格値でも1380kgと、極めて軽量なモデルに仕上がった。
重量がわずかに100kgというこのサブフレーム上に搭載されるエンジンは、そもそもポルシェがル・マン24時間レースへの進出を狙って開発を進めてきた68度のバンク角を持つV型10気筒DOHCである。
排気量は5.5リッターから5.7リッターに拡大され、ポルシェ自慢の無段階式カムシャフト・タイミング・コントロール機構、いわゆるバリオカムも吸気側に採用されている。
こうした結果得られた最高出力は612psと強力なもので、これに6速MTが組み合わせられた。ハイパースポーツもハイブリッド化が進み、デュアルクラッチなど2ペダル化がスタンダードになったいま、大排気量のV10エンジンをMTで操ることができるクルマが、この先登場することはほぼないだろう。
こうした意味でも、カレラGTは「硬派なポルシェ」の1台として後世に伝えられる、極めて貴重なモデルである。
今回RMオークションが提示したエスティメート(予想落札価格)は、77万5000-82万5000スイスフラン(邦貨換算約9040万-9600万円)。残念ながらわずかに予想落札価格に届かず、71万スイスフラン(邦貨換算約8300万円)が最高ビッドであった。
新車価格はおよそ5000万円ほどであったので、予想落札価格に到達しなかったものの、確実にプレミアムがついた価格をキープしているといっていいだろう。
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