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贅沢とはなにか? レクサス LC500試乗記

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贅沢とはなにか? レクサス LC500試乗記

その日、長野から新幹線で東京駅に戻ってくると、駅の地下駐車場にレクサス「LC500」が待っていた。薄暗いなか、近づいていくと、2017年3月にデビューした当時と同じ感懐が蘇ってくる。

「なんてグラマーなんだ!」。グラマー(glamour)とは、「女性のからだつきが、豊満で魅力的なさま」だそうだけれど、LCの前後フェンダーの膨らみときたら、まさにそれである。純情な筆者としては、そのような膨らみをマジマジと見ることは憚られる。

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【主要諸元(LC500 Sパッケージ】全長×全幅×全高:4770mm×1920mm×1345mm、ホイールベース:2870mm、車両重量:1960kg、乗車定員:4名、エンジン:4968ccV型8気筒DOHC(477ps/7100rpm、540Nm/4800rpm)、トランスミッション:10AT、駆動方式:FR、タイヤサイズ:フロント245/40RF21、リア275/35RF21、価格:1402万2000円(OP含まず)。ボディは全長×全幅×全高:4770mm×1920mm×1345mm。タイヤはミシュラン社製の「パイロット・スーパースポーツZP」。そこで視線をズラしてタイヤをチェックすると、21インチとある。前は245/40、後ろは275/35という前後異形。銘柄はミシュランで、その名も「パイロット・スーパースポーツZP」。しかもRFとあるから、ランフラットである。スポーティ仕様の“S package”であることの証左で、高速時にせり出す「アクティブリアウィング」を備えてもいる。

大きなドアを開けて低い位置にあるシートにヨッコラショと乗り込む。着座してしまえば、アルカンターラとレザーで覆われた茶のインテリアはあいかわらずゴージャスで、たいへんゆったりしている。

シート表皮はレザー×アルカンターラのコンビタイプ。電動調整式のフロントシートは、ベントレーションおよびヒーター機能付き。ステアリング・ホイールは大型のパドルシフト付き。ヒーター機能も備わる。スターターのボタンを押すと、4968ccのV型8気筒エンジンが野獣の唸り声のようなサウンドを発して目覚める。このV型8気筒、型式名「2UR-GSE」はもともと2007年暮れの登場のレクサス「IS F」用に、ヤマハがその開発の一端を担った。その後、「RC F」搭載時にパワーアップ、LC500では10速オートマチックと組み合わされていることが大きな特徴だ。大排気量、自然吸気という贅沢で古典的、消えゆく運命のエンジンである。

レクサスのラグジュアリー・クーペ、LCは、2018年8月に「一部改良」を受けた。ステアリングサポートという部品をアルミダイキャスト化したことによって剛性があがり、同時にブッシュ特性のチューニング等によって、ステアリングフィールが向上。さらに、「伸圧独立オリフィス」なる新しい構造のショックアブソーバーの採用により、乗り心地と操縦安定性が向上している。新構造によりショックアブソーバー内のオイルの流れがより滑らかになって、減衰力の可変幅の拡大や摩擦低減などが図られている、とプレスリリースにある。

LC500が搭載するエンジンは4968ccV型8気筒DOHC(477ps/7100rpm、540Nm/4800rpm)。なお、3.5リッターV型6気筒エンジン+モーターを搭載するハイブリッド・モデル「LC500h」も選べる。LC500のトランスミッションは量産乗用車初(当時)の10AT。標準グレードとSパッケージのルーフは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製。なぜ贅沢なのか?都内はちょうど通勤からの帰りのラッシュ時間で、首都高速は混んでいる。とりわけ5号線は北池袋までいつものごとくのノロノロ渋滞である。極太超扁平のランフラット・タイヤを履くLC500“S package”にとって、もっとも苦手な状況であるに違いない。

それがまったくそうではないところにレクサスの真骨頂がある。長旅から帰ってきて、自宅で寛いでいるような安堵感……フランク・シナトラをかけながら、スコッチを片手にシガーをくゆらせているような贅沢感だ。

LC500のエンジン・サウンドは、2010年に登場した「LFA」を意識し、チューニングされているという。インテリア・カラーは「オーカー」と呼ぶ明るいブラウン系。インフォテインメント用の10.3インチワイドディスプレイなどは標準。和風の表現をすれば、都々逸なんか(旦那じゃないので私は歌えませんけれど)こう口ずさみながら、お酒をキュッとやりつつ、隣のおねえさんに膝枕してもらったりして……、いいですねぇ、というような心持ちにさせてくれる。こういうゴージャス感に浸らせてくれる国産車を、筆者はレクサスLC500以外に知らない。

いや、2年前の昼日中、横浜みなとみらい地区で開かれた試乗会で乗ったときには、そういうよこしまなイメージは微塵もなくて、いやはや夜のとばりが妄想を膨らませるのかもしれない。隣に乗っているのは編集部のイナガキ氏だというのに……。

ドアライニングにもアルカンターラが贅沢に使われる。リアシートのスペースはタイト。成人男性が長時間乗るにはつらい。なお、バックレストは固定式。スカッフプレートは、ルーフとおなじくCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製。このゴージャス感はどこから生まれているのか。ひとつには2870mmというレクサスの中型セダンの「GS」よりも長いホイールベースを、2+2に使ったゆとりのある空間であろう。貴重な国土と資源を、実質2人のためにこれほど贅沢に使った国産車があるだろうか。

くわえて、5.0リッター自然吸気のV8という、いまやアメリカ車にも珍しいパワーユニットの豊かな中低速トルク、それを10枚のギアに切り刻んだ上、それこそ日本の伝統旅館のような慇懃さで後輪に伝えるアイシン製のオートマチックのかいがいしい働き。さらに「伸圧独立オリフィス」なる新しいダンパーが筆者の知らないところで活躍しているのかもしれない。

LC500の駆動方式はFR(後輪駆動)のみ。TFT液晶を使ったメーターパネル。中央にはデジタルの回転計、速度計。代わりに、マルチ・インフォメーション・ディスプレイを表示することもできるが、そのときメーター類は右端に移動する。8万6400円のオプションでカラーヘッドアップディスプレイを追加できる。アクセルを踏み込むと“野獣”にかわる北池袋から分岐して飛鳥山トンネル方面に向かう。ドライビング・モードをS、さらS+に切り替えてアクセル・ペダルを踏み込むと、2UR-GSEが再び野獣の雄叫びをあげる。カタカナで書くと、ガオーッ。夜の街にガオーッ。夜のハイウェイにガオーッ。びゅーんと飛んでくのである。

“S package” にはギア比可変ステアリングに、電動パワーステアリング、後輪操舵を統合制御するレクサス・ダイナミック・ハンドリングシステムなる電子制御デバイスが標準装備されている。このデバイスがドライバーに隠密剣士のごとく、ひと知れずLC500をオン・ザ・レール感覚で走らせる。

LC500のJC08モード燃費は7.8km/L。ちなみにハイブリッドモデルの「LC500h」は、15.8km/L。Sパッケージのリアウイングは格納式。約80km/hでアップし、40km/h未満で格納される。リアウイングのアップ・格納はマニュアルでも操作出来る(通常は自動で速度に応じ変化する)。車両価格およそ1400万円という高級車である。プレミアム・ブランドのレクサスは毎年進化することをモットーとしているから、発売1年ちょっとで「一部改良」がくわえられたことも驚くには当たらない。

そして、筆者のような鈍感なタイプには、それがしかと確認できないことも不思議ではない。だって、2年前に乗ったときも、なんの不満はなかった。けれど、わかるひとにはわかる磨きを入れてこそ、プレミアム・ブランドというものであろう。

ドアハンドルはポップアップ式。走行時はドアに格納される。電子キーを携帯した状態でハンドル前端部を押し込むとアンロックされ、ハンドルが電動でポップアップし、ドアを開けられる。降車時はポップアップしたハンドル後端部を押し込むとロックし、格納される。日本車離れしたLC唯一の欠点は、突然ワイパーがサッとフロント・ガラスを拭うことだ。

なぜそうなるのか? 国産車であることを筆者がつい忘れ、ウィンカー操作のとき、左手でレバーを動かしてしまうからである。

思い返せば、1980年代にはよくあった。当時はガイシャに乗ることがいまよりもっと稀だったから、ときたまそういう機会に恵まれると、進路変更の際、つい右手を動かしてしまう。もちろん、そこにあるレバーはワイパー用である。私はしょっちゅうだったけれど、たまに当時の私の上司もワイパーを動かしてしまうことがあった。その上司は必ずこうつぶやいた。「ガラスが汚れているな(笑)」

とはいえ、それはあくまで国産車からガイシャに乗り換えたときの話で、国産車でこのような恥ずかしいことをしでかすとは……。それほどレクサスLC500は、そのスケールにおいて日本車離れしている。ビンボーになりつつあるこの島国において、途方もなく資源の豊かな国のクルマに乗っていると誤解させる。

なんだかものすごくおいしいディナーを全部食べきれないまま、リブアイのステーキをちょこっと、赤ワインはまだたっぷり残っていて、デザートときたら口をつけただけ、というような気分で、私は東京はるか郊外の築数十年の小さな戸建ての自宅の前で運転席から降りたのだった。そうして、イナガキ氏のドライブで、ガオーッと叫びながら去っていくレクサスLC500を見送る。

わがニッポンはかく贅沢な自動車を生み出すに至った。しかれども、猶わが生活(くらし)楽にならざりはなにゆえか、啄木を真似て、ぢっと手を見る。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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